E マグロ漁師の女難


予想外の結衣のセリフに、オレは驚きと嬉しさを隠せなかった。
いつも、
「もうっ!そんなにくっつかないで!」
とか、
「そんなにしょっちゅうメールくれても全部に返信できないよ?」
なんて牽制するコトばっかり言う結衣が……
「陸はあたしのカレシなんだからね―――ッ!」
って言ってたよな、今…… 聞き間違いじゃないよな……?
ここんとこ結衣の様子がおかしかったから、どうしたんだろうとは思っていた。
合コンの後くらいから、
「みんなが陸と麻美お似合いだって! あたしと違ってスラッとしてるし美人だもんね!」
とか、
「麻美ってあんなに美人でモテるのになんで彼氏作らないんだろうね!?」
なんて事を言ってたからまたいつもの、
「他の子と比べてあたしは魅力ない」
って話なのかと思ってたんだけど……
もしかしてオレとあの人のコトでなんか勘違いして妬いてたのか?
いやでも、なんで? オレとあの人明らかに犬猿だろ? 会話なんかいつもケンカ腰だし。
さっきも騎馬戦が始まるとき、
「ちょっと! 今僅差で青が負けてんだから、この騎馬戦では絶対勝つのよ!」
とオレを睨みつけてきた。「赤には絶対負けないでよ!」
オレたち青組は僅かの点差で赤組を追いかけている状態だった。
スゲー負けず嫌いだな、この人……
と思いながら曖昧に肯いて結衣の方を見ると、結衣はテコンドーに肩を抱かれながら入場門に向かって歩いていくところだった。
なんだよっ!? またあいつと一緒かよっ!?
オレが眉間にしわを寄せて赤組の入場を見ていると、
「……たとえ相手が結衣でも、手抜かないでよね」
と麻美も入場門の方を睨んでいた。
赤組が入場し終わり続いてオレたち青組が入場する。
「ふうん、結衣たちは後半戦か… じゃ、あたしと一緒ね」
並んでいる順番を見て麻美が呟く。「狙っちゃお」
「なに。なんかケンカでもしてんの?」
「べつに? してないわよ」
いや、してんだろ。かなり気にしてるだろ。
オレは前半戦に出る騎馬だった。笛の合図で騎馬を組む。
「陸〜! 絶対落とさないでね!」
騎手になっている同じクラスの女がオレの耳元に顔を近づけて、「最後まで残ってたら今夜付き合ってあげる♪」
と囁いた。そんな気は1ミリもないけど、一応ノリで、
「マジかよ? じゃ、もし崩れたら?」
と返すと、
「そのときは明日の夜付き合ってあげる♪」
とオレの耳のあたりに軽く胸を押し付けてきた。
なんだよ、結局ヤリてーだけかよ……
結衣じゃ絶対考えられないコトだな。 ……つか結衣はいつヤラせてくれんだろ?
そんなことを考えていたら、
「ほんとサイテーね、あんた。そんなチャラチャラしててもし負けたらただじゃおかないわよ?」
と斜め後ろから声が飛んできた。振り向くと後半戦に出る麻美がしゃがんだままこっちを睨んでいた。
「絶対赤には負けないでよ」
「うるせぇなあ… 分かってるよ!」
と返すと同時に開始の合図がなった。
普通科の騎馬は弱かった。
オレはあっという間に5つの騎馬を蹴り倒した。騎手になっている女は1本もハチマキを奪っていない。
「すごくないっ? あたしたち!」
終了の合図がなったとき残っていたのは4つの騎馬だけだった。
あたしたちって……お前何もしてねーじゃん!
と突っ込んでやろーと思っていたら、女がいきなりオレの頭を鷲掴みにして無理矢理オレの顔を上に向かせた。そのまま強く唇を合わせてきてさらに舌まで入れようとする。
……やっぱり結衣とは全然違う。
結衣はキスしたとき、恥ずかしいのかそれとも苦しいのか…すぐに離れようとする。それが急なもののときは尚更苦しそうに眉を寄せて必死に抵抗したりする。……それが余計にオレを煽ることになるとは知らずに。
オレがいつまでも唇から先を受け入れないでいたら、女が身体を起こしてオレから離れた。ちょっと怒った顔をして、
「……ヤラせてあげない」
とそっぽを向いた。
あげないって…… お前がヤリたかっただけだろ?
と腹の中で突っ込みを入れた直後、
ヤベっ! 今の見られてたよなっ!?
恐る恐る結衣の方を振り返る。
結衣は下を向いていた。テコンドーや同じクラスの男共に何か言われているみたいだった。
とりあえず見られてはいないみたいだ。ホッと胸をなで下ろす。
後半戦に出た結衣の騎馬は、始まってまもなく麻美の騎馬とやりあって崩れ落ちた。
大丈夫か? あいつ運痴だしトロくせーから落馬したとき怪我とか…… 心配になって結衣たちが転がっている方に向かう。
2つの騎馬が重なり合うように崩れたせいで、8人が団子状にもつれ合っている。
その中から結衣が身体を起こした。
怪我は……なさそうだな。
と安心しかけたとき、テコンドーが結衣の顔を覗きこんだ!
足を速めて結衣に近づきテコンドーを押しのける。
ったく…… 男女混合の騎馬戦なんてやるんじゃねーよ。喜んでんのは男だけだぞ?
「麻美っ!? 大丈夫?」
結衣の緊迫した声に振り向くと麻美がまだ地面に座りこんでいて、その左足から血が流れている。
騎手は裸足で参加していたんだけど、石か何かで足の裏を切ったみたいだ。
それじゃ立てないだろ?
麻美と同じ青組の男が肩を貸そうとしたら、なぜだか麻美はそれを頑なに拒んでいる。何が気に入らないのか、麻美は子供のように駄々をこねていた。
「あ、麻美? どうしたの?」
と結衣もウロたえている。「あたし先生呼んでくる!」
あーあー… 何メンドくせーことやってんだよ、この人。
オレは麻美の背中と膝を抱え上げた。麻美は驚きに目を見開き、一瞬だけオレの背後に視線を走らせた。
なんだ?と思って振り向いたら、そこには結衣とテコンドーが心配そうな顔をして立っていた。
「ちょっ!? 何やってんのよ! 下ろしなさいよっ!!」
オレが中央テントの方に歩き出すと、もの凄い勢いで麻美が暴れだした。
いくら女とはいえ麻美はタッパがある。本気で暴れられると落としそうになる。
一瞬、
マグロ漁師ってのはこんな感じか……?
と先日見たテレビの映像が脳裏を掠める。
「うるせぇっ! 運んでやってんだから大人しくしてろ!」
とマグロを怒鳴りつけと、
「頼んでないわよっ!」
と今度は手負いの熊に変身してくる。……お手上げだった。
教師に言われうんざりしながらそのまま熊を保健室に運び込むことになった。
保健師に処置されている間、麻美は俯いて何やらブツブツ言っていた。
「誤解されたらどーすんのよ…」
「は?」
「余計な事しないでって言ってるのっ!」
とオレを見上げた顔がちょっと泣きそうだったからオレは焦ってしまった。
なんだよ…… そんな泣きそうになるくらいイヤだったのか? 
普段から気ぃ合わねーけど、今日は特に気が立ってるみたいだ。
もしかして生理とか? ……それで騎手なんかやってて大丈夫だったのか?
いらん心配をして、「セクハラよっ!」と怒鳴られたくないから黙っていると、
「……気分悪い。寝る」
と麻美はさっさとベッドに入ってしまった。もちろん礼の一言もない。
オレが眉間にしわを寄せてそれを見ていると、保健師が、
「気にしないで。……色々あるのよ、女の子は」
とオレに耳打ちして来た。
なんだよ、やっぱ生理か。
オレが保健室から出ていくと、ちょうど結衣が階段を上ってきたところだった。
結衣は息を切らせながら麻美の様子を窺ってきた。
オレが見たままの事を話したら急に結衣が怒り出した。オレを無神経だと責めている。
一瞬、オレが麻美の機嫌が悪い理由を、
「アノ日かな?」
と発言したせいだと思ったんだけど、どうやらそれだけじゃなかったみたいだ。
なんだか結衣はかなり興奮していて話があっち行ったりこっち行ったりしている。
見られていないと思ったのにオレが騎馬戦のあと騎手だった女にキスされていたのも実は見ていて、それも責められた。
かと思ったら今度は合コンのときに遡って、オレをホスト扱いしていた女にオレがグレープフルーツを搾ってやったとか何とか……そんな こっちが忘れているような事までほじくり返して怒っている。
さらには、
「14センチの差でいいねっ!」
……ってなに? どういう意味? マジワケ分かんねえ!!
オレ今日女難の相とか出てんのかな? マジでそんな占い出てたら信じちゃうよ、今のオレ。
とにかく詳しく話を聞こうにも結衣はオレの問いかけもろくに聞こえていないみたいだった。
でもなんとなく…結衣の支離滅裂な話を聞いているうちに、まさかとは思いながらも……どうやら結衣がヤキモチを妬いているらしいことが分かってきた。
しかも最後には、
「陸は…誰でもない、あたしのカレシなんだからねっ!」
と赤い顔をして叫び、転がるように階段を駆け下りて行った。
結衣からオレに対する気持ちを聞いたのは、元カレのアキヒコとフリースロー勝負をした直後に、
「あたしが好きなのは陸だから!」
と慌てたように言った、それ1回だけだった。
元々オレから強引に付き合い始めたようなものだったし、結衣の性格から考えても好きとか愛してるとか?そんなセリフが出てくるとは思っていなかったけど。
でも、
「陸はあたしのカレシなんだからねっ!」
ってセリフは…… かなり嬉しくないか? つかチョー嬉しいよな!?
オレがニヤニヤしながら青組席に戻るとちょうど応援合戦が始まるところだった。
この応援合戦は、カラーごとに趣向を凝らした服装やパフォーマンスを審査員たちにアピールするというもので、意外と他の競技よりも盛り上がったりする。
オレたち青組は商業科の方にケッコー踊れるヤツがいるってコトで、B系ダンスを取り入れたモノになっていた。
普段、ベンキョー面ではパッとしないオレたち商業科だけど、体育祭や文化祭なんかのお祭りごとになったら話は別だった。
グラウンドの中央ではグリーンをベースにしたハッピを着た奴らが酔っ払いのソーラン節のようなものを踊っていた。緑組の応援席からは歓声が、他のカラーの席からは笑い声が上がっていた。
続いて青組のB系ダンス。どこから仕入れてきたのかラメ入りのダボダボなタンクトップを着崩して踊っている。
……微妙だな。
こういうのは思いっきり笑えるか、ため息出るくらいカッコいい物を出さないと高得点取れないんだよな。
そう言えば結衣も応援合戦に出るとか言ってたけど……どんなのやるんだ?
と思っていたら、おお〜っとどよめきが上がった。
赤組の応援団が入ってきたところだった。なんと赤組は全員女だけで構成してきた。
赤いハチマキをして白い手袋、そして学ランを着ている。しかも……
「あれ、下穿いてるよな? つか穿いてんだろーけどチョーキワドくね?」
学ランの下からは生足……
おいっ! おいしすぎるだろっ!
そうか… 高得点取る秘訣は、「笑い」、「技」、の他に、「色気」もあったのか……
……って、分析してるどころじゃねーよっ! これ結衣も出てんだよなっ!?
慌てて結衣を探す。 ―――いた。
最前列で、よほど気になるのかしきりに学ランのすそを引っ張ったりしている。
オレが結衣から目を離せずに凝視していると、結衣もオレに気が付いたみたいだ。
結衣はみるみる顔を赤くすると慌てて顔を背けた。
今の格好が恥ずかしいからなのか、それともさっきの保健室前でのやり取りが恥ずかしかったからなのかは分からない。
というか、そんなことはどーでもよかった。
さっきの結衣の発言に今の学ラン姿も相まって…… ああ、オレもう狂いそう……
もう、体育祭なんかどーでもいいからこのまま(もちろん学ラン姿のまま!)結衣を連れ去りたかった。
「ちょっ、あれよくね〜? 学ランのストイックさと生足がミョーにそそるよ!」
ジュンが騒ぐ。「あ! ヒカルちゃんみっけ!」
なぜかジュンは結衣のことを ヒカル と呼んでいた。
「この前のリベンジしちゃおうかな」
「は? なんだリベンジって…」
「あんときさ、お前とヒデがケンカ始めてなかったら絶対お持ち帰り出来てたんだよ、ヒカルちゃん」
と、ジュンは今にも席を立って応援団が退場してくる門の方に歩いていこうとする勢いだ。
「おいよせ! あいつオレの女だから」
オレは慌ててジュンの肩をつかんだ。
「え? ……何それ、マジで?」
「マジで」
ジュンはしばらくオレの顔をまじまじと見つめた後、
「意外なタイプだな〜。……つかヒカルちゃん絶対処女だと思ってたよ」
……それは当たってるけどな。
ジュンはまさかオレがまだ結衣に手を出していないとは思っていないようだった。
「シェアさせてくんないよね?」
「……ふざけんな」
ジュンは笑いながら、悪い悪い、と謝った。
背後から拍手と歓声が聞こえた。振り向くと赤組の応援合戦が終わったところだった。門の方に退場していく。
ジュンとくだらない話をしていたせいで結衣の学ラン姿を堪能できなかった…… くそ。
ま、いいか。今度オレの中学のときの学ランを着てもらおう。
とヨコシマな妄想を膨らませていたら、
「陸さ、ヒカルちゃんのことマジなら早めにヒデに言っとけよ?」
とジュンが言った。
「なんで?」
「あいつもリベンジ企んでるクチだから」
後方席に座っているはずのヒデを振り返る。ヒデの姿がない。
慌てて席を立ち上がろうとしたとき、結衣が青組席の方に歩いてくるのが見えた。
しかも学ラン姿のままだ!
オレが結衣に歩み寄るより早く、どこからかヒデが現れて結衣に近づいた。
ヒデは自分の顔を指差して、笑いながら何やら結衣に話しかけている。結衣は顔に困惑の色を残したまま曖昧に笑ったりしている。
オレは足早に二人に近づいた。
「結衣っ!」
結衣はオレに気が付くとホッとしたような…でもちょっと恥ずかしそうな顔をした。
ヒデがオレを振り返る。
「……なんだよ、陸」
オレたちは先日の合コンで殴り合いのケンカをしていた。ケンカ自体はよくあることで翌日には何事もなかったかのように忘れてしまうオレたちなんだけど、そのときのケンカの原因が目の前にいるせいでヒデの目が険しくなる。なんだよ、またやんのか?……と目が言っている。
べつにやってもよかったんだけど、結衣の前で商業科のケンカを見せたくなかったから、
「ヒデ、悪いんだけどこいつオレの女だから」
と顔の前で右手を切ってみせる。ヒデも先ほどのジュンと同じように驚いた顔でオレを見つめた後、
「……なんだよ。もう手ぇ付けてたのかよ」
と興味を失ったように踵を返した。
ヒデはジュンと違って自分が知っている男とカンケーした女には興味がないタイプだった。というか、
「ヤッてる最中ここにあいつが入ってたのかと思うと…… 萎えちゃってダメ」
ということらしい。今日ばかりはヒデの性癖に感謝する。
ホッと安堵のため息を付いていると、
「ヒカルちゃ〜ん!」
と青組席からジュンが手を振ってきた。
「え? ……ああ、さわやかクン?」
結衣がのん気に手を振り返している。
ジュンのどこがさわやかなんだよっ!?
クラスの他の男共もチラチラと結衣の方を振り返っている。
「―――ちょっとこっち来いっ!」
オレは結衣を体育館裏に連れて行った。
結衣はちょっと顔を赤くしたままモジモジと話し始めた。
「あ、あの…さっきは……」
しかしオレはそれを遮って、
「なんでこっち来んの?」
「え? だって…」
「あんま来んなよ、商業科の方」
しかもそんな格好で…… 誘ってんのかと思われんだろ?
「な、なんで?」
「なんでって……」
食われるからって言うか?
でもそんなこと言ったら怯えるか引くかだよな…
結衣はオレのセリフを待っている間、伏し目がちに学ランのすそをいじっている。
伏せられたまつ毛。何か考え込んでいるのか軽く噛んでいる唇。襟のフックまできっちり止められた学ラン。
そしてそこから出ている、結衣の生足……
ああ! もうマジで気が狂いそう。
つか狂っていい? ねぇ、いいよね?
ガマン出来なくなって結衣の唇に自分のそれを近づけると、
「えッ!? な、何するのっ?」
と結衣が慌てたように後ずさる。
「何って……キスだよ」
説明するのももどかしく、性急に結衣に口付ける。
「んっ、や……あっ」
やっぱり結衣は切なげに眉を寄せて必死に抵抗しようとしている。
だから…… それが余計に煽られるんだって。
遠く校庭からクシコスポストが流れているのが聞こえる。それから生徒のざわめきと、ときどき入るアナウンス。
賑やかな校庭とは対照的に静かな体育館裏。
「…う、んっ! ちょっ… 息、出来な…っ ンッ ふっ…」
オレたちのキスが起こす水音の合間に結衣の吐息が混じる。
甘美な世界がオレを手招いている。
どうする? ……このままいっちゃうか?
―――学ランの一番下のボタンを外す。
でも結衣は初めてだぞ?
―――その一つ上も外す。
……あ、やっぱ下に短パン穿いてるよな?
いや、そうだろうとは思ってたけど、実際確認するとちょっと残念というか寂しいというか……
一瞬オレがそっちに気を取られているすきに、結衣はオレを突き飛ばすようにして離れた。
真っ赤な顔をして肩で息をしている。
「も、もうっ! ちゃんと、話したいのに! 真面目、な、話なのにっ!!」
「ゴメンゴメン。……で、なんだっけ?」
仕方ない… この先は諦めよう……
結衣は息を整えた後、
「さっきの…あの… 保健室の前で話してたことなんだけど……」
「ああ……」
結衣は学ランの襟元のあたりを握り締めて顔を背けながら続ける。
ああ、そのしぐさもそそられる……
「ちょっと動揺してたっていうか? あたしも何言ってたか良く覚えてないんだけど…… と、とにかくワケの分からないこと言って陸のこと混乱させちゃったと思って! 謝らなきゃって思ってそっち行ったの」
「うん」
別に謝んなくていいよ。
つか嬉しかったし逆に。ヤキモチ焼いてくれたんでしょ?
「だ、だから、あの…… 陸が迷惑に思うって考えてなくて… つい行っちゃって……ゴメンね?」
……ん? 何の話だ?
「そりゃそうだよね! あたしみたいなのと付き合ってるって商業科の子たちに知られたら… は、恥ずかしいよね?」
んん? ちょっと待て?
「こ、これからは行かないようにするからっ! 安心してね!」
「結衣? 何の話?」
なんか結衣が激しく誤解してそーだったから、よく確認しようと思ったら、
「お―――い! 陸―――っ!?」
とオレを呼ぶ声が聞こえてきた。「次、借り物競争だぞ――! 早く戻って来いよ―――!」
「あっ じゃ、あたし行くね?」
「え? ちょっと結衣?」
オレが呼び止めるのも聞かずに、結衣は赤組席の方に走って行ってしまった。
一瞬あっけに取られてから、オレも青組席の方に戻りかける。
なんて言ってた? 結衣のやつ……
あたしみたいなのと付き合ってるって商業科の子に知られたら恥ずかしいよね?
って、そう言ってたか? 今。
何言ってんだ? オレがいつそんなこと言ったよ!
眉間にしわを寄せながら青組席に戻ると、
「ああ、陸〜! やっと来た。今から借り物競争の説明するからこっち集まって」
とみんなに押し付けられるように学級委員にされたスネ男(もちろんだけどあだ名だ)がオレを手招きした。
「説明とかいらねーだろ。指示されたもの持って来りゃいいだけじゃねーの?」
「そうなんだけど若干のルールとかあるから」
と言ってスネ男は借り物競走に出る他の奴らにも説明を始めた。
オレはふと思い付き、
「おいスネ男! お前ボールペン持ってる?」
「ボールペン? 持ってるけど……」
と言ってスネ男はシルバーのボールペンを寄こした。クロスのボールペンだった。
「スネ男、お前高校生のくせにクロスなんか使ってんのかよ? …くれっ!」
「や、やだよ〜っ! ちゃんと返してよ!」
スネ男は慌ててオレの手からボールペンを奪い返そうとした。

NEXT