パーフェ☆ラ 第3章

A いたずらなkiss


「わー♪ さっちゃん、久しぶり〜っ!」
「ナオ、すっごく大人っぽくなったね?」
「それ言ったらユキだよ! 今読者モデルやってるって!」
「マジでっ!」
城木屋の入り口付近で、すでにクラス会が始まってしまっている。
「ちょっと! そこに固まってると後からきた人たち入れないからっ!」
あたしは大声を張り上げて、元6年4組のメンバーを店内に誘導しようとした。 けれど全然聞こえてないみたいで、逆にその輪は大きくなるばかりだった。
「あ! 噂をすれば! あれユキじゃん? 話し聞かせてもらおうよ♪」
入り口で固まっている子たちが、階段の方に向かって手を振る。
「もうっ! そんなの中でいくらでも出来る・・・」
あたしがそこまで言いかけたら、あたしの後ろから誰かやってきた。
「おいっ、お前ら! さっさと中入れよ! ほら、お前も!お前もっ!」
「あいたっ! 〜〜〜なにすんのよっ! ヤジマはぁっ!」
ヤジマがそこにいた子たちの頭を次々に小突いていく。 みんなはヤジマに文句を言いながら、それでもなんとか店内に入っていってくれた。
ほ・・・
あたしが溜息をついていると、ヤジマが、
「うるせーな、女子。 見た目は多少成長してっかも知んねーけど、中は小6のままな? お前と一緒」
「う、うるさいっ!」
まぁ、でも幹事なんかやってなかったら、きっとあたしもあっち組なんだけどね・・・
「ありがとね、ヤジマ」
とりあえずお礼を言う。
「別に。 幹事頼んだのオレだしな」
と言いながら、ヤジマが手元のメモに目を落とす。 あたしもそれを覗き込んで、
「あと来てないのどれくらい?」
「ん・・・・・ あと3人」
ヤジマはメモをポケットにしまいながら、「市川も、もう中入んな? あとオレやるから」
「いいの?」
はじめは、
「なんであたしがクラス会の幹事なんか〜?」
って面倒臭がってたんだけど、続々集まってくる懐かしいクラスメイトの顔を見たら、なんだかあたしも楽しくなってきた。
メグも来ないし・・・ってか、ケンカしたままでかなり落ち込んでたところだったから、思いっきり食べて憂さ晴らししちゃうぞ―――ッ!!
亜紀ちゃん来てたよね? 話しに行こッ♪
あたしが足取りも軽く店内に向かおうとしたら、
「・・・今日、千葉は?」
とヤジマ。
「ん?」
ヤジマを振り返る。
「千葉。 なんで来ねーの?」
「ああ・・・ なんかね、中間テスト近いからとか言って? メグ、学年トップ10だから成績落としたくないんじゃん?」
「そんな頭いいんだ?」
「うん。 もうね、あたしなんかバカ呼ばわりされてるし」
「うん?」
「テスト勉強もしないで幹事なんかやって、バカだって」
「ふうん・・・」
「しかも、行くの止めろみたいなことまで言われた・・・」
・・・・・あのときの言い合いを思い出して、また落ち込んできた。
あたしもメグも、お互いのことスキなはずなのに、なんでいつもあんなケンカ腰になっちゃうんだろ・・・
ってか、メグって よく急に怒りだすよね?
ケータイ投げたときもそうだし・・・
ヤジマは腕を組んで、お店の入り口の壁にもたれかかるようにしてあたしの話を聞いていた。
「―――まるで、彼氏みたいじゃん」
「だから、そんなんじゃないって・・・」
付き合おうとか言われてないし・・・・・ それどころか、ハッキリ「好き」とも言われてないし・・・
―――・・・って、ホントにメグ、あたしのコト好きなんだよね?
なんか、また自信なくなってきた・・・
あたしが俯いていたら、
「・・・今日、裏メニュー出してくれるって」
とヤジマが頭を突付いてきた。
「裏メニュー?」
「うん。ウニの冷製スパ。 クボタのオジサンがまかないに作ったら好評だったからって」
「マジでっ!? あたし、ウニ大好きっ!」
一気にテンション上がってきた!
ヤジマは笑いながら、
「早く中 入んな?」
「うん!」
わーい♪ ウニウニ♪

「・・・でぇ、ムカついたから別れちゃったの!」
5、6年の頃、女子で一番仲の良かった亜紀ちゃんが、ドンと音を立ててウーロン茶のグラスをテーブルに置く。
「そ、そーなんだ・・・」
あたしはオレンジジュースのグラスに口をつけながら亜紀ちゃんの話に相槌を打っていた。
「だって、エッチのときに昔の女の名前呼んだのよっ!? ありえなくないっ!?」
「へ、へぇ・・・」
「あたし今まで、付き合ってきた男にそんなことされたの初めてよ!」
亜紀ちゃん、小学校の頃は大人しい方だったのに・・・ そんなに沢山の人と付き合ってきたんだ・・・
・・・あたしなんか、まだ誰とも付き合ったコトない・・・・・
「真由だってイヤじゃない? そんなことされたら!」
「う、うん・・・ イヤかも・・・」
よく分からない世界の話だけど、とりあえず肯く。
「市川〜!」
あたしと亜紀ちゃんが座っているテーブルに、クボタとアオシマが乱入してきた。
「久しぶりじゃ〜ん! 元気かよ?」
「まぁ、そこそこね。・・・って、あんたたちは相変わらずそうだね?」
あたしがそう返すと、クボタはあたしの隣の席に座りながら、
「どういう意味だよ?」
「そういう意味だよ!」
「おいッ!」
笑っている亜紀ちゃんの隣にアオシマが座る。
しばらく4人で小学校時代の思い出話に盛り上がってたんだけど、そのうち話がだんだんついて行けない方向に進んでいった。
「だからぁ! 性格はなんとか我慢できるけど、カラダの相性が合わないともうダメ! 我慢できないっ!!」
「言うね〜、山本も! ってか、お前ってそんなキャラだっけ?」
「5年も経てば変わるわよ。 引くなら引け!」
ちょ・・・っ!? 亜紀ちゃんっ?
こんなバカ男子相手に、なに言っちゃってんの?
「イヤ、引かねーけど? ってか、いいよ!」
「そ?」
「試しに、オレとの相性も試してみね?」
アオシマが亜紀ちゃんの耳元に顔を寄せて、「抜けね? 2人で」
と、とんでもない事を言っている!
バ、バカっ! 付き合ってもないのに、亜紀ちゃんがそんなことするわけないじゃん!
怒られるに決まってるよ! あんた!!
すると亜紀ちゃんは、怒るどころか、
「いいけどぉ〜・・・ あたし、あんまお金持ってないよ?」
とアオシマに流し目を送っている!
「いいよっ! ホテル代ぐらいオレ出すし〜♪」
アオシマは亜紀ちゃんの肩に手をかけて、「んじゃ、行こ!」
と席を立ち上がった!
「ちょっ!? ちょっと、亜紀ちゃんっ!?」
「真由〜。 今度ゆっくり会お? 電話するね!」
亜紀ちゃんは、じゃ〜ね〜とあたしに手を振りながらアオシマと店を出て行った。
なっ、なにっ!? あの、ノリっ!!
亜紀ちゃん、なんであんなに変わっちゃったのっ?
5年ってそんなに人を変えちゃうもんなの? 分かんないっ!!
あたしが亜紀ちゃんの変わりように軽くパニくっていたら、
「じゃ、市川はオレと・・・」
とクボタがあたしの肩に腕を回してきた!
「はっ!? な、何言ってんのっ!?」
あたしは慌ててその腕を振り落とした。「バカ言わないでよっ!」
「なんだよ・・・? ノリ悪りィな〜?」
再びクボタがあたしの肩を抱き寄せる。「オレ、市川のこと好きだったのに」
「はっ?」
「5、6年の頃。 お前のこと好きだったヤツ、ケッコーいたんだぞ?」
そ、そーなの・・・? 知んなかった・・・
「このクラス会だって、この前ヤジマに会ったとき、オレとアオシマが市川に会いてぇって言って企画されたようなもんなんだから」
ウソつけッ!!
「・・・今、アオシマ 亜紀ちゃんと抜け出してったじゃん」
「あ〜・・・ ま、それはそれってことで・・・ オレは市川一筋だしっ!」
「ちょっ、止めてよっ!」
クボタが顔を近づけてきた。「―――あんた、お酒臭くない?」
「・・・んっ? そ?」
クボタがちょっとだけ体を離した。 逆にあたしはクボタの顔に鼻を近づけて、
「・・・やっぱり匂うよっ! あんた、飲んでるでしょっ!!」
「軽〜く?」
クボタは肩をすくめている。
「ちょっとっ!? どういうことなのっ? まさか、アオシマや亜紀ちゃんたちが飲んでたのも・・・?」
あたしは二人が残していったグラスに、ちょっとだけ口をつけた。「やっぱりっ!!」
いつの間にっ!?
「大丈夫! オレの 酔ってるからって役に立たなくなるような、ヤワなヤツじゃないから!」
「バカっ! ふざけないでよっ!」
また迫ってきたクボタを慌てて突き飛ばした。
「・・・なんだよ? シラケんなぁ」
クボタが不機嫌そうな声を出す。
「な、なによっ!」
あたしがクボタを睨みつけると、クボタはあたしから顔を背けて、
「あ〜あ! やっぱ、会わない方が良かったな!」
「どーゆー意味よ・・・」
「ガッカリしたって事! お前 6年の頃、クラスでも目立ってたし胸もデカかったから、今ごろスゲーいい女になってんだろーなー・・・なんて思ってたんだよ。 なのに、全然変わってねーじゃん!」
わ、悪かったねっ!
・・・でも、本当のことだから言い返せない・・・・・
「オレの夢を返せっ!」
「し、知らないよっ! そんなことっ!!」
フンッとあたしを一瞥してクボタは席を立ち、別なテーブルに移動して行った。
「な、なによ・・・」
悪かったね! 小学生の頃と変わってなくて!
そんなのあたしが一番良く分かってるよっ!!
それに、あんたの夢なんか知らないっつーのっ!!!
あたしは目の前にあるオレンジジュースを一気に流し込み、気を落ち着けようとした。
―――・・・確かに、亜紀ちゃんなんか、すっごく大人っぽくなってたよね・・・
辺りを見回す。
亜紀ちゃんだけじゃなくて、みんな綺麗になってる・・・ メイクも上手だし・・・
男子もナニゲにオシャレになってる・・・
それに比べてあたしは・・・ 6年生のまま・・・?
あたしは一人テーブルに視線を落とした。
・・・こんなことなら、メグの言うこと聞いて、クラス会なんか来なければ良かった・・・
流れによっては2次会も行こうかなって思ってたけど、もう帰ろうかな・・・
幹事なのに途中で帰ったら迷惑かけちゃうかな?
ところで今何時? ここって何時までなんだろ・・・
カバンに入れっぱなしだったケータイを見たら、7時半!
もうそんなに時間たってたのっ? 全然気が付かなかった!
「ちょっと、ヤジマ!」
アルコール飲んでる子もいるみたいだし、そろそろお開きにしたほうがいいんじゃない!?
あたしはヤジマを探した。 ・・・けれど、ヤジマの姿がない。
「ねぇ? ヤジマ知らない?」
テキトーな子に聞いてみる。
「ん? ちょっと前に外出たみたいだけど・・・ 戻ってきてない?」
電話でもしに行ってるのかな? ここ地下だし・・・
急いで店外に出てみる。
キョロキョロとヤジマの姿を探したら、近くの花壇の縁にヤジマが座っているのを発見。
「ヤジマッ!」
あたしが大声でヤジマを呼びながら近づいて行ったら、ヤジマがゆっくりと顔を上げた。
「・・・ん? なんだ、市川か・・・」
「なんだ、じゃないよっ! みんな勝手にお酒とか飲んでるよっ!? どーすんのっ?」
あたしはヤジマの前まで近づいて、「・・・って、もしかして、あんたも飲んでんの?」
ヤジマも飲んでいるらしいことに気が付いた。
ヤジマはちょっとだけ潤んだ目をあたしに向けて、
「ん? ん―――・・・ かな?」
「かな?って、なんで疑問形なのよっ! っていうか、お金足りなくなるんじゃないの?」
ソフトドリンクだけって話だったのに、勝手にアルコールまで頼んじゃってるんだから・・・
あたしが心配してそう聞いたら、ヤジマは、
「あ〜・・・ だいじょぶだいじょぶ! 男からは、1500円ずつ多く徴収してあるから」
と再び伏せた顔の前で手を振る。
「・・・ならいーけどさ・・・」
ちょっと安心した。 精算のとき足りなかったら、あたしも一応幹事として心配だもんね。
もしかして、こんなふうになること見越して集金してたのかな?
ヤジマって幹事慣れしてるなぁ。
もしかして、ケッコー合コンとかやってんのかも・・・
なんてことを考えながらヤジマの前に立っていたら、
「・・・中、戻っていーよ?」
とヤジマがちょっとだけ顔を上げて、上目遣いにあたしを見上げた。
「あんたは?」
「オレはもーちょっと酔い冷ましてから戻る」
再び顔を伏せるヤジマ。
あたしは軽く溜息をついてヤジマの横に座った。
「・・・戻んねーの?」
「戻るよ。・・・あんたの酔いが冷めたらね」
こんな酔っ払い放っておけないじゃん。
・・・それに、戻っても落ち込むだけだし・・・
あたしとヤジマの前を週末の人ゴミが流れていく。 あたしはその流れを目で追っていた。
・・・今ごろメグ、何やってるかな・・・
「中間近いのに・・・」
なんて言ってたから、ちゃんと勉強してるのかも。
って、あたしもやんなきゃなんだけど・・・
ここで成績が落ちたら、お母さんから、
「夏休み返上で勉強してもらうからね?」
と学習塾の夏季強化合宿に参加する事を約束させられてしまっている。
高2の貴重な夏休みを、そんなことで潰されちゃたまんないよっ!
でも、マジでどうしよ・・・
そんなことを考えていたら、
「―――なぁ・・・ 手相見てやる」
とヤジマがあたしの前に手を差し出してきた。 ヤジマは やっぱりちょっと潤んだ目をあたしに向けている。
「・・・なに? 急に・・・」
あたしがちょっと戸惑ってそう答えたら、ヤジマは、
「いーから見てやるよ。 市川、男運悪そうだし!」
「よっ、余計なお世話っ!!」
あたしは怒りながら、
―――案外 図星かも・・・ メグとは何の進展もないし・・・ クボタにはバカにされるし・・・
と軽く溜息をついた。
「いーから出せって!」
ヤジマが無理やりあたしの手をとり、視線を落とす。 仕方なくあたしも一緒になって視線を手の平に落とした。
・・・ところで男運ってどこの線見るんだろ? あたし、生命線しか分かんないけど・・・
ヤジマは黙ってあたしの手を握っている。
「・・・で? どお?」
あたしがヤジマに尋ねると、
「・・・なにが?」
とヤジマはあたしに視線を寄越した。
「なにがって・・・ 手相見てくれるんじゃないの?」
そう言ってたよね?
「分かるわけねーじゃん! オレ占い師じゃねーもん」
「え・・・?」
意味が分からなくてヤジマの顔を覗き込む。
「市川って騙されやすいな〜」
ヤジマは楽しそうに笑いながら、「コレは、男が女の子の手を握りたいときの常套手段だろ〜!?」
はぁっ!?
ムカついてヤジマの手を振り解いた。
「あっ! UFO!!」
「ええっ!?」
驚いて夜空を見上げる。
―――しまった・・・ また騙された・・・
ヤジマは笑い転げている。
「〜〜〜あたしもう戻るからねっ!!」
「え―――――っ!?」
ヤジマの声を無視して、ムカついたまま立ち上がる。
「バイバイッ」
あたしがダイエーの方に戻りかけたら、
「あいたっ!」
とヤジマが顔を手で覆った。
・・・もう騙されないもんね! 無視無視ッ!!
そのままダイエーに戻る。自動ドアの前で振り返ったら、ヤジマはまだ顔を手で覆ったまま俯いている。
なによ・・・? もう、騙されないからね?
しばらくそのままヤジマの様子を見ていたら、いつまでたってもヤジマはそのままの格好でいる。
・・・どうしたのよ?
ちょっとだけ気になり、ヤジマのところに戻る。
「・・・もう、騙されないんだけど?」
それでも沈黙のままのヤジマ。
「ちょっと・・・ どーしたのよ?」
再び問い掛けたら、
「・・・ズレた」
「え?」
「コンタクトがズレた・・・」
「ええっ!? あんたコンタクトなのっ?」
慌ててヤジマの前にしゃがみ込む。「ちょっと、大丈夫?」
「ちょっ、見て?」
ヤジマが顔を近づけてきた!
「うわっ! ちょ、ちょっとっ!!」
顔近すぎっ!!
あたしが慌てて離れようとしたら、
「マジで早くッ! 眼球の裏側まで行ったら、手術するしか・・・ッ!!」
「ええッ!?」
ホントにッ!?
あたしは慌ててヤジマの瞳を覗き込んだ。
・・・って、どっちの目なの?
あたしがヤジマの瞳を窺いながら、
「ねぇ? 右? 左? どっちよ・・・――― えッ!?」
と確認しようとしたら、急にヤジマの腕があたしの後頭部に伸びてきて、そのまま頭を抱えられた。
えっ!? な、なにっ??
と思った次の瞬間には、ヤジマの唇があたしのそれに重ねられていた!


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