be mad for Love  #3


「いや・・・ や・・・ あぁッ」
ほんのりと上気し、苦しそうに眉を寄せた顔がたまらなく扇情的な市川。
「好きだ・・・ 市・・・いや、真由が好き」
「んっ! ぁ・・・やめッ・・・ あ、はぁッ」
「真由・・・」
わざと音を立てて胸の先を舐めた。 もう片方の胸も、その先を弄びながら強く揉みほぐす。
「やだ・・・ あっ あんッ!」
そこに甘く歯を立てたら、市川の身体が大きく跳ね上がった。 その反応が、またオレの脳を揺さぶる。
市川が立てた膝を擦り合わせる。
「イヤ・・・ んっ! あぁんッ!」
市川も感じてるんだと思ったら、嬉しくなってきた。
頭では拒否していても、オレの動きに合わせて喘いでくれる市川がたまらなく愛しい。
「も・・・ ホントに、やめて・・・?」
「なんで? ・・・だって、感じてんじゃん」
「そっ、そんなこと・・・」
真っ赤になった顔でオレを見上げる市川。 チョー可愛い。
「じゃ、確認しちゃおっかな〜?」
「ダメッ!!」
「聞こえな〜い♪」
「矢嶋ッ!!」
胸を揉んでいた手をスカートの裾のあたりに滑らせたら、市川が慌てて叫んだ。
それでオレも一瞬動きを止める。
「もう・・・ ホント、ふざけるのもいい加減にして・・・」
息を弾ませながら、市川がオレを睨む。
「・・・・・・ふざけてねーよ」
本気だよ。
さっきから何回も言ってんじゃねーか。 市川のことが好きなんだって・・・
発狂しそうなほど本気で市川のことが好きなのに、なんでそんなこと言うんだよ・・・
つーか、ホントは市川だって分かってんだろ? オレの気持ち。
なのに、なんでそうやって流そうとするんだよ。
ちゃんと聞けよッ!!
市川がまつ毛を伏せる。
「・・・とにかく、ホントに・・・ 手 放して・・・」
「・・・・・どーしても?」
市川が黙って肯く。
ホントに? どーしてもオレのものになってくんないの?
こんなとこまできて?
オレも市川も・・・ 気持ちはこんなに昂ぶっているのに?
なんで・・・ッ!?
オレがいつまでも捕らえた市川の手を放さないでいたら、
「・・・痕が残ったら・・・・・・」
と市川が小さく呟いた。
瞬時に体温が上がった。
痕が残ったら・・・・・?
痕が残って、オレとのことが知られたら困るって言うのか?
・・・・・誰に?
「・・・千葉にバレたら、困る?」
オレがその名前を出したら、市川が驚いて目を見開いた。
そんなこと分かってた。 はじめから分かってた。
でも、頭では理解できていても、感情がついていかない。
放してやろうかとも一瞬思ったけど、
「・・・やめた。 ぜってー放してやんねー・・・」
「えっ!? ちょ、矢嶋ッ! いったッ!」
市川の首筋に噛み付くように口付けた。
中途半端に捲りあげたシャツが邪魔だった。 すぐに下着ごとシャツを剥ぎ取って唇を胸に這わす。 ふたつの膨らみの間をきつく吸い上げて痕を残してやる。
好きで好きでたまらなくて、大切に抱きしめたいと思っているのに・・・
なぜか身体がいうことを聞いてくれない。
「やっ、やだぁッ! はぁッ、あ、んんッ!」
胸の先を咥えたまま、手を市川の脇腹から腰のラインに這わせた。 そのまま腿をなでる。
「や、はぁっ」
擦り合わせる膝を割って、自分の足を入れた。 腿をなでていた手をスカートの中に滑り込ませる。
「イ、イヤッ」
―――小さな下着が濡れている。 オレの愛撫に市川の身体がちゃんと応えてくれている。
「・・・やっぱ、感じてんじゃねーか」
「ひゃ・・・ あ!? いやぁッ」
迷わずショーツの中に手を差し入れた。
「すっげ、濡れてる・・・」
そのままそこを前後に擦る。
「あぁ・・・ッ や・・・ イヤ・・・んっ!」
仰け反った市川の首筋に唇を寄せて、
「気持ちい?」
舌先で耳の付け根辺りをくすぐる。
「・・・ンッ!」
しばらくそうしたあと、ショーツの中の指の動きをちょっとだけ変える。 溢れる雫を絡ませて、その入り口あたりに浅く中指を差し入れた。
「こことか?」
「あっ、あぁんッ!」
市川が大きく吐息を漏らし、同時にまた雫まで溢れさせる。
「・・・ここなんかは?」
「や・・・ やっ!」
中指はそのままに、親指の腹でその手前の硬くなった芽を擦り上げた。
市川が狂ったように鳴きながら首を振る。
オレも発狂しそうだった。
早く市川の中に、張りつめた熱いモノを沈めたい・・・
けど、ここじゃ狭すぎて・・・・・・
一瞬迷ったあと、オレは慌てて片手でベルトを外した。 ズボンのホックとファスナーも下ろす。
「市川・・・ ちょ、こっち来て」
熱に浮かされたような顔で、ぼうっとしている市川の腕を引き寄せる。
「え・・・ ッ!? や、やだっ!!」
瞬時にショーツを脱がせて、壁に背を預ける格好で座り込んだオレの上に市川を跨らせる。
市川は焦って逃げようとしたけど、その腰を押さえつけてオレの方に抱き寄せる。
「あ・・・ イヤッ!!」
現れたオレの下半身に気付き、市川が驚いて顔を背けた。
「・・・市川・・・ お前が入れて?」
「やっ、ヤダヤダッ!!」
「お願い・・・」
市川は目を閉じて千切れそうな勢いで首を振っている。 オレはまた首筋を舐めながら、胸の先を弾いた。
「あっ! いやんッ!!」
「ほら・・・」
押さえつけていた腰をそのまま下ろさせようとしたら、市川が力を入れてそれを阻む。
「・・・力 抜けよ」
「む、無理ッ!! そんなのしたことないッ!!」
「・・・・・千葉とも?」
市川が顔を伏せて肯く。
「・・・だから、絶対無理・・・ ンッ!」
乱暴に頭を抱え込んで、強く唇を合わせた。
愛しくて愛しくてどうしようもない。
もっと優しくキスしたいのに・・・
この胸を掻きむしられるような感情のせいで、そう出来ない。
「・・・スゲー好きだ。 愛してる」
ちょっとだけ唇を離して、市川を見つめる。 市川も息を弾ませながらオレを見ていた。
「・・・大丈夫だから・・・ 腰下ろして」
「や・・・ ダメだよ・・・ あんッ!」
胸の先を摘んだらまた市川が仰け反った。 その耳元に唇を寄せて、
「怖くないって・・・ すぐ気持ち良くなるから・・・」
「でも・・・ あ、あんっ!」
―――もう我慢の限界だ!
オレは市川の返事も聞かずに、強引に市川の腰を引き寄せた。
「やっ! あぁんッ!!」
一気に押し入ったら、市川がその呼吸を止めた。
「・・・きっつ・・・」
市川の中は凄く熱くて・・・ 緊張で力を入れているせいか、もの凄く狭かった。
「ちょ・・・ 力抜けって」
「や・・・ はぁッ! ・・・む、無理・・・」
ちょ・・・ マジで抜いてくれよ・・・
じゃないと、オレ、すぐイッちゃいそうだよ・・・
慌てて快感を逃がそうと、市川の首筋に唇を這わせた。 左手で腰のラインをなぞりながら、右手で胸に刺激を与える。
「あ・・・ はぁ、はぁ・・・ ん!」
市川がオレの肩に両手をついて浅い呼吸を繰り返す。 少しずつだけど、市川の身体から力が抜けてきた。
そろそろ動いても大丈夫・・・か?
「・・・動くぞ?」
「や・・・ だ、め・・・」
小さな市川の抗議を聞き流し、市川に腰を押し付けるように少しずつ動かした。
「・・・お前も好きに動いていいよ」
「む、無理だよぉッ! あ、あんッ!!」
「・・・こう」
「やっ、やだっ!」
市川の腰を掴んで前後に振ってやる。
そのままオレも腰を動かした。
「すげ・・・ 気持ちいーよ・・・」
「はぁ、はぁっ! あんっ」
オレの肩に手を付いたまま、市川が顔を伏せる。 亜麻色の髪がサラリと前に落ちてきて、うなじがあらわになった。
・・・すげー色っぽい。
その亜麻色の髪も、色っぽいうなじも、オレの律動に合わせて小刻みに揺れている。
はじめは苦しそうに寄せられていた市川の眉が、切なそうなそれに変わる。
「気持ちい?」
「やっ!」
そう聞いたら、市川の中が余計に締まった。
「気持ち良くなってきたんだろ? ・・・スゲー濡れてんだけど」
「そ、そーゆー、こと・・・ ンッ! い、言わない・・・でッ!」
また市川の中が締まる。
「つかさ・・・ オレと千葉とどっちがい? オレのがいーだろ?」
オレの言葉に市川の中が反応するのが嬉しくて、調子にのってそんなことを言ってしまった。
「バ、バカッ!」
市川が潤んだ瞳でオレを睨んできた。「・・・そーゆーこと言ったら・・・ あんたのこと嫌いになるからッ!!」
本気で怒っている市川の瞳。
「・・・ウソだよ。 ゴメン・・・」
即座に謝った。
・・・もうそんなこと聞かないから、嫌いにだけはならないで?
市川がまつ毛を伏せる。
オレが馬鹿なことを言ったせいで、市川に千葉のことを思い出させてしまった。
何やってんだ、オレは・・・・・・
「ゴメン・・・」
オレはもう一度謝って、「もうヘンなこと言わないから・・・ オレのことだけ考えて?」
「ん・・・ッ!」
繋がったままそっと口付けた。 何度も向きを変えて市川の唇を食む。
そのまま少しずつ腰の動きを再開させる。
「あ・・・ あっ・・・」
オレが余計なことを言ったせいで、
「冷めたか?」
と思ったら、市川はまたオレの動きに合わせて吐息を漏らした。 ホッと胸をなで下ろす。
・・・ゴメンな、市川。 ヘンなこと言って・・・
もう千葉のこと思い出させたりしないから。
―――思い出せないくらい、気持ちよくしてやるから。
繋がったまま敏感な芽にも指を這わせた。 指の腹でそこを擦りあげる。
「あぁんッ! や、やめ・・・ あ、あ、あぁッ!」
市川が悲鳴に近いような嬌声を上げて、オレの肩を強く掴んだ。
市川の中が、別な意思を持った生き物のように蠢く。
「・・・ぅ・・・あ・・・ マジ気持ちいー・・・」
意識ごとどこかに持っていかれそうな感覚。
「アッ・・・ は、あんッ!」
全身が蕩けそうなほどの快感。
「・・・や、矢嶋・・・ アッ」
乱れた前髪の隙間から、市川が潤んだ瞳をオレに向ける。
そんな目で見つめられたら・・・・・・ 今すぐイってしまいそう・・・・・・
「あ・・・ あた、し・・・ んっ!」
潤んだ瞳がわずかに細められる。「あたし・・・ も、もう・・・・・ッ!」
その先は声にならず、ダメ、と唇だけが動いた。
・・・イクのか?
「・・・いいよ。 オレも、もう・・・・・・ イキたいッ」
そう言い終らないうちに市川の腰を引き寄せ、想いの全てをぶつけるように腰を打ちつけた。
市川の身体が激しく揺さぶられる。
市川・・・ 好きだ・・・・・ 好き・・・・・・
「ぁあッ!」
市川の顔が一瞬苦しそうに歪められ、同時に中が引き絞られるように蠢いた。
―――イ、イクッ!
「ンッ!」
微かに残っていた理性をフル稼働させ、慌てて引き抜いた。 コンマ何秒かの差で間に合った。
けど、受け止めるものがなくて、そのまま市川の腿の辺りに白濁したものを吐き出してしまった。
もの凄い勢いで心臓が早鐘を打っている。 市川もオレと同じように激しい息遣いで肩を上下させていた。
「・・・市川・・・・・」
市川をギュッと抱きしめる。 汗ばんで髪が絡みついた首筋にそっと口付けた。
「スゲー気持ち良かった・・・ 愛してる」
市川は何も言わなかった。
ただ少し眉を寄せて、困ったような恥ずかしいようなそんな顔でオレを見たあと、目を伏せた。
まさか・・・ 後悔してるとか・・・・・・ じゃ、ないよな?
市川だって、オレを感じてくれてたよな・・・?
そんな不安を打ち消すように、また力いっぱい市川を抱きしめた。
しばらくそうしていたら、
「服・・・・・・ 着るね」
と市川がちょっとだけ身体を離した。
「ん・・・」
ホントはもっと抱きしめていたかったけど、こんなとこじゃいつ誰が来るか分からない。
さっきは夢中で、そんなことにまで頭が回らなかった。
雨が小降りになってきたことにも、今気が付いた。
「わり・・・ 汚れてるかも」
はじめに市川にかけたTシャツで、市川の腿に付いた痕を拭き取る。
「・・・平気。 どうせ雨で濡れてたし・・・」
市川は腕で胸を隠すようにして、「・・・あっち、向いてて」
「ん」
言われたとおりに後ろを向く。
冷静な自分が戻ってくる。
・・・・・・しかし、なんつーとこでヤッてんだよ。 オレら・・・
初めてが公園の築山の中って・・・
「夜景が見えるベイサイドのホテル!」
・・・とまでは行かなくても、せめてオレの部屋とか・・・
次は絶対、ちゃんとしたとこで・・・・・・
「・・・もういいよ」
振り返ったら、すっかり身支度を整えた市川が、髪をなでながら オレからちょっと離れた所にしゃがみこんで視線を外に向けていた。
・・・・・なんでそんなに離れてんの?
そんな不安なセリフを飲み込んで、
「雨・・・ あがってきたな」
市川に近づいて肩越しに外を覗く。
「・・・あたし、行くね?」
市川がカバンを持ってトンネルの外に出る。
「あ、待てよ! 送ってく!」
オレも慌てて外に出た。
まだパラパラと降ってはいたけど、空は大分明るくなってきている。
夏特有の夕立だったらしい。
児童公園と市川んちは目と鼻の先の近さだ。 その近距離を2人とも黙ったまま歩いた。
オレはもっと市川と一緒にいたい気持ちでいっぱいだけど、市川は・・・・・・どうなんだ?
「・・・なんか言われねーかな。 市川んちの親に」
沈黙が耐えられなくてテキトーに話し出した。 話題なんかなんでもよかった。
「え?」
市川が顔を上げる。
「びしょ濡れで帰ってきたらビックリすんじゃん。 何やってんの!風邪引くでショ〜!・・・とか?」
市川は、ああ、と小さく呟いて、
「今日ウチの親もいないから・・・」
「え?」
「会社の社員旅行なの。 だからメグんちの親もウチの親もいないの・・・ だから・・・」
と言ったあと、また市川は口をつぐんだ。
・・・だから・・・ 千葉んちに行く予定だったのか・・・
市川の言葉の先を想像したら、落ち込むより前に吐き気にも似たものが腹ん中に溜まってきたのを感じた。
さっきは全身でオレを感じてくれていた市川が、やっぱり千葉のものなのかと思い知らされて・・・
腹の中に、黒いドロドロとしたものが渦巻いてきた。
「・・・じゃあ・・・」
市川んちの真下まで来たところで、市川が俯いたままそう言った。
「ああ・・・」
そう返事はしたけど、オレは黙って市川の前に立っていた。
・・・・・このまま別れていいのか?
なんか、あのあとから市川 オレを避けてるっぽいし、アレのせいで今後気まずくなるのは絶対イヤだ。
かといって、また今まで通り ただの友達に戻るのはもっとイヤだ。
・・・・・どうしたいんだよ、オレ・・・・・ッ
何か市川に言いたいのに、喉の奥で声が絡み付いて何をどう話していいのか分からない。
オレがいつまでも市川の前で突っ立っていたら、不意に市川が顔を上げて、
「・・・風邪とか、引かないようにね?」
とオレの瞳を覗き込んだ。
―――市川ッ!!
急に色んな思いが胸に溢れてきて、そのまま市川の腕を掴んで抱き寄せた。
「や、矢嶋・・・?」
・・・そうやって、市川はいつもオレの心を掴んで放さないんだ。
市川は全然そんな気なく言ってるんだろう。
けど、何も計算できない市川が、ちょっとしたときにみせる優しさが好きだった。
オレが吐いたとき、
「そりゃそうだよね」
と笑いながらオレの制服を拭いてくれた市川。
怪我が治ったばっかりだっていうのに、バスケのことばっかり夢中になっているオレに、
「あんまり無理しないでね? バスケもいいけど、身体の方が大事だよ」
と心配してくれた市川。
今だって、オレが黙って突っ立ってる間、さっさと部屋に戻ればいいのに、それをしないで、
「風邪とか引かないでね」
って、やっぱり気にかけてくれる市川・・・
千葉のものだって知ってる。
心も身体も、全部千葉のものだって知ってる。
けど、それでも諦められないこの想いは・・・・・ どうすればいい?
「ちょ・・・ 矢嶋? 放して!?」
「・・・やだ」
「ねぇっ! 矢嶋ッ!!」
腕の中の市川がオレから逃れようともがく。 その肩を掴んでちょっとだけ身体を離し市川を見下ろした。
「・・・今から、市川んち行っていい?」
「えっ!?」
「今日、親いないんだろ?」
「ちょ・・・っ!? 何言ってんの? ダメだよッ!」
市川が慌てて首を振る。
「もっとちゃんと市川を抱きたい・・・・・・つか、あんなんじゃ全然足んねーよ」
「矢嶋・・・」
オレを見上げる市川の瞳が揺れている。
その顎に手をかけてちょっと上を向かせ、口付けた。
軽く触れるだけのキス。
「・・・いいだろ?」
「・・・・・・無理、だよ・・・」
「なんで? 千葉だって他の女とやってんだろ? じゃ、いーじゃんッ!!」
「やめて! そんな風に言わないで!」
「なんであんなの庇うんだよっ! つか、オレにしろよっ!? オレだってお前のことずっと―――・・・!」
オレがそこまで言ったところで言葉を切ったら、市川が眉を寄せてオレの顔を覗き込んだ。
「―――・・・矢嶋?」
「―――・・・・・・」
・・・・・一体、いつからそこにいたんだろう・・・
全然気がつかなかった・・・
「・・・なに?」
オレが市川の背後を凝視していたら、市川も振り向いた。
「ッ! メ、メグ・・・ッ!?」
市川が息を飲む。
―――千葉が階段の踊り場に立っていた。
「・・・・・おかえり」
千葉はそのままゆっくり階段を下りて来た。「雨・・・ 降られたんだ?」
そう言って市川の髪に触れる。
「う・・・ うん・・・」
「風邪引くだろ? さっさとウチ帰って、シャワー浴びろよ」
「・・・うん」
と目を伏せたあと、「あ、あの・・・」
市川が遠慮がちにオレの方にチラリと視線を寄越す。
「市川・・・」
オレが市川に話しかけようとしたら、
「いーからウチ入れって。 ・・・オレはこいつに話あるから」
と千葉がそれを遮り、オレの方を振り返った。
市川は一瞬迷ったあと、黙って肯いて階段を上がりかけた。
「市川ッ!!」
思わず市川を呼び止める。市川がちょっとだけ振り返った。
オレ・・・ このまま別れたくねーよ・・・
「・・・・・ゴメン、矢嶋。 あたし、どーかしてた・・・ だから・・・」
そう言って市川はまつ毛を伏せた。
「・・・・・だから?」
「・・・・・・」
そのまま市川は黙ってしまった。
どーかしてた、だから・・・・・・?
だから、なんだよ?
―――アレはなかったことにしろって言うのか・・・?
冗談じゃねーよッ!!
「市・・・ッ」
「何やってんだよ? さっさと部屋入れって言ってんだろ?」
また千葉に遮られた。
「・・・ごめんなさい」
千葉に対して謝ったのか、それともオレに対しての謝罪なのか・・・ 市川はそう呟くと踵を返して階段を駆け上がって行った。 その背後に千葉が、
「ちゃんとシャワー浴びとけよ? ・・・あとで行く」
最後は、わざとオレに聞かせるように顔をこちらに向けた。
市川は返事もしないで、そのまま駆け上がって行った。 慌しくカギを開ける音が聞こえ、続いてドアを開閉する音が聞こえた。
階段に静けさが戻ってくる。
「・・・・・ふざけんなよ」
「どっちが」
オレが千葉を睨んだら、千葉も睨み返してきた。
「ちゃんとシャワー浴びとけ? あとから行く? ・・・何様なんだよ」
「オレが自分の女に何言おうが、お前に関係ないだろ」
「誰がお前のモノだって決めたっ!?」
オレがそう怒鳴ったら、千葉はちょっとだけオレを見たあとそのまま階段を上がっていこうとする。
「オイッ、待て!! まだ話終わってねーだろっ!?」
その腕を掴んだら、千葉が眉間にしわを寄せてオレを見下ろしてきた。
「・・・・・泥棒猫と話してるヒマはない」
「ぁあっ!? テメェ、誰が泥棒猫だってんだよっ!?」
「お前以外に誰かいんのか?」
「テメェ・・・ッ!!」
思わず千葉の胸倉を掴み上げた。
「・・・放せよ」
千葉も殴りかかってくると思ったら、ただそう言ってオレの手を払いのけた。
「こんなとこ近所のヤツラに見られたら、何言われるか分かんねーだろ」
「・・・カンケーねーよ。そんなこと」
ホントにお前は真面目だな?
自分の女が取られるかも知れないってときに、ちゃんと他人の目まで気にするんだから・・・
真面目で優等生なフリして、お前ホントは何やってる?
自分の女泣かせるようなことしてんじゃねーかよッ!!
オレがいつまでも千葉を睨みつけていたら、
「それに、いつまでも待たせたらマジで風邪引きそうだしな」
と言いながら、また千葉が階段を上がって行く。「・・・あいつ、服着てりゃいいけど」
ちょっとだけ振り返り、口の端を持ち上げるようにして千葉がオレに笑いかける。
・・・・・・クソッ・・・ 
どーゆーイミか、なんて聞かなくても分かった。
「千葉ぁッ!!」
笑いながら階段を上がっていく千葉に怒鳴りつけた。「市川が知らなかった事、教えといてやったよッ!」
階段を上っていた足音が一瞬止まる。
「市川によろしくなっ!」
そう言い捨てると、オレは来た道を引き返し始めた。
クソ・・・ クソ・・・・・ッ!!
なにが、
「シャワー浴びとけよ」
だよっ!
「あとから行く」
って、なんだよっ!?
これからヤリますって宣言かっ!? ふざけんなよっ!!
目についた石を思い切り蹴飛ばす。 石は勢いをつけて側溝に転がっていった。
オレはやり場のない怒りや想いを持て余しながら家への道を歩いた。

オレが最後に千葉に言った一言が、そのあと市川をどんな目に遭わすかなんて思いもよらないまま・・・

To be continued・・・