パーフェ☆ラ 第6章

G プリーズコールミー・・・


結局、クラスの方も部の方も、あたしが行ってもいる場所はないから、そのまま保健室に居座っていた。
・・・試合はどうなってるだろう・・・・・
すごく気になる・・・
けど、あたしが見に行ったら、きっとメグは嫌がるに決まってる。 前に部活中に見に行こうとしたときも嫌がられたし・・・
それにヤジマにも、来なくていいって言われたし・・・
でもでも・・・・・
そんなことを悶々と考えていたら、
「ちょ・・・ 体育館がスゲー事になってんぞ!!」
と廊下から話し声が聞こえた。
「バカみてーにシュート決めるヤツに、あの優等生の千葉が超ムキになってるって!」
ドキン、と大きく心臓が跳ね上がる。
もしかして・・・ ヤジマとメグが・・・
見に行こ!と廊下を走って行く子たちを確認するように、あたしも保健室から顔を出した。
どうしよう・・・ すごく気になるよ・・・・・
こっそり見に行っちゃおうかな・・・ 見つからないように・・・・・
そう思ったときには、すでに足は体育館の方に向いていた。
ちょっと痛む足を庇いながら、小走りで体育館に向かう。
体育館は想像以上の歓声に包まれていた。 去年も涼人気ですごかったけど、今年はそれ以上の人がいる。
これだけ人がいたら、見つからないですむかもしれない。
ギャラリーを掻き分けながら、コートに近づいた。 第3クォーターの最中だった。
5点差で総武が負けてる・・・
メグがボールを弾ませながら、大きな声で何か・・・数字?を叫んでいる。
こんな近くでメグの試合見るの初めてだ。
前は、メグに見つからないようにこそこそ見てたから・・・
・・・って、今も見つかりたくないのに変わりはないんだけど・・・・・
「あっ!?」
ドリブルをしながら中に切り込もうとしたメグに、桜台の選手がぶつかった。
笛が鳴り・・・ どうやら桜台のファウルだったみたいだ。
メグがフリースローラインに立つ直前、すれ違った涼に何か耳打ちしたみたいだ。
涼が眉間にしわを寄せている。
・・・・・なに言ったんだろ?
メグはフリースローの1本目をキレイに決め、2本目は・・・残念ながら外してしまったみたいだ。
そのリバウンドを涼が取り損ねる。 メグが、いつもはソフトな顔を歪めた。
すごく真剣に試合をしているメグの顔。
絶対勝つんだっていう思いが溢れるような、メグの顔・・・
そんなメグを見ていたら、胸が苦しくなってきた・・・・・
笛が鳴り、第3クォーターが終了した。 選手たちがそれぞれのベンチに戻っていく。
メグやヤジマに見つからないようにこそっと行ったつもりが、
「真由ッ!」
とすぐにヤジマに見つかってしまった。
「お前・・・来んなっつったのに・・・ 痛みは?」
「や、全然へーき。 うん・・・」
周りのみんながあたしたちに注目する。
やっぱり、さっき、
「バカみてーにシュート決めるヤツ・・・」
って言われてたの、ヤジマだったんだ・・・
みんなが注目していたヤジマがあたしのところに来たことに、驚いた視線が集まる。
ヤジマはちょっと屈むようにしてあたしの膝を気にしながら、
「・・・試合終わったら、大事な話あるから」
と周りに聞こえないような小さな声であたしに話しかけた。
「え? ・・・なに?」
「それはあとでのお楽しみ♪」
とヤジマは身体を起こした。
「なにそれ・・・」
そうしている間にインターバル終了の笛が鳴った。
「とにかく勝つよ! お前はただ応援してくれればいいから!」
とヤジマは笑った。
・・・・・あたし、さっき・・・ メグのことばっかり目で追ってた・・・
ゴメン、ヤジマ・・・
「・・・頑張ってね」
ヤジマは軽く肯くとコートに戻って行った。 ヤジマがコートに戻るとすぐ、
「ねぇっ!? 市川さん、今の誰っ!? 知り合い?」
そばに立っていた女の子に聞かれた。「紹介してくれないっ!?」
ちょうど試合が始まったのをいい事に、聞こえないフリをした。
それにしても・・・
前にも思ったことだけど、バスケってなんて試合展開が早いんだろう。
あっという間にスコアが動いていく。
「また入った!」
その中でもヤジマは群を抜いて得点を重ねている。
総武がみんなで平均的にシュートを打っているのに対して、相手は得点の半分以上ヤジマが稼いでいるように見える。
―――ヤジマも必死で勝ちに行っている。
そう思ったら、胸の動悸が止まらなかった。
何も考えられなかった。
ただ目の前で行われている試合を見ているだけで、精一杯だった。
桜台がリバウンドを取り、長いパスをヤジマに出した。
それにメグだけが追いついていく。
ヤジマはフェイントをかけてメグを抜き、ジャンプしてシュートしようとした。 けれど、メグもそれにすぐついて行って・・・

・・・・・一瞬何が起こったのか分からなかった。

そのまま2人が床に崩れるように倒れこむ。
「え? え? なに、今の?」
2人がなかなか立ち上がらないから、周りもざわつき始めた。
あたしも、何が起こったのか全然分からなかった。
ただ・・・ なんとなく、ヤジマがジャンプしたあとも何か特殊なことをしようとしていて、それをさらにメグが止めようとして・・・
それでバランスを崩したように見えた。
また笛が鳴り、審判や他の選手たちがメグとヤジマの周りに集まる。
審判とメグたちが何か話して、2人ともコートの外に出た。 代わりの選手が出て、すぐに試合が再開する。
はじめざわついていたギャラリーも試合が再開されると、またそっちに意識を戻した。
「ご、ごめんっ! ちょっと通してっ!!」
あたしは2人のことが気になって、慌ててベンチ近くまで移動して行った。
どうしたんだろう・・・ 怪我、したのかな・・・
すぐ立てなかったみたいだし・・・ 相当ひどいのかも知れない。
先生や控え選手たちがざわざわと集まる中に、メグが座り込んでいるのが見えた!
―――メグッ!!
思わずメグに駆け寄ろうとして、
「―――オレはこっち!」
と急に腕をつかまれた。
「あ・・・」
振り返ったら、ヤジマがやっぱりメグと同じように床に座り込んでいた。
あたし、またメグのことばっかり―――・・・
「捻ったみてー」
ヤジマが少しだけ顔を歪める。
「大丈夫? テーピングでいけそう?」
そばにいたマネージャーらしき女の子がヤジマの足をみている。
「や・・・ ちょっとキツめに捻ったかも。 保健室借りてくるわ」
「そんなにひどいのっ!?」
とマネージャーは心配したあと、「ちょっと・・・ 待ってて?」
とベンチの方を振り返った。
するとヤジマは、
「いや、お前は残ってていいよ。 ・・・真由!」
と言ってあたしを見上げた。「保健室、連れてってくれる?」
「あ、うん・・・」
ヤジマに肩を貸すようにして立ち上がらせた。
一瞬だけ視線をメグの方に走らせたら・・・ メグはベンチの選手にテーピングしてもらっているみたいだ。 今日は早坂はいないらしい。
ヤジマほどひどくはないのかな・・・
全然様子が分からなくて心配だけど・・・ けど、今はヤジマについて行かないとならない。
「歩けるの?」
ヤジマに肩を貸しながら、再び保健室に向かう。
「ん、なんとか・・・」
ヤジマはヒョコヒョコと痛めた方の足を庇いながら歩く。
うっかりすると意識が別な方向に行きそうになるのを押さえながら、ヤジマを支えた。
すると、せっかくそっちの方に行かないように保っていた意識を、
「・・・千葉も足・・・痛めてんじゃねーかな? 着地おかしかったし・・・」
とヤジマが。
ちょっと・・・ せっかくそっち考えないようにしてるのに・・・・・
「そーなんだ・・・」
「オレが先に転んで、千葉はオレを避けようとしたんだよな。 そのせいで着地に失敗した感じだった」
ヤジマが短く状況を説明してくれた。
けれど、あたしにはどうすることも出来ない。 メグを心配することも・・・出来ない。
今はヤジマのことを考えなくちゃいけない。
保健室に行ったら、
「また来たの?」
と保健の先生が呆れた顔をした。
「や、今度はオレが」
とヤジマが笑う。
「仲良く2人で足怪我しちゃったのね」
先生はそう言って笑いながらヤジマの足に湿布を貼ると、手際良く包帯を巻いていった。
「一応病院行って診てもらいなさいね? 捻っただけか・・・もしかして捻挫、なんてことになってるか、ここではハッキリ分からないから」
「うぃーす」
とヤジマがふざけたら、先生はヤジマを叩くフリをして、
「私、ちょっと出るけど・・・ 休みたかったらベッド使っていいから」
と言って、保健室を出て行ってしまった。
「ベッド使っていい、だって。 ・・・信頼されてんのかな?オレら。 それとも試されてる?」
ヤジマは笑いながらあたしを見上げ、「・・・試しちゃう?」
と手を握ってきた。
「ヤジマ・・・」
ヤジマは一瞬だけ眉を寄せたあと、
「・・・なんてな。 冗談だよ」
と顔を伏せた。
あたしもなんて言っていいのか分からなくて、顔を伏せた。
そのまま2人ともしばらく黙っていた。
ときどき、保健室の外の廊下を歩く人の声が小さく聞こえるだけで、保健室内はとても静かだった。
「あっ、あのねっ、ヤジマ・・・」
あたしが思い切って話し出そうとしたら、
「オレら、スゲー気ぃ合うよな?」
ヤジマが握ったままだった手にぎゅっと力を込めてきた。
「え・・・ う、うん・・・」
「笑いのツボなんか?チョー 一緒だし! それってスゲー大事だと思わね?」
「・・・だね」
そう言って、また沈黙・・・
繋いでいるあたしの手を、ヤジマがその指先で微かになでる。
「・・・・・でも」
その指先が止まる。「やっぱ・・・ 友達以上にはなれねーのかなぁ・・・」
―――ヤジマッ!!
「・・・・・ごめんなさい・・・」
あたしがそう謝ったら、ヤジマはやっぱり笑って、
「うん。 ケッコー楽しかったし・・・ いいよ、終わりにしても」
とあたしの手を離した。
「ホントに・・・ごめん」
「いいって! 気にすんなよ! ・・・青春のいい思い出?ってやつだよ!」
わざとノリ良く言って・・・ あたしに気を使わせないようにしているヤジマ。
なんでヤジマはそんなに優しいんだろう。
そんなヤジマを、どうしてあたしは選べないんだろう・・・
胸が、苦しい・・・
「行くか。 あんま遅いとあとからウルセーこと言われそうだし」
とヤジマが立ち上がる。
「足、大丈夫なの?」
そう言いながらあたしもそれに続こうとしたら、
「・・・・・市川」
とヤジマが振り返った。
「・・・最後に、2つだけお願い聞いて」
「え・・・?」
なに? と聞き返す前に、ヤジマがそっとあたしを抱きしめてきた。
「ちょ、ちょっと・・・ ヤジマっ!?」
慌てて離れようとしたら、
「ちょっとだけだから・・・ こーさせて?」
とヤジマの笑っているような、泣いているような・・・ そんな声・・・
「ヤ、ジマ・・・?」
そんなヤジマの声に身動きできなくて、大人しくヤジマの腕の中におさまっていた。
ヤジマの腕・・・ あったかい・・・・・
しばらくそうしていたら、
「・・・市川。 オレの下の名前、覚えてる?」
とヤジマが。
「え? ・・・うん」
「じゃ、呼んで?」
ヤジマがちょっとだけ身体を離してあたしを見下ろす。「・・・それが2つ目のお願い」
驚いてヤジマを見上げた。
・・・・・そんなことでいいの・・・?
そんなことで許してくれるの?
前は騙してキスしてきたりしたじゃん!
こんなチャンスないんだよ?
あたしいっぱいヤジマのこと傷つけたし・・・ なんだって要求する権利あるんだよ?
なのに、なんで・・・ そんなことで・・・いいの?
思い切って、
「・・・ゆー、すけ・・・?」
と呼んだら・・・・・
―――ヤジマを下の名前で呼んだことなんかなかったから、ぎこちなくなってしまった。
ヤジマはちょっとだけ吹き出して、
「発音がヘンだった。 もっかい!」
と人差し指を立てた。
「え〜っ? ・・・じゃあ ・・・ゆーすけ?」
「ん〜〜〜・・・ もうちょっとだな」
もしかして・・・ 遊んでない?
「ゆうすけ」
「もう1回」
もうっ!
「祐介っ!!」
怒鳴るようにそう呼んだら、ヤジマはあたしを見下ろして、
「なに? 真由・・・」
とあたしの名前を呼んだ。
「え・・・」
その、あたしを見下ろすヤジマの目が優しくて・・・ 急に胸が詰まってしまった。
「真由・・・」
そう言いながら、再び抱き寄せられた。
ヤジマの腕から、温かさが伝わる・・・・・
優しいヤジマの、優しい腕・・・・・
「祐介ッ!」
あたしもヤジマの背中に手を回した。「祐介・・・ ゴメン・・・ ゴメンね」
ホントにゴメン。
いっぱい傷つけて、ごめん。
優しくしてもらったのに、何も返せないままで・・・ ごめんね・・・・・
「・・・んっ! もーいいよ。サンキューなっ!」
ヤジマはいつもの明るいノリでそう言うと、あたしを解放した。
「ホントにゴメンね」
あたしがもう1回謝ったら、
「もう謝んなってっ! そんなに謝られたら、オレがチョーかわいそうなヤツっぽいじゃん!」
とあたしのおでこを突いてきた。
「ヤジマ・・・」
「そんな顔すんなって! オレはもう全然気にしてねーし・・・ 市川よりいい女見つけるし! こう見えてオレって意外とモテんのよ?」
・・・うん。 分かるよ。 ヤジマ、すごくいいヤツだもん。
すごくカッコいいもん。
けど、
「・・・なに言ってんの」
ヤジマがいつものノリだから、あたしもそれで返す。
あたしに気を使わせないために、あえていつものノリだから・・・ だから、あたしもそう返す。
「千葉と・・・ 上手くやれよ?」
それは・・・ どうかな・・・
・・・・・約束できない気がする・・・・・ けど・・・
「ありがと」
とあたしも笑顔を返した。


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