チェリッシュxxx 第6章

D 疑惑


「何やってんだよ? お前」
ジュンが呆れたような目線をオレに向ける。「これで2回目だろ?」
「あ〜・・・」
オレはバイクで通学しているのがバレて、停学を食らってしまった。
しかも、過去に暴力沙汰で1回停学を受けてるから、今回で2回目の停学だ。 停学を3回受けたら退学・・・ということになっている。
「いや、停学2回目なのはどってことねーんだけどさ・・・」
「良くねーだろ? あと1回でクビだぞ?」
「そーなんだけどさ・・・」
実際、オレは停学以上に衝撃を受けたことがあって、昨日からそのことばかり考えていた。

オレたちの高校はバイク通学を禁止されている。 でも、それを無視して乗ってきてるヤツらはたくさんいて、みんな近くに路駐したり、隠して停めたりしていた。
小学生の自転車みたいに名前が書いてあるわけじゃないし、警察が来て駐禁でも切られたら別だけど、学校の風紀程度じゃ現行犯でもない限り捕まることはない。
そう分かっていたから、オレも学校の隣にある工場の敷地内にバイクを停めていた。
工場の敷地内とはいっても、そこは出入りが自由に出来るような場所で、しかも工員たちも自転車やバイクをテキトーに停めている場所だったから、工場から警察に通報されたり、まして学校に連絡が行くようなことはありえないはずだった。
ありえないはずだったのに・・・
昨日、授業が終わってバイクを停めてある場所に向かったら、そこに風紀の川北と、委員と思われるヤツが立っていた。
「今野―――ッ!! これはお前の単車だな? そうだな?」
誤魔化す余裕なんかなかった。
すでにオレはカギを手に持っていたし、別な場所に隠しておいたヘルメットも手にしていた。
「とりあえず学校に戻れ! 生徒指導室だ!!」
川北が竹刀を手に学校の方に歩いていく。
・・・なんでバレた?
この場所はオレと結衣しか知らないはずなのに・・・
まさかオレが乗り入れるところ見られたとか? ・・・いや、いつもちゃんと確認してるしそれはない。
じゃ、なんで・・・・・?
いきなりの出来事にオレが驚いていたら、
「これで2回目。 あと1回なんかやったら退学だな」
と川北と一緒にいたヤツがオレを見て笑っていた。
「・・・なんだよ、テメェ」
「お前がバイクに乗ってることは知ってたけど、まさかこんなに簡単に駐輪してる場所まで分かるとは思わなかったよ」
とそいつがシートを叩いた。
「・・・触んじゃねーよ」
まさかコイツがここ見つけたのか?
こんな顔も見たことないようなヤツが、なんでこれがオレのバイクだって分かったんだ・・・?
オレがそんな事を考えていたら、
「・・・なんでオレが、このバイクがお前のだって分かったのかって顔してる」
とそいつが腹を抱えて笑い出した。
「うるせーよっ!」
そいつは笑いながら、
「いや、正確にはオレが1人で見付けたんじゃないけどね。 彼女に教えてもらったんだよ」
・・・・・彼女?
「・・・なんでテメーの女が、ここ知ってんだよ」
まさか、またアレか?
結衣と付き合う前にコイツの女をオレが寝取って、最近オレが相手しなくなったから腹いせにバイクの隠し場所突き止めて・・・とか、藤沢たちのパターンなのか?
「なんで?」
そいつはオレのセリフを繰り返してまた笑い、ポケットから何か取り出した。
「彼女・・・って、だーれだ?」
からかうような目線を向けてくる。
「・・・知るか! テメーの女なん・・・か・・・・・・ ッ!?」
ポケットから取り出したものを、そいつがオレの目の前にぶら下げる。
それを見た瞬間、体が固まった。
―――オレが結衣にあげた、ペンダントだった。
「いつもつけてて?」
と言ってオレが渡して、
「うん! ありがと、陸♪」
って結衣が受け取った・・・誕生日にあげたペンダントだ。
それをなんでコイツが持ってるんだ・・・?
「いらねぇって。 この前会ったときに渡されたんだよ。 捨ててくれって」
「・・・ふざけたこと言ってんじゃねーよ・・・」
結衣がんなこと言うわけねぇ!
っつか・・・ なんでコイツが・・・
「あれ? 信じられない? だってコレ、お前が結衣に渡したやつだろ?」
結衣・・・だと?
「・・・ちげーよ」
信じねぇ・・・ そんなの絶対信じねぇッ!
「ふうん」
そいつは口の端を持ち上げるようにして笑うと、「ま、別にいいけどね。信じなくても」
と言って、学校に向かって歩き出した。
「お前も指導室行くんだろ? 来いよ」
とそいつが顎をしゃくる。
「うるせぇっ! 指図してんじゃねーよ!」
ムカついたまま、そいつの後ろをついて行くような感じで学校に向かう。
ちょ・・・ ちょっと待て?
あれは確かにオレが結衣にあげたペンダントだったよな・・・
それを、なんでこんな顔も見たことねーようなヤツが持ってんだよ・・・
大体、結衣とこいつは知り合いなのか・・・?
風紀みてーだし、それで知り合いって可能性もなくはない。
・・・つか、さっきこいつ、結衣・・・とか呼び捨てにしてやがったよな?
―――・・・どうなってんだよ・・・
オレが動揺を隠しながら学校に向かっていたら、
「松浦」
とそいつが振り返った。
「あぁ?」
「オレの名前知りたいだろ? 普通科2年の松浦だよ」
「・・・バカかお前。 知りたくねーよ!」
オレがそう返したら、またそいつ・・・・・・松浦は楽しそうに笑って、
「つか、マジで結衣のおかげで風紀の取締り上手く行ってるよな〜。 昨日は喫煙者3人もとっ捕まえてくれたし」
「うるせぇ! 黙れ!!」
「・・・こうして、お前のバイクが停めてある場所まで教えてくれたし?」
「テメッ・・・」
オレが松浦の胸倉をつかみ上げたとき、
「コラ―――ッ!! 何やってんだ―――!! さっさと来んかッ!!」
と川北が戻ってきた―――

「マジでっ!?」
オレの話を聞いたジュンが目を見開く。
「信じらんねーんだけど・・・ そいつが持ってたペンダント、確かにオレが結衣にあげたヤツだったんだよな・・・」
「あ〜〜〜・・・」
ジュンが考え込む。「・・・でも、陸は信じてねーんだろ?」
オレはジュンの質問にはあえて答えずに、
「・・・一昨日さ、結衣がペンダントしてねーから、どうした?って聞いたら、家に置いてきたって言ってたんだけど・・・」
「ホントなのか?」
「・・・・・分かんねぇ。 ―――・・・つか、さ」
「うん?」
「・・・・・・」
一瞬言葉に詰まる。
「・・・なんだよ?」
「・・・イヤ・・・ アザがさ、あったんだよな」
「アザ?」
ジュンが眉をひそめる。 オレは、
「結衣のここんとこに」
と自分の首筋を指差した。
「お前それ・・・ キスマークじゃねーのか?」
オレは黙って肯いた。
結衣の首筋にアザを見つけたとき、結衣は、
「毛虫に刺された」
と言っていたけど、あれは毛虫に刺された痕なんかじゃない。
オレがいつも結衣につけてるからよく分かる。 ・・・・・あれはキスマークだった。
「いつもしてて?」
と言って渡し、
「うん」
と肯いて結衣が受け取ったペンダントが結衣の首にぶら下がってなくて、代わりにアザが・・・
しかも、明らかにキスマークだって分かるのに、結衣は、
「け、毛虫に刺されたからっ! それだよっ、きっと!!」
とウソをついている・・・・・
「フツーに考えたら・・・ヤッたってことだよな」
ジュンが仰け反るように椅子に寄りかかる。
・・・・・昨日一緒に帰ろうとメールしたときにも結衣は、
「ちょっと用事があるから」
と断ってきた。 何の用事があるのか聞いたら、
「ちょっと・・・」
と曖昧に返事をしていただけだった。
そしてその直後に川北と松浦が、オレがバイクを停めている場所に現れた・・・
きっとこの話をしたら、ジュンは、
「そりゃ、完全にヒカルちゃんがそいつに教えたってことだろ!? 陸が捕まるとき自分がいたらヤベェから、一緒に帰れねぇっつったんじゃね?」
って言うだろう・・・・・
信じたくないのに、ジュンと同じ考えが昨日からずっとオレの頭の中を支配している。
昨日は結衣の迎えにも行かなかった。
いや、行けなかったと言った方が正しい。
今 結衣に会ったら、オレはとんでもない事を口にしてしまいそうだ。
オレがいつまでも黙っていたら、ジュンが、
「陸は信じらんねーかも知んねーけどさ、一昨日の朝だって、やっぱヒカルちゃんが川北かそいつにチクッたとしか・・・」
「結衣がオレたち売った・・・ってのか?」
「いや・・・」
オレが睨んだら、ジュンはちょっとひるんで、「陸がいいならいんだけどさ」
「あ?」
「女なら他にもいっぱいいんだろ。 別にヒカルちゃんじゃなくても」
とジュンはクラスの女たちがたむろっている方を顎で指し示す。
確かに、女はたくさんいる。 今までだって、こっちがダメならあっち・・・と簡単に取り替えてきた。
けど、結衣の代わりになる女なんて、いるのか?
「・・・・・そー、だな」
とりあえずオレがそう答えたら、ジュンはオレの肩を叩きながら、
「陸にしては長続きした方じゃね? でも、そろそろ新しいのに替えてもいいだろ?」
と自席に戻って行った。
・・・・・ホントにもう終わりなのか? オレたち・・・
確かに今まで、どの女とも長続きしなかった。
オレの浮気が原因であることが多かったけど、付き合い始めてから女の本性が見えてきてオレの方から冷めたことも少なくない。
・・・結衣もそうだっていうのか?
ただその期間が他の女より長かっただけなのか?
1限目が始まる前に、オレがカバンを手に帰ろうとしたら(今日から3日間の停学だ)、結衣からメールが入った。
『掲示板見た。学校には来てるの?話がしたいからお昼休み体育館裏で待ってる』

「どうしたのっ? 停学って・・・」
会った途端、結衣は眉間にしわを寄せてオレを問い詰めた。「だからバイク通学なんか止めてって言ったのに・・・」
オレは結衣から目をそらして、
「・・・や。でも、それで結衣の送り迎え出来んじゃん」
「そんなことしてくれなくても良かったのに!」
「・・・なんで?」
「なんでって、それで停学になっちゃったんだよ!? あと1回で退学なんだよっ!?」
結衣が怖い顔をしてオレに説教をする。
本気で心配しているようにも見える。 それとも、それもフリなのか?
「・・・あと1回残ってんじゃん。 ヨユーだろ?」
「バカッ! 何のん気なこと言ってるの? タバコだって相変わらず吸ってるみたいだし・・・」
「だから、すぐには無理だって言ったじゃん。 そのうち止めるよ」
オレは曖昧に返事をして結衣の詰問をやり過ごしていた。
今は停学のことなんかどうでもいい。
それより気になるのは・・・ 結衣とあいつの関係だ。
結衣が本当にオレを裏切ったのかどうかだ。
「そのうちそのうちって、いつもそうじゃないっ! ・・・そうだ、もうバイトも辞めて!? どうせ届出出してないんでしょ!」
「・・・前借りした分働いたら辞めるよ」
オレがそう答えたら、
「もうっ」
と結衣は両手で顔を覆って、小さく何か呟いた。
「え?」
小さすぎて何を言っているのか聞こえなかった。「何?」
「そんなにしてまで買ってくれなくても良かったのにっ!」
「・・・・・は?」
「ペンダント! あたしアクセサリー良く分かんないし、もったいないっ! そんなことより・・・」
そんなこと・・・? って、なんだよ?
ペンダントもいらなかったって言うのか?
あんときあんなに嬉しそうにしてたのも、全部演技だったのかよ?
いらねーから、あいつに・・・松浦に渡したのか?
・・・つーか・・・
―――お前、松浦とヤッたのか・・・?
「・・・なんだよ・・・ いらねーならいらねーってオレに言えよ」
「え?」
オレの声が小さかったせいで結衣が聞き返す。「・・・なに?」
オレは結衣を見つめて、
「結衣さ・・・ それどーした?」
「それ? ・・・ってなに?」
「ペンダントに決まってんだろ」
オレがそう言ったら、結衣が目に見えて動揺した。
「えっ!? ぺ、ペンダント・・・?」
声も裏返っている。
結衣・・・・・ お前、ホントに分かりやすいな?
「いつもしててくれってオレ言ったよな? 見せて?」
とオレが結衣に一歩近づいたら、逆に結衣は後ずさって、
「ご、ゴメン! 今日もウチに置いて・・・」
さっきまでオレを詰問していたくせに、今度は慌てて言い訳しようとする。
・・・・・またウソつくのかよ?
「マジで?」
「うん! もったいなくて・・・?」
頭の血管が切れた気がした。
「結衣・・・ ウソつくなよ」
「え?」
「オレ、ペンダントどこにあるか知ってるよ?」
「え・・・えぇっ!?」
結衣が目を見開く。
「結衣と同じ風紀の松浦ってのが持ってんだろ」
「ま、松浦くんがっ!? ・・・なんで・・・」
・・・なんで、じゃねーだろっ!?
結衣が渡さなかったら、どうやってあいつがあの場に持って来れんだよっ!?
「や・・・ 実は、ペンダント・・・はね・・・ その・・・」
言い訳しようとする結衣のセリフに被せる。
「結衣に捨ててくれって頼まれたって、あいつ言ってたぞ?」
「う、ウソだよッ!! あたしそんなコト言ってないッ!! って言うか、陸、聞いて?」
「ああ! 聞かせてくれよ!! つーか、あのキスマークもあいつだろっ!?」
オレが畳み掛けるように問い詰めたら、また結衣はうろたえて、
「キッ・・・!?」
と一瞬絶句した後、「な、何言ってるの!? アレは毛虫に刺されたからだって言ったでしょ!?」
―――もう、ダメだ。
・・・結衣は全然本当のことを話してくれない。
「〜〜〜だから・・・ もうウソつくの止めろって」
自分でも驚くくらい、冷めた声で吐き捨てるようにそう言った。
「陸・・・ 違う・・・」
「バイクのことだってそーだろ。 あの場所知ってんのはオレと結衣だけだぞッ!?」
「ち、違う・・・ あたし・・・ ほん・・・ 違うッ!」
「もしかして、一昨日ジュンやヒデのこと川北に報告したのも・・・ 本当は、結衣なのか?」
結衣は目を見開いて首を振り続けている。
「・・・・・もう、結衣の言ってること、どれがホントでどれがウソなのか、全然分かんねーよ・・・」
結衣の目に涙が浮かんできた。
「・・・やっぱ、無理なのかもな。 商業科と普通科じゃ」
「な、何言ってるの・・・」
「もう終わりだろって言ってんだよ」
「陸・・・・・・」
「・・・じゃぁな」
オレは踵を返して校門の方に向かった。
「陸ッ!!」
結衣の声が追いかけてくる。「あたし、絶対やだ・・・ やだ―――!!」















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