パーフェ☆ラ 第6章

I それでもそばにいてほしい…


「あれ? 市川さん・・・ もう試合終わったの?」
入り口に置いてあった会議テーブルで、なにかノートのようなものをつけていた津田沼が顔を上げた。
保健室で矢嶋と別れてから、あたしはまた写真部の方に戻ってきた。
「うん」
・・・多分、ね。 最後まで見てないから分かんないけど・・・
「それじゃあさ、ちょっとここお願い出来る? 戻ってきた早々悪いんだけど」
「ん? いいよ?」
津田沼はいそいそと準備をしながら、
「なんか実行委員の方に呼ばれてるんだよね。 後夜祭で手伝って欲しいことがあるみたいで・・・ 1年生はクラスの方行っちゃったし」
「いいよ。行ってきなよ」
「ありがと。 もうすぐ終了時間だし、もうお客さんも来ないと思うけど・・・ じゃお願いね」
津田沼が出て行き、シンとした教室に1人きりになる。
何気なくパネルを見上げたら、何枚かの写真が売れ残っていた。
文化祭はその当日の売り上げしか認められない。
だから、注文を受けて現像をするっていうんじゃなくて、展示してあるものをそのまま販売していた。
涼やメグの写真は一枚も残ってない・・・
とパネルを眺めていたら、とんでもない写真を発見した。
「うわっ!? なにこのあたしっ! チョーブサイクなんですけどっ!?」
修旅で、ボケッとお茶屋さんの店先のベンチに座っているあたしが・・・・・ッ!!
「津田沼〜〜〜っ!! こんな写真撮らないでよねっ!!」
慌ててパネルから引き剥がす。 引き剥がしてから改めて見てみても・・・
「・・・ホントにヒドイ顔・・・」
・・・でも、まだ修旅から2ヶ月も経ってないのに、なんだか懐かしい・・・
このときのあたしは、メグとケンカしててものすごく落ち込んでいた。
けれど、それでも今のあたしから見たら羨ましくてたまらない。
・・・・・だってケンカしてても、まだメグの彼女でいられたんだから・・・
うっかり涙腺が緩みそうになって、慌ててその写真を手帳に挟もうとした。
すると・・・
「あ・・・」
手帳にもう1枚、写真が挟んであった。
文化祭前に、販売用の写真の中から抜いたメグのプライベート写真・・・
「お前・・・ それだけは絶対出すなよっ!?」
って怒られた・・・
「〜〜〜・・・」
また目の奥が熱くなる・・・
もう、あのときには戻れないのかな・・・
あたしがバカなことして、それをメグが呆れながら突っ込んで・・・
・・・・・そんな関係にはもう、戻れないのかな・・・・・
「千葉と上手くやれよ」
ってヤジマは言ってくれたけど・・・

―――どうしたらいいか、分かんないよ・・・ ヤジマ・・・・・


「写真部さん? 集計出しました?」
2枚の写真を前にしんみりしていたら、文化祭実行委員らしい子が顔を出した。
「え? はい?」
「もう終了時間なんで、売り上げ集計して本部の方に出してください。 後夜祭で発表する関係があるんで、5時前には」
「は? 集計・・・?」
「じゃ、よろしくお願いしますね」
とA4サイズの紙を渡された。
え・・・ こんなの分かんないよ。 とりあえず津田沼に連絡して・・・
と津田沼のケータイに電話を入れようとして、
・・・・・あたし、津田沼のケー番・・・知らない・・・・・
時計は4時半になろうとしている。 多分すぐ集計始めないと間に合わない・・・・・
慌てて会議テーブルの下を覗いたら、棚の部分にノートが置いてあった。 多分、さっき津田沼が何かつけていたノートだ。
開いてみたら、売れた写真の枚数だとか、単価だとか、フィルム代や現像代がメモされていた。
これと売上金を集計すればいいのかな?
一応副部長だし(2年生はあたしと津田沼の2人しかいなくて、必然的にそうされた)、書き写すだけだろうし・・・ やっとくか。
あたしは2枚の写真を横に避けて、プリントに集計を始めた。
・・・・・始めたのはいいんだけど・・・
「―――・・・何これ? 売り上げと利益ってどう違うのよっ!?」
思ったよりもてこずってしまった。
とにかく売り上げた数字と実際あるお金が合わないといけない。 なのに、何度やっても数字が合わない。
仕方がないから売り上げ枚数をテキトーに修正して、お金に合わせた。
「・・・・・つ、疲れた〜〜〜」
やっと出来上がった集計用紙を実行本部に提出したときには、ちょうど5時になっていた。
外はすっかり薄暗くなっていて、校舎の中も閑散としていた。
文化祭中は殆ど寄り付かなかった2年4組の前を通ってみる。 中には誰も残っていなかった。
そっか・・・ みんな体育館行っちゃってるんだ。
文化祭自体は4時で終わっている。 それから簡単に片づけをして、5時過ぎから体育館で後夜祭が始まる。
実は後夜祭の方こそ楽しみにしている生徒が多い。
各賞の発表や軽音部の演奏があったりして、かなり盛り上がる。
今年のMVPは誰だろう?
多分・・・ また涼かな。
クラスや文化部の方の出し物でも飛び抜けて目立ったものはなかったみたいだし、バスケ部の招待試合もケッコー盛り上がってたし。
何より、学内1のモテ男だし。
一応、
「その年の文化祭で1番輝いていた人」
って事にはなってるけど・・・
結局人気投票だもんね。
いくらいい写真とってみんなに評価されても、津田沼じゃMVPは取れない、みたいな・・・・・
どうしよう・・・ あたしも行こうかな。
1人なのもなんだから、向こうで恭子でも見つけて・・・・・
・・・って、涼と一緒にいるだろうから、お邪魔か。
それか、ミドリたちでも探す?
・・・・・でも、
「千葉は?」
とか聞かれたら、またつらいし・・・・・
・・・いーか、別に行かなくても。
なんて・・・
こんな誰もいないところに1人で残ってると・・・ なんか、修旅の最後の夜を思い出す。
平井のせいで謹慎になっちゃって、いじけてたらメグが来てくれて・・・・・
―――・・・あ。 駄目・・・
また涙腺緩みそう・・・・・
とカバンからティッシュを取り出そうとしたら、ガラリ、と教室のドアが開いて・・・・・
―――メグが入ってきた。
ウソ・・・・・
ホントに修旅のときみたいだよ・・・
まさかこんなところで会うなんて思わなくて、思わず顔をそらした。
メグも、まるであたしなんかいないみたいな態度で、ゆっくりと教室に入ってきた。
そのまま、教室後方にあるロッカーを探るメグ。
ど、どうしよう・・・
こんな・・・ 誰もいないところで2人っきりなんて・・・ 気まずい・・・
今まで教室なんかでメグと一緒になっても、他にも人がいたからなんとかやり過ごせていたのに・・・
静かな教室に、メグがガタガタとロッカーを探る音と・・・ あたしの心臓の音がやけに大きく聞こえた。
「・・・こ、後夜祭・・・行かないの?」
沈黙に耐えられなくなって、とうとうあたしから声をかけた。
メグは振り返りもしないで、ロッカーを探りながら、
「行くよ。 忘れ物取りに来ただけ」
となんでもないことのように言った。
忘れ物―――・・・
そうだよね・・・
視線をメグの背中から足元に落とした。
あたしたちもう別れてるし、修旅のときとは全然状況が違ってるんだった・・・
状況が修旅の時と似てたせいで、一瞬図々しいこと考えちゃったよ・・・
大体、あたしはフラれた方だし。
ヤジマと付き合ってるって知られちゃったし・・・
そんなことあるわけないんだった・・・・・

・・・・・ヤジマは頑張れって言ってくれたけど。
やっぱり、無理かも・・・・・

そう思って落ち込んでいたら、
「ああ。 あったあった」
とすぐそばでメグの声が聞こえて、腕をつかまれた。
「え・・・?」
驚いて振り返った。
目の前にメグの顔がある。
こんな距離でメグの顔見るの、ホントに久しぶり・・・・・
―――・・・ていうか・・・
「ちょ、ちょっと!? どうしたの? その顔っ!」
フラれたことも避けられていたことも忘れて、思わずそう叫んでいた。
メグのソフトな顔にアザが出来ている!
「え? ・・・ああ」
メグは、今思い出した、というように自分の頬を触って、
「ヤジマにやられた」
「えっ!? なんで・・・ って、もしかしてさっきの試合中の・・・あの接触したとき?」
すぐには立てなさそうだったから、ひどい怪我なのかなっては思ってたけど・・・
足だけじゃなくて、顔もぶつけてたんだ!?
「ちょ・・・大丈夫? ・・・なんか、バスケって思ったより接触多いんだね」
あたしが思ったことを言ったら、メグは、
「・・・じゃなくて、ヤジマに殴られた」
「は・・・? 殴・・・ って、ヤジマがっ!? なんでっ!?」
確かにメグとヤジマは小学校の頃からの因縁があって(メグはヤジマにイジめられていた)犬猿の仲だけど・・・
でもそれはどっちかというとメグの方がヤジマを嫌っているって感じで、ヤジマの方はメグのこと認めてたような気がしたんだけど・・・・・
そのヤジマが、メグを・・・ 殴った!?
メグは頬を押さえたままチラリとあたしを見下ろして、
「・・・真由を返せって言ったら、殴られた」
「返・・・・・・ え?」
・・・・・あたしを・・・ 返せって・・・・・ メグが・・・?
「な、なんで・・・? だって・・・・・ 別れようって・・・メグ・・・」
「あんなの本気じゃないに決まってんだろ」
本気じゃないって・・・・・・ え・・・?
「だってだって、そのあとも教室であたしのこと避けてたじゃん」
「は? 避けてたのはそっちだろ?」
「先に避けたのはメグだよ! ・・・それであたし、メグに避けられるのが辛かったから、だから極力顔合わせないようにしてただけで・・・」
「いや、お前が・・・っ」
とメグは反論しかけて、「や。 やっぱオレが悪いよな。ごめん・・・」
と急に謝ってきた。
「・・・メグ?」
「あの頃、ちょっと部の方とか忙しくて、それでオレイライラしてて・・・ 真由がオチてたのに全然気付いてやれなかった。 ホントごめん」
こんな風にメグに謝ってもらうことなんて初めてで・・・ ビックリしてしまう。
あたしは慌てて、
「ううんっ! メグが悪いんじゃないよっ!? あたしが色々バカみたいな妄想して1人でオチてただけなんだから! メグがカッコ良すぎてモテモテなのを心配して・・・ だからあたしが悪いのっ!」
あたしの自信のなさが、ヤキモチとか嫉妬とか・・・ 余計な感情を生んじゃっただけなんだから!
あたしがそう言ったら、メグは少し難しい顔をして目を伏せた。
「メ、メグ・・・?」
「オレは・・・ オレは、全然カッコ良くなんかない」
「え?」
「お前はオレを過大評価しすぎてるよ・・・ オレは全然パーフェクトなんかじゃないし、スゲー普通なんだよ。 真由の前ではカッコつけてるだけで・・・」
メグはそう言ってあたしを見つめた。「ホントはヤジマの方が、何だってオレより上なんだよ」
メグ・・・・・
「勉強とか運動とか、そういうのだけじゃなくて・・・ 人に対する気遣いとか、思いやりとか・・・ とにかくヤジマはオレより上だよ。 オレには真似出来ない。 悔しいけど・・・・・」
「・・・そんなことないよ?」
あたしがそう言ったらメグは首を振って、
「いや、オレには分かる。 つか、実は小学校の頃から分かってたんだけどな・・・ ただ、悔しくて認められなかった」
「・・・な、なんで・・・?」
「それは・・・ あいつも真由のことが好きだったから」
「・・・・・」
なんて言っていいのか分からなくて俯いた。
「ヤジマはスゲー本気だよ。 本気で真由のこと好きなんだよ」
それは・・・ よく分かってるよ・・・
ずっとノリだけだと思ってたけど、そうじゃなかったって・・・ 分かったよ・・・
―――でも・・・ どうして今そんな話するの?
「・・・だから、真由はヤジマと一緒にいる方が幸せになれるのかもしれない」
―――・・・メグがなんの話をしたいのか・・・分からない。
「ヤジマには返せ、なんて言ったけど・・・ 本当はヤジマと一緒にいるのが正しいのかもしれない」
―――・・・メグ? なに・・・言ってるの?
「真由の幸せはオレのそばにはない。 ヤジマのそばにこそあるんだよ」
あたし、そんな話・・・ メグからそんな話、聞きたくないよ・・・
耳を塞ぎたい・・・ なのに、身体が動かせない。
今少しでも動いたら・・・
涙がこぼれ落ちてしまう・・・・・
「だけど・・・」
メグがあたしの頬に手を添える。「そう分かってるけど・・・ 真由がオレのそばにいないのは耐えられない」
「・・・・・え」
「オレはヤジマほど真由を幸せにはしてやれない。 ―――だけど・・・それでもそばにいてほしい。 ・・・駄目か?」
我慢していた涙が落ちてきた。
「駄目じゃないっ!!」
あたしはこぶしを握りしめて、「メグはあたしにはもったいないくらいパーフェクトだよ!? なに言ってんの!?」
「真由・・・」
「なに1人で・・・勝手なこと・・・・・ッ あたしの幸せなんて、メグに分かるわけないじゃんっ! あたしの幸せはあたしが決めるんだからっ!!」
「・・・・・じゃ、そばにいてくれんの?」
「当たり前じゃんっ!!」
と怒鳴るように言ってしまってから、「・・・・・っていうか、いさせてクダサイ」
と上目遣いにメグを窺った。
「・・・ん。 ありがと」
メグは小さく肯いて、それから少しだけ笑ってくれた・・・
っていうか・・・
「大丈夫? なんか痛そう・・・」
メグも頬をさすりながら、
「あんま大きく笑ったりすると痛ぇんだよな・・・ ヤジマのヤツ、思いっきり殴ってくれたからな」
「なんか・・・ ごめんね? あたしのせいで・・・」
「や。 大丈夫・・・」
とメグは言いかけて、「・・・じゃないかも」
と少し顔を歪めた。
「えっ!?」
「おまじないしてくれたら治る」
・・・・・おまじない? って・・・
「? 痛いの痛いの飛んでけ〜・・・ とかいう、アレ?」
あたしがそう聞き返したらメグは吹き出して、
「子供かよっ!? ・・・じゃなくて・・・ここ」
とアザになっているところを指差した。
え・・・・・?
「・・・・・アザになってるね?」
あたしが見たままのことを言ったら、またメグが突っ込んできた。
「〜〜〜って、そーじゃねーだろっ!! 気付けよっ!!」
「え?」
「・・・こーゆーときのおまじないって言ったら・・・ キスだろ、普通」
「はっ!?」
普通って・・・・・ あたし、そんな普通、知らないよ!?
って、突っ込んでもよかったんだけど・・・
―――そっとメグの肩に手をかけて、その頬に唇を当てた。
「・・・へへ」
なんかメグに触れるのが本当に久しぶりで・・・ ちょっと照れてしまった。
「・・・あ〜、そう言えば、おでこも殴られたわ」
「え?」
「だから、そこもおまじないヨロシク」
・・・・・で、おでこにもキス。
メグはそっとあたしの腰に腕を回してあたしを抱き寄せた。
「あと、目も」
「鼻も」
言われるままメグの顔中に唇を落とした。
「・・・・・他に、痛いとこ・・・ないの?」
・・・・・まだ肝心なとこに・・・してない・・・
「・・・ある」
どこ? って聞くのももどかしかった。
メグの頬を両手で包んで、そのまま唇を近づけた・・・ら・・・
「あっ! こんなとこにいたぁっ! 千葉くんっ!!」
いきなり津田沼が教室に飛び込んできた。
「つ、津田沼っ!?」
慌ててメグから離れる。
な、なんで津田沼がこんなとこにっ!?
っていうか、邪魔しないでよ――――――っ!!
「・・・なによ、津田沼」
不機嫌さを隠しもしないで、そう言ったら、
「あ。 市川さんもいたんだ」
って、いちゃ悪いのっ!?
津田沼はあたしの不機嫌さになんか気付きもしないで、
「早く体育館来て! もう後夜祭始まってるよ!?」
とメグを呼んだ。
「は? なんで・・・オレ?」
メグが戸惑う。
あたしもどうしてメグが呼ばれているのか分からなかった。
すると津田沼が焦れたように、
「もうっ! MVPに選ばれたんだよ、千葉くんがっ!!」
「えっ!?」
メグと同時に声を上げて、それから顔を見合わせた。
「とにかく早く来て! もうすぐ賞の発表だから!!」
と津田沼は廊下を駆けて行く。
「・・・・・MVP、だって」
「・・・・・なんでオレ?」
「すごいじゃんっ! あたし、絶対今年も涼だと思ってた!」
とにかく賞の発表のときに本人がいなかったら話にならないから、戸惑ったままのメグを引っ張って慌てて体育館に向かった。
『え〜と、それでは続きまして〜・・・ クラス発表部門行きます』
体育館ではすでに別な賞の発表が始まっていた。
MVP以外にも、売り上げナンバーワンとか、デコレーションナンバーワンとか・・・色々な賞がある。
司会がマイク片手に声を張り上げる。
『クラス発表部門は・・・ 2年4組のメイド喫茶、ストロベリーカフェ!』
「うわっ!」
クラス部門に選ばれたのは、あたしたち2−4だった。
ってゆーか・・・
「・・・やっぱり、あたし裏方で正解だったよ・・・」
クラスの代表でチハルが壇上に上がっている。 そのチハルの姿を改めて見てみて・・・
あたし、絶対あんな服着れない・・・
「やっぱり、お前を出さなくて良かった」
「だよね・・・ スタイル良いわけでもないのに・・・あんな服着てたら笑い者だよ」
メグ、ありがとう。 あたしを裏方にしてくれて。
「千葉ッ!」
涼と恭子があたしたちを見つけてやってきた。 涼はチラリとあたしを見て、
「な? 間に合ったろ?」
とメグの肩を組んだ。
「ああ。 サンキューな」
「?」
・・・なんの話だろ・・・?
そんな話をしていたら、いよいよMVPの発表になった。
『最後は、皆さんお待ちかねのMVPの発表です』
うわ〜〜〜・・・
さっき津田沼からメグの受賞のことは聞いて知ってるけど・・・
なんかチョー緊張するよ―――ッ!!
『え〜、本年度のMVPは・・・』
仰々しく鳴り響くドラムロール。 そしてそれが止まって、
『バスケ部部長の千葉恵くんに決定しました―――!!』
「えっ!?」
涼が驚き、周りにいた・・・特に女の子がキャアキャアと騒ぐ。
『じゃ、千葉くんは壇上に来て下さ〜い!』
司会がメグを呼ぶ。
「なんか・・・ 恥ずかしーな・・・」
と照れたような、困ったような顔をするメグに、
「ゴチャゴチャ言ってねーで、さっさと行けよ」
と涼が不機嫌そうに言った。
涼・・・ もしかして、メグにMVP取られたから、機嫌悪い?
メグは急ぎもしないでステージに向かって歩いて行った。 それを見送りながら、
「ま、まぁ、涼は去年取ったんだからさ!」
あたしがそう言って慰めようとしたら、
「連チャンでイケると思ってたのに」
と涼。
・・・・・学内1のモテ男は、ケッコー自惚れ屋だ。
「でも、あたしは涼に入れたよ?」
恭子がそう言ったら涼はフッと笑って、恭子の耳元に唇を寄せて何か言ったみたいだ。
「えっ!?」
恭子が顔を真っ赤にして涼を見返している。
―――? なに言ったんだろ?
ていうか、この2人もラブラブでいいよね。
モテ男の涼と付き合ってるってだけで色々ありそうなのに、恭子たちは付き合い始めてからこれといった揉めごともなさそうだし・・・
その秘訣はなんだろう?
今度教えてもらおうかな・・・
『・・・というわけで、怪我をしていたのにもかかわらずその痛みを我慢して試合に出て、さらにはチームの勝利も勝ち取った千葉くんが、今年のMVPとなりました〜』
メグはオモチャみたいな小さなカップを受け取って、
「ありがとうございます」
なんて、例によってソフトに笑っている。
あたしの近くにいた1年女子が、
「やーん、千葉センパイ、チョーカッコいいっ!」
「でも、千葉センパイ彼女いるんだよね・・・」
「別にいーんじゃん?」
・・・って、よくないでしょっ!?
司会はさらに封筒のようなものをメグに渡した。
『副賞は、ディズニーリゾートのパスポートで〜す!』
うわっ! いいな〜・・・ メグ・・・
司会がメグにマイクを向ける。
『2枚入ってますけど・・・ 誰と行きますか?』
・・・えっ!? 2枚っ!?
メグはやっぱりソフトに笑いながら、
『それはもちろん彼女と』
メグがそう言ったら、体育館内のボリュームが上がった。
・・・・・な、なんか・・・ 恥ずかしい・・・・・
メグってば・・・ みんなの前で、そーゆーこと・・・
いや・・・ メチャクチャ嬉しいんだけど・・・
あたしが頬を押さえて小さくなっていたら、
「愛されてんじゃん」
と涼があたしの頭に手を乗せてきた。
「愛・・・ッ!?」
あたしが戸惑っている間に、涼はそのままあたしの髪をぐしゃぐしゃにした。
「ちょっと、涼っ!」
怒りながら涼を見上げたら、涼はステージのメグに目線を置いたまま、
「もうよそ見しちゃダメよ〜」
「・・・・・え」
「泣かさないで。 あいつのこと」
笑顔だけど、その目が笑ってなくて・・・
「・・・うん。 ごめん・・・」
とあたしは肯いた。
涼も、よし、と肯いて、
「んじゃ、オレら先帰るわ」
と恭子の肩を抱いた。
「え? そーなの?」
・・・もしかして、これからデート・・・とか?
でも、恭子はちょっと顔を赤くして困った顔をしている。

「じゃーな」
とりあえず2人に手を振って別れた。
そんなことをしているうちに、賞の発表も終わったみたいだ。 ステージでは、次にやる軽音部が楽器の準備をしている。
・・・・・けれど、メグがなかなか戻ってこない。
なにやってるんだろう?
涼や恭子も帰っちゃったし、あたし1人じゃ寂しいし・・・
と思っていたら、軽音部の1曲目の演奏が終わる頃、やっとメグが戻ってきた。
「どーしたの? 時間かかったじゃん」
「や・・・ ちょっと、これのことで揉めて・・・」
と頬のアザを指差すメグ。
「なんか新聞部が、週明けの朝掲示する新聞にオレの顔写真載せようとしてポラロイド持ってきたんだけど、このアザがあるからって・・・」
「えっ!? そーなの!?」
ステージに上がったときは、遠目だし照明の関係であたしたちからは全然分からなかったんだけど、さすがにアップで写真なんか撮られたら目立っちゃう・・・
「ごめん・・・ あたしのせいで・・・ どーしよう・・・」
「でも実行委員の方でも別な写真探してみるって言ってたから大丈夫じゃねーかな。 写真部の方にも聞いてみるって言ってたし」
「そーなの? だったらいいけど・・・」
・・・でも、実行委員がメグの写真なんか持ってないよね?
写真部の方だって、メグの写真は全部売れちゃってたし・・・
ネガは津田沼んちにあるだろうけど、週明けの朝の新聞を今から作るんじゃ取りに戻る余裕も、現像を待つ余裕もない。
どうするんだろ・・・・・?
「・・・でも、これでまたメグ人気上がっちゃうね」
「ただのお祭りだろ。 こんなの」
「そんなことないよっ! それがメグの実力なんだよ! ・・・・・なんか、また置いてかれた感じ・・・」
オレはパーフェクトじゃない・・・ なんてメグ言ってたけどさ。
そんなの謙遜で、やっぱりメグはパーフェクトなんだよ。
メグが笑いながらあたしを見下ろす。
ほら。
・・・大体、その笑顔が余裕いっぱいっていうか・・・
「置いてくわけねーじゃん」
メグがあたしの手を握った。
「え?」
「どこまででも連れてくけど? お前が嫌だって言っても」
〜〜〜メグっ!
嬉しくなって、あたしもギュッとその手を握り返した。


ごめんね、メグ。
あたしメグみたいに頭良くないから、これからも馬鹿なことしちゃうかもしれないけど・・・
多分これからも揉めたりケンカしたりするだろうけど・・・
―――でも、メグのそばにいてもいい?
怒っても、呆れてもいいから・・・
だから、キライにだけはならないでいてくれる?


「〜〜〜真由ッ!! てめぇ、ふざけんなよっ!!」
メグが血管が切れそうな勢いで怒っている。
「だ、だって、あたしだって知らなかったし・・・」
その前でオドオドするあたし・・・
週が明けた。
今日は通常の授業はなしで、文化祭の後片付けに当てられていた。
授業がないせいか、週の頭だっていうのにどこかみんなのんびりしている。
―――あたしとメグ以外は。
「お前が処分するって言うから、許したんだからなっ!! それを・・・っ!!」
「ちゃ、ちゃんと抜いといたんだよっ? ホントだよっ!!」
メグが怒っている。
原因は、掲示板に張り出された新聞のせいだった。
新聞部が、後夜祭のあと必死で作った・・・それはそれはカンペキな新聞だ。
ご丁寧に縮小版も作られていて、それはコピーされ校門のところで配布されていた。
それに、MVPを取ったメグの写真が載っている・・・

「この世から抹消する!」
「お前が責任持って処分しろよ!?」

ってメグに言われていた写真が・・・・・
な、なんでっ!?
あたしちゃんとカバンにしまったよねっ!?
「いや〜。 後夜祭のあと、急に新聞部に千葉くんの写真くれって言われてさぁ。 販売分は売り切れてたし、どうしようって思ってたら1枚だけ残ってたんだよね。 会議テーブルの上に」
だからそれ渡したよ?・・・と津田沼が。
え・・・
まさかあの、売り上げ集計したとき・・・・・?
た、確かにその直前まで写真見てたけど・・・
で、実行委員の人が来たからって慌てて・・・・・
―――あたしあのとき、写真しまい忘れてたのっっ!?
うそでしょ――――――ッ!?
「もうお前、マジで許さねぇっ!!」

そ、そんなぁ〜〜〜・・・
せっかく仲直り出来たっていうのに――――――ッ!!


おわり


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