Cube!   第1話  Everybody goesC

「それはいつだッ!」
俺は安田の胸倉をつかみ上げて怒鳴った。
「せ、先輩、落ち着いてくださいよっ」
安田は喘ぎながら、「ええと、美紀さんが加納先輩を探してたのは……3時半ごろだったと思いますけど。なんか急いでる感じでしたよ? ―――って、あっ、ちょっと加納先輩!?」
俺は安田が言い終わらないうちに廊下を駆け出していた。
さっきまで俺は、職員室で生徒会顧問の村上先生に事情聴取をされていた。昨日の生徒会室内のガラスが割られていた件についてだ。
はじめは中谷さんに状況説明をしてもらおうとしたらしいが要領を得なかったため、急遽俺が呼ばれる羽目になった。
俺も真相や犯人の目的が分からなかったし、その前の予算の件は言えなかったから、
「さぁ…… ベランダ側の戸を閉め忘れていたようなので、そこから誰か入っていたずらしたとしか思えないんですが…… すみません、自分にも分からないです」
とそんな感じで誤魔化すしかなかったのだが、そんな説明で顧問は納得しなかった。
「心当たりはないのか」
だの、
「一般生徒の反感を買うようなことをしたんじゃないか」
だの、
「大体鍵を閉め忘れるとか……気が緩んでる証拠だろう!」
だの、最後には延々説教をされてしまった。
顧問に呼ばれたのが6限目が終わった3時15分頃。それから1時間以上も絞られていたのだが……
まさか、その間に美紀からメールが来ようとは。
基本、校内でケータイを使用することは禁止されている。まあ、教師の目が届かないところではみんな使っているのだが。
俺も制服の内ポケットに入れてあったし、振動でメールがきたことには気付いていたが、まさか説教の途中でケータイを確認するわけにもいかなかった。しかし……
こんな内容のメールだと知っていたら、のん気に説教など聞いていなかったのに。
美紀がメールを送ってきたのは3時28分。安田の、
「なんか急いでる感じでしたよ?」
という話から考えても、多分待ち合わせは3時半だろう。
時間を確認する。ケータイのパネルは4時40分を表示している。
俺は舌打ちした。
美紀が犯人と接触してから1時間以上経っている。

“高弥へ
犯人に会ってきます。心配しないで。
でも、4時過ぎてもあたしが戻らなかったら、体育用具室に来て。  美紀“

「まったくあいつは……」
犯人に会ってくるだって?
そんなことして、何かあったらどうするつもりなんだ。
俺は猛然と廊下を突っ走った。
途中、何人かにぶつかって相手を倒したような気がしたが、構っていられなかった。
体育館の扉を乱暴に開ける。誰もいなかった。テスト前で、部活動は休みになっている。
体育用具室の前まで行くと、ドアが細く開いているのが見えた。
「美紀っ!」
俺は転がり込むように中に入ると、「美紀!? どこにいるんだっ?」
と叫んだ。
跳び箱や平均台の間を大股で踏み込んでいくと、美紀がマットの上に倒れているのが見えた。
「美紀っ!!」
俺は駆け寄って美紀を抱き起こした。気を失っている。
「美紀っ、美紀っ!!」
俺が何度か呼びかけると、
「―――た、たかっ……」
と美紀は薄く眼を開けた。と同時に首を押さえて顔を歪め、激しく咳き込む。
俺は背中をさすりながら、
「無理するな。首を絞められたんだ、喋らなくていい」
美紀の首筋がうっすらと赤くなっている。
「殺す気はなかったんだな。良かった……」
脅しただけなのだ。気を失わせただけで済ませたのだろう。
俺は心底安心して、ホッと溜息をついた。
「……ゆる、さ…ない…っ」
と立ち上がりかける美紀を慌てて抑えた。
「おいっ!」
「…っ、放し、て…よっ」
振り払おうとする美紀の手をつかんで、
「まだろくに喋れもしないくせに、どこに行く気なんだよ!?」
「だ、…って」
「いいから座れって。―――誰なんだ?」
俺は美紀と並んでマットの上に座った。
「分から…なかった」
「え? だって、犯人に心当たりがあったんだろ?」
「うん…… でも、男…だったのよ。あたしは、女だと……ッ」
と悔しそうに喉をおさえた。
「もういいよ。お前が無事だったんだから。―――まだ苦しい?」
「うう、ん。大分……ラクに、なってきたから、も、へいき……ッ」
と言いながら、まだ咳き込んでいる。
俺は美紀の頭を胸に抱き寄せるようにして、
「ゴメン。すぐに来てやれなくて」
と謝った。
「いいの。こうして……来てくれたんだし」
「しかし、許せないな」
俺は美紀の首筋に唇をつけて言った。「ここにアザを作っていいのは俺だけなんだ」

翌日の土曜日。
本来だったらテスト前で部活動は休止中のはずなのだが、クラブハウスに人影があった。
その男はあたりをキョロキョロ見回すと、野球部の部室に入っていった。
俺は少し間を空けて、野球部の部室の前に立った。
細くドアを開けて中の様子を窺う。中にいるのは2年でキャプテンの神田。
神田は何かに夢中になっているらしく、俺には全く気付いていなかった。
俺は静かに部室内に滑り込んだ。
神田がこちらに背中を向けて、なにやら数えている。
俺はその背後に回ると、神田の手元を覗きこんだ。
一万円札が見えた。
やっと背後の気配に気付いた神田が振り返る。
「誰だっ!」
神田は俺を見ると顔を強張らせた。「お前……っ 副会長の加納!?」
俺は神田を見下ろして、
「生徒会室から金を盗んだのは、お前たち野球部だったんだな」
「―――バカ言うなよ。何の証拠があるって言うんだ」
神田は後ろ手に万札を隠すと、引きつったような笑みを浮かべた。
「じゃ、その札数えさせろよ。どうせまだ使ってないんだろ? 全額あるんじゃないのか?」
と言いながら俺が一歩近づくと、
「だからっ! どこにそんな証拠があるのかっつってんだろっ!? 42枚全部に名前でも書いてあったのかよっ!? ええっ!?」
と神田は頬を引きつらせながら言い返してきた。
その子供じみた反撃に呆れながらも、
「誰が盗まれた金額を言った? 42万だって」
と突っ込んでやると、神田は目を見開いて絶句してしまった。
何か言おうとしているのだろうが、言葉が出てこないようだった。口だけがパクパクと動いている。
俺は部室の隅に立ててあったバットを1本1本手に取り調べた。すると、中に1本、明らかに硬いものを叩いたような跡が残っているバットがあった。よく見ると、細かいガラス片も付着している。
「これで生徒会室のガラスを叩き割ったんだな。―――ちゃんと証拠は始末しとかなきゃダメだぜ」
神田は青くなって、ガタガタ震えだした。
「が、ガラスは割った。だけど、金を盗んだのは俺たちじゃない!」
神田はバンと机を叩いて立ち上がった。
「意外と諦めが悪いんだな」
「本当だっ! 信じてくれっ」
神田は俺にすがりついて、泣きそうな声をあげた。
「じゃあ、どうしたって言うんだその金は」
俺は神田が手にしている札束を見下ろした。「生徒会予算なんだろ」
「こ、これは……っ」
神田も札束を見下ろし、しばらく躊躇ってから口を開いた。
「……ゆすり取ったんだ」
「誰から?」
「決まってるだろう。会計の早川って女だ」
そこへドアを開けて美紀が飛び込んできた。
「しっかり録らせてもらったわよ」
手にはICレコーダーを持っている。「よくも首を絞めてくれたわね!」

「はじめにね、おかしいな、と思ったのよ」
生徒会室で、中谷さん、和歌子さん、洋子に安田、加えて美紀と俺が顔を合わせていた。
「生徒会室が荒らされていたのは、金庫の鍵を探してたからってことなんだけど、そもそも鍵が生徒会室に置きっぱなしになっているって知ってる人間は生徒会役員だけでしょ? 一般生徒が犯人だとしたら、鍵探しなんてしないで、直接金庫をこじ開けるなり、壊すなりしているはずなのよ。仮に、どこかで鍵が室内に置いてあることを偶然知ったとしても……」
と言いながら美紀は書類が入っている戸棚の方に移動した。
この戸棚は上半分がガラスのはめ込まれた引き戸、下半分は全面スチール製の引き戸になっている。
美紀はその下段の戸の前にしゃがみ込むと、
「こんなところに隠してある鍵を、なんの情報もなしにあんな短時間で探し出せるわけないもの」
とその引き戸の1枚をレールから外した。裏側に、マグネットで付けられるキーボックスが貼りつけてある。
この引き戸は立て付けが悪くなっており、半分までしか開かないようになっていた。加えて棚の中にはファイルがびっしり詰め込まれていて、簡単には奥の方まで手が届かないようになっている。
俺たちはそれを利用して金庫の鍵を保管していた。
棚の中を探すやつはいるかもしれない。
けれど、立て付けの悪い扉をわざわざ外してその裏側まで確認するやつはいないだろうと踏んでの隠し場所だった。
「こんな場所30分やそこらで探し出せるわけないのよ。ってことは、生徒会の人間が故意に犯人に教えたか……犯人そのものってことになるわ。生徒会室をメチャクチャにしたのは外部犯だと思わせて自分は無関係だと思わせたかったから。でも、結局鍵を使ったことで外部犯説の方が弱くなっちゃったのよね」
たしかに、時間的に金庫の鍵を見つけ出すのは、生徒会に無関係のヤツには難しい。
「でも、生徒会室の入口の戸はどうやって開けたんですか? 役員の中に犯人がいるとしたら鍵を持ってる会長と加納先輩が怪しいってことになりますよね?」
安田が眉間にしわを寄せる。
「会長は42万を盗むほどお金に困ってないし、第一、泥棒なんて出来る才覚のある人じゃないわ」
一同が大きく肯く。中谷さん1人が複雑な顔をしていた。
「となると……」
と安田が恐る恐る俺の方を窺う。「先輩もグル……」
「俺は関係ない」
「でも、それしか方法は……」
と安田がしつこく食い下がろうとしたところで、
「待って! 実は鍵がなくても生徒会室に入ることが出来るのよ」
と美紀が。
「ええっ!? どーやってっ!?」
「こじ開けた跡もなかったのに……」
と一同が驚く。美紀は二コリと笑うと、
「それを今から証明するわ。高弥、安田くん、ちょっと手伝ってくれる?」
と俺たちを手招いた。
「なんですか、美紀さん!」
安田が張り切って立ち上がった。
「やれやれ…… 今度は何をする気なんだよ」
美紀は俺と安田を従えて生徒会室を出ると、俺に戸の鍵をかけさせた。そして、鍵をかけた戸を指差して、
「さ、外して」
と言う。
「? 鍵を、か?」
ワケが分からないのでそう聞くと、美紀は、
「戸を、よ」
と両手を広げた。
生徒会室の戸は蝶番を使ったドアではなく、レールの上をスライドする引き戸だった。
美紀に言われるまま安田と二人で鍵がかかったままの戸を持ち上げるようにすると、戸が2枚一緒にレールから外れた。
「……驚いた! こんなこと出来るのね」
和歌子さんが目を見開く。
「初めに金庫の鍵の隠し場所を聞いたとき、開かない引き戸は外せばいいんだって気が付いたの。彼女は野球部の人に手伝わせて、この戸を外したのよ」
「これでトリックは分かったけど、どうして亜希子が野球部にゆすられてたの?」
洋子が言った。
「それはコレだよ」
俺はテーブルの上に定期テストの問題を置いた。
「これ……っ」
「亜希子はテスト問題を、全学年全科目盗んでコピーして売ってたんだ。それを野球部のヤツに見つかってゆすられた。それで金の工面をつけるために生徒会予算に手を出したんだ」
「実は、彼女は問題が出来上がるたびに、先生の目を盗んでテスト問題を持ち出し、生徒会室でコピーしていたみたいなの。ほら、最近カウンターと利用者ノートの集計が合わないことが多いって言ってたでしょ」
確かにそんな話を美紀にしたが……よく覚えてるな。
俺が驚いていると、
「問題が完全に手に入る前に、コピーの事が野球部にバレて予算に手を出したんだけど、まだ手に入っていない科目があった」
「それが2年の代数幾何ね」
と和歌子さん。美紀は肯きながら、
「予算を盗んだ後に、やっと代数幾何の問題が出来上がったんだけど、生徒会室は予算を盗まれた直後で管理が厳しくなっていたからコピーが取りづらくなった。でも、問題を校外に持ち出している時間はないわ。すぐに先生に見つかっちゃうもの。だからチャンスは1回しかなかった」
「いつ?」
「あの、生徒会役員会議があった日よ」
あの日は、同時に職員会議も開かれていた。教師にバレないうちに返すには、その短時間でコピーをするしかなかったのだ。
だから、野球部の神田に手伝わせて、生徒会室から人払いさせるためにガラスを叩き割った。
その間に、生徒会室に……あのベランダ側のガラス戸から入り込みコピーを行ったのだ。
「そういえばお前、犯人が亜希子だってどうやって絞り込んだんだ?」
実は、美紀が体育倉庫に呼び出しをかけていたのは亜希子だったのだ。亜希子は神田に行かせたのだが。
「ほら、あの会議があった日のあと、2人でここに調べに来たじゃない」
と美紀が俺を振り返る。
「ああ。あの、あんたたちがここで抱き合ってキスしてたときね」
洋子がからかうように俺を見た。
「な、なんですかっ、それは! 僕は知りませんよっ!? ―――いえ、なんでもありません」
安田が怒ったように立ち上がり、俺の顔を見て慌てて椅子に縮こまる。
俺は咳払いをして、
「そんなことはどーでもいいだろ」
「あのときあたしたちより先に誰かが生徒会室に入ったって分かって、これは会議に遅れてきた早川さんか内沢さんのどちらかかも、って思ったの。その後、忘れ物を取りにきたっていう早川さんかなって絞ったんだけど…… 決定的になったのは上靴かな」
「上靴?」
全員が聞き返した。
「いくらホウキで掃いたとしても細かいガラスは残ってたはずだから、上靴の裏についてると思ったのよね。あの日の昼休み、みんなは生徒会室に入ってないはずだから、上靴にガラス片がついているのは犯人と、忘れ物を取りに来た早川さんだけってことになるでしょ」
「あれ? あのとき、忘れ物だっていって生徒会室に入ってきたのは……」
「早川さんだけよ。会長も永井センパイも内沢さんも入ってきていないの。それはたしか」
あの日の帰り、美紀はちょっとだけ昇降口から出てくるのが遅れたのだが、その間に亜希子と洋子の上靴の裏を調べていたというのだ。
で、洋子の靴の裏は何もついていなく、亜希子の上靴にのみガラス片が付着していたという……
「あのとき、そんなことやってたのか」
「じゃ、先生は代数幾何の問題がなくなって騒ぎになってるんじゃない?」
「うーん、そんな感じしないからまだ気付いていないんじゃないかな。多分、原本もコピーも見分けつかないから、コピーしたヤツをすぐに返しておいたんだと思う」
みんな複雑な表情で美紀の話を聞いていた。
「実は…… みんなは知ってると思うけど、亜希子は会長が好きだったんですよ」
「ええっ? 僕をっ!?」
中谷さんが素っ頓狂な声を上げる。
「だからいつも会長と一緒にいる和歌子さんが羨ましくて、逆恨みしていたみたいなんです。予算の袋を和歌子さんの机に入れておいたのも亜希子なんです」
「そうだったの……」
和歌子さんは複雑な表情で呟いた。
「そうだ。右手はもう大丈夫ですか?」
俺は和歌子さんの右手を見て尋ねた。
「うん、もう包帯も取れるわ」
「それも亜希子の仕業なんです。ごめんなさいって、謝っておいてくれって言われました」
俺は亜希子の言葉を伝えた。
野球部の神田に白状させたことを話すと、亜希子はすぐに、
「ごめんね、高弥……」
と言って、その日の内に退学届けを自ら出したのだ。
「よく亜希子と野球部が繋がってるって分かったね」
中谷さんが珍しくまともなことを言った。
「体育倉庫でいきなり首を絞められたとき、顔は見えなかったんだけど襟元と袖口から黒いシャツが見えたの」
あのあとそのことを美紀に聞き、俺はそれがアンダーシャツだと気付いた。
「ええっ! 首を絞められたって、大丈夫なのっ?」
和歌子さんが美紀を心配する。
「もう平気です。ほら、腫れも引いてきたし」
と言って美紀は首筋を見せた。
「本当。よかったわ」
「もう無茶すんなよ?」
俺は美紀を睨んだ。美紀は、ごめんね、と言いながら舌を出した。
本当に分かっているのか、こいつは……
「……あら? このアザみたいなの、なんなの?」
洋子が美紀の襟元を覗き込んで、「首を絞めた痕にしちゃ、変ね」
と俺の方を振り向いてニヤリと笑う。逆にギクリとする俺。
「な、なんだよ」
「なんなんですか?」
安田がキョトンとして聞く。
「いーよ、お前は。余計なこと聞くなっ!」
と制する間もなく、
「これはズバリ、キスマークでしょ。高弥〜?」
と洋子が爆弾を落とす。
「ええっ!?」
安田が叫ぶ。直後、がっくりと肩を落とした。
「高弥が…… いつも僕にポンポンものを言ってくる高弥からは想像がつかないよ」
中谷さんが感心したような声を出した。「高弥って、大人だなぁ」
俺はいたたまれなくなって、
「み、美紀っ! 帰るぞっ!!」
とカバンを肩にかけた。
「ねえ、ところでこの代数幾何の問題、どうするの?」
と洋子がプリントを手にし、「写させてもらってもいいかなぁ」
と猫なで声を出す。
「ダメダメ!」
と和歌子さんが問題用紙を取り上げた。「2年生だけなんてズルイじゃない!」
中谷さんも、
「そうそう、これは先生に返しておくよ」
とさっさと問題をしまってしまった。
俺は内心がっかりした。
これで数学はバッチリだと思っていたのに……
「仕方ないわね、諦めましょ。高弥、帰ろっか?」
え?
美紀にしては珍しくあっさりと諦めたもんだな……
「……ああ、そうだな」
「送りオオカミになっちゃダメよ。高弥」
という洋子のありがたい(?)言葉に送られて、俺と美紀は生徒会室を出た。
それにしても良かった。
42万全額は戻らなかったが、あの野球部の神田はまだ40万近くを残していて、それを回収する事が出来た。
不足分は後日キチンと返済してもらう約束になっている。
「今、何時?」
校門を出たところで美紀がケータイを開く。「帰りにマックあたりでテスト勉強でもしていかない? 代数幾何」
「珍しいな。美紀から勉強なんて言葉が出てくるなんて」
俺が美紀の発言に驚きながら、「でも、チラッと問題見たけど相当難しそうだったな。あれならやってもやらなくても大して変わりないかもしれないぞ」
と言うと、
「だから、今のウチに解いておくのよ」
美紀はなにやらカバンの中から取り出した。
「まさか……」
「うふっ。見つけたとき2枚コピーしておいたの」
代数幾何の問題である!
「……もしかして、怒る?」
美紀が恐る恐る俺の顔を覗き込む。俺はそんな美紀の肩を抱いてキスすると、
「最高! 愛してるよ、美紀!」
と言って歩き出した。

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