Happy Birthday 真由



今日は7月16日。
真由の誕生日だ。

プレゼントも用意してある。

今年は思い切って、指輪をプレゼントすることにした。
小さいけど石もついている。
初めは、真由の誕生石でもあるルビーが付いたものにしようと思った。
けれど、どうせあげるなら石の中でも頂点に立つダイヤモンドにすることにした。

―――え? サイズはちゃんと合ってるのかって?

合ってるに決まってるだろう。 オレに抜かりはない。
もちろん、真由に直接聞くとか、そんな格好悪いことはしていない。
オレは何事も、人に気付かれずにいつの間にか、というように事を運ぶのが好きだ。
オレは(勉強やスポーツでもそうだけど)努力しているところや必死になっているところを人に知られるのが嫌いだ。
だから真由の指輪のサイズも、真由気付かれないように調べ上げた。
オレは真由の家庭教師をしているんだけど、そのとき・・・ 真由がちょっと席を外したときに、机の上に置いてあったジュエリーボックスの中からソッコーでひとつ指輪を抜き取り、ポケットに入れた。
すぐに返しておけばバレないだろうし、仮に、
「あれ? あの指輪がない・・・」
となくなったことに真由が気付いたとしても、
「どっかに置き忘れたのかな? ・・・ま、いっか!」
とそんなに気にしないに決まっている。
このときばかりは、真由の 決して几帳面とは言いがたい性格に感謝する。

そんな感じで、プレゼントも用意できた。

次は、コレを渡す場所だ。

平日だから遠出とかは無理だけど、せっかくだからレストランで食事をすることにした。
その食事の最後に渡すってのもいい。





「うわ〜♪ あたし、こんなお店入るの初めて」

と言いながら真由が店内を見回す。
次々に運ばれる料理。
それを、

「すっごく美味しいっ! メグも食べてみなよっ!」
「・・・同じの食ってるよ」
「あ、そっか!」

なんてオレに突っ込まれながら食べる真由。
それを眺めて笑うオレ。
そんな食事も終わり、コーヒーを飲んでいるときに、オレはポケットから小さな包みを取り出す。

「誕生日おめでとう」
「え・・・ もしかして、これ・・・」

プレゼントが指輪だと分かり、頬を赤らめる真由。
指輪といったら、彼氏からもらうプレゼントの代表格みたいなものだ。
真由は嬉しいような恥ずかしいような顔をする。

「手、出して」
「う、うん・・・」

指輪を真由の左の薬指にはめてやる。
すると真由は、

「メグ、ありがと・・・」

と言いながら、目を潤ませる―――・・・・・
























―――シュミレーション完了!




パーフェクトだ・・・
一分の隙もない計画だ。
もう、店の予約も入れたしメニューのコースも決めてある。

「彼女の誕生日なんで」

と、その店で一番いい窓際の席まで押さえてもらった。

・・・・・ちなみに、デザートは頼んでいない。

・・・え?
コース料理でデザート無しは締まらない?
真由だってそれを楽しみにしてるだろうって?

大丈夫。
レストランには頼んでいないけど、デザート自体は用意してある。





オレは、いつまでも自分の薬指を眺めている真由に声をかける。

「そろそろ出ようか」
「え・・・ だって、まだデザートが・・・」
「デザートなら、オレんちに用意してあるから」
「え? なに?」

戸惑いながらオレのあとについてくる真由。
そんな真由の耳元に唇を寄せて、

「デザートは、オ・レ」
「は・・・? ・・・―――はぁっ!?」

意味が分かり、途端にトマトのように真っ赤になる真由。

「最高に甘いデザートにしてやるよ」
「〜〜〜エ、エロ―――ッ!!!」

と言いつつ、オレが差し出した手に真由が手を重ねてくる。
ウチに近づくにつれ、いつの間にか指を絡め合うようにして繋がれる手。
それに力が入り・・・・・























―――パーフェクト!!!




非の打ちどころがないとは、この事だ。



そんなことを考えていたら、いつの間にか今日の授業が終わっていた。

「涼。 オレ今日の部活休むから、頼むな」
「は? 珍しいじゃん。 なんで?」
「・・・ばーちゃんの法事だから」

オレがそう言ったら、涼は 一瞬キョトンとした顔をしたあと、腹を抱えて笑い出した。
祖母が亡くなっている事は本当だけど、今日は法事じゃない。
前に涼が部活をサボったときにそうウソをついた事があったから(しかもそのとき、涼は部活をサボって真由と一緒にいた!)、だからオレも同じように言ってやった。

「いいね、法事! 真由にヨロシクなっ!」
「ああ」

涼は勘がいい。




1度ウチに帰ってからレストランの前で真由と待ち合わせをした。

「うわ〜♪ あたし、こんなお店入るの初めて」

窓際の席に案内され、真由が店内をキョロキョロと見回す。

「このお肉、すっごくおいしいね! メグも食べてみる?」

とフォークを差し出そうとする真由。

「オレも同じの食ってるよ」
「あっ、そっか!」

・・・・・怖いぐらいにシュミレーション通り。
この先の展開を思い描き、思いがけず緊張と期待が高まってきた。
―――落ち着け!
何度もシュミレーションしたんだ。 慌てる事はない。
今日は、テキトーな理由をつけて両親とも帰りが遅くなるように仕向けたし、プレゼントだってちゃんとポケットに忍ばせてある。
あとは、この食事が終わるのを待つばかりだ・・・・・

料理が終わり、カップに残ったコーヒーがわずかになったとき、オレはポケットに手を入れた。

・・・ッ!?」
「えっ?」

・・・・・声が裏返ってしまった。

「メグ?」
「いや・・・ なんでもない」
「そ?」

・・・・・慌てるな。
真由はそんなオレの様子に気を留めるでもなく、恭子や津田沼の話なんかをしている。
気を落ち着け、カップの残りに口を付けながら再びタイミングを窺っていたら、

「・・・デザート遅いね? もう紅茶なくなっちゃうよ」

と真由がっ!
―――グッドタイミングだ!
ちょっと順番が狂いそうになったけど、こんなこと想定の範囲内だし、すぐに修正がきく。

「デザートはともかく、渡したい物が・・・」

とオレがポケットから指輪の包みを出そうとしたとき・・・・・


「Happy Birthday!!」

と、誰かがオレたちのテーブルにやってきた。
思わず真由と一緒になってその声の方を振り返る。


「誕生日おめでとう、市川!」
「え・・・ 矢嶋?」

目の前にケーキを持った矢嶋が立っていた・・・・・
―――って、なんでっ!?

「カレシがデザート頼むの忘れてたみたいだから! これはオレからのプレゼント!」
「えぇ!?」

なんで矢嶋がこんな所にっ!?
つか、ケーキって・・・・・ えっ!?

「すっごーい! ウェディングケーキみたい!! ありがとっ、矢嶋!」

いきなり目の前に現れた、フルーツや花でデコレーションされたケーキに感動する真由。

「どーいたしまして♪ 喜んでもらえて嬉しいよ。 じゃあな、千葉!」

ぶん殴りたくなるほどの笑顔をオレたちに向けて、矢嶋は去って行った・・・・・


なんで矢嶋が出て来るんだよ・・・
しかも、なんでケーキなんか・・・・・ッ!!
これじゃ・・・ ―――オレのスペシャルプランが台無しじゃねーかっ!!

「すっごく美味しいよ! メグも食べなよっ!」
「あぁ・・・」




オレのスペシャルプランが・・・

オレのパーフェクトプランが・・・・・・ッ!!



矢嶋――――――ッ!!

お前、ゼッテー許さねぇっっっ!!!




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