Winter Wonderland ※R18 

「入園制限って…… ウソでしょ―――ッ!」
舞浜の駅でそれを知り、あたしはショックで倒れそうだった。
「再開予定は5時か…… 仕方ないな、今日は諦めよう」
ショックが隠せないあたしの横で、メグは淡々としている。
「え〜〜〜ッ!」
「えーっつったって、入れないんだから仕方ないだろ?」
メグってば仕方ないとか言いながら、本当は嬉しいんじゃないの?
メグ、ジェットコースター系苦手だもんね……

今日は12月24日、クリスマスイブ。 あたしはメグと一緒にディズニーランドにやってきた。
実はメグは、10月の文化祭でMVPを取り、その副賞としてディズニーリゾートのペアパスポートを貰っていた。
有効期限は1年間あったけど、どうせならクリスマスに行こうという話になり、色々計画を立てて今日やってきたんだけど……
舞浜の駅を下りたら、入園制限をしていて入れないということが発覚した!
ディズニーランドは入園者数が規定の数を超えると、入園制限するようになっている。
クリスマスだし混むだろうとは予想していたけど……
まさか、こんなに早い時間から入園制限されるなんて思わなかった!
「せっかく来たのに…… ヘコむ」
あたしがいつまでも項垂れていたら、
「明日朝イチで来りゃいーじゃん。 どうせ泊まるんだからさ」
とメグ。
泊まり……
―――そうだッ!!
今日はディズニーランドの近くのホテルにお泊りなんだった!!!
「クリスマスだし、どうせ行くならラストまで遊びたいだろーし……」
ってメグが言ってくれて……
初めてのお泊りなんだよね―――ッ!!
お母さんを騙すのはちょっと気が引けたけど、ミドリんちでクリスマス会だってことになってる。
ミドリに協力をお願いしたら、大きな溜息をついたあと、
「……ちゃんと避妊はしろよ? カンパとか言ったって金なんかないからなっ!」
とか言われてしまった……
とにかく、そうやって色々手配してやっとここまでやってきたのに、当のディズニーランドが入園制限されてるなんて、ホントにありえないっ!!
……とは言っても、メグが言う通り、ここで騒いでたって入れるわけじゃないから諦めるしかないんだけど……
「ホラ。 いつまでふくれてんだよ、行くぞ!」
とメグがあたしに手を差し出してきた。
「……うんっ!」
滅多に手なんか繋いでくれないから(しかもメグから!)嬉しくなってしまった。
たった今まで落ち込んでたくせに…… あたしって単純。
気を取り直して、近くのショッピングモールを2人で流した。
「……なんか、カップルとか親子連れが多いね」
「クリスマスだからな」
あたしたち以外にも、周りには手を繋いで歩く人がたくさんいた。
「……あたしたちもそう見えるのかな?」
「なに? 親子とかに?」
「んなわけないじゃんっ!」
「んじゃ、兄妹?」
「もうっ!」
メグの背中を叩いた。 メグは笑いながら、
「ちゃんと見えるだろ?」
繋いでいた手をちょっとだけ離して、「恋人同士に」
と、今度は指を絡めるようにして繋ぎ直してきた。
うわっ!
な、なんか…… 照れる……
こんな風にして繋ぐことなんて殆どないから……
っていうか、今日メグ、なんか… いつもより甘いよね。
いや、そ、そーいうこと誘ってくるときのメグはもっと甘いけどっ
けど、人前でこんな感じにしてくれるの、ホント珍しい……
もしかして、クリスマスだからかな?
それでメグもテンション上がってる?
何だか嬉しくなって、手を繋いだままもう片方の手でメグにしがみついた。
「なんだよ。 歩きづれーだろ」
と言いつつ、その手を振り払おうとはしないメグ。
振り払わないどころか、優しく見つめ返してくれて……

もう、クリスマス最高―――――っ!!

そんな感じでショッピングを楽しんでいたときだった。
「パパぁ〜」
すぐ傍で、甘ったるいような可愛らしいような、そんな感じの声が聞こえてきた。
「は?」
続いて、戸惑うようなメグの声。 そしてメグは、そのまま自分の足元の方を見下ろした。
あたしもつられて見下ろしたら……
「パパぁ〜」
メグの足元に……
知らない女の子がいるっ!!
「……誰?」
「オレが知ってるわけないだろっ!?」
「だって…… 掴んでるよ?」
女の子はしっかりとメグの服の裾を掴んでいる。
どうやらメグと自分のパパとを間違っているみたいだ。
「……もしかして、メグの着てる服が偶然この子のパパと同じで、それで間違っちゃったとか……?」
「ウソだろ……」
あたしの想像にメグが絶句する。
「ホラ、メグ背が高いからさ、顔まではこの子から見えなかったんじゃん? で、間違えちゃったの」
あたしがそう言ったら、女の子と目線を合わせるようにしてメグがしゃがみこんだ。
「ねぇ? パパとはぐれちゃったの?」
女の子がメグと顔を合わせる。 途端に女の子は目を見開いた。
人違いをしていたことに気付いたらしい。
……それにしても、この子のパパはどこにいるんだろう?
見た感じ4、5歳くらいだけど…… はぐれちゃったのかな? この人ゴミだし……
でも、はぐれてからそんなに時間が経っていないんだったら、近くで探しているかもしれない。
あたしは周りを見渡した。
……けれど、それらしい人はいない
どうしよう…… まさか、こんな小さい子を放っていけないし……
とあたしが困っていたら、メグと顔を見合わせたままだったその女の子が、
「パパッ!」
とメグに飛びついた。
「えっ!?」
飛びつかれた勢いで、メグはその子を抱き止めるような格好で尻餅をつく。
「ちょ…? ちょっと待ってっ!」
あたしは驚いて女の子の傍にしゃがみこんだ。「よ、よく見て? パパじゃないでしょ?」
「パパだもんっ!」
女の子はそう言って、余計にメグに抱きついた。
「ううん、パパじゃないでしょ? ちょ……、とりあえず離れて! お兄ちゃん、苦しいって!」
あたしが女の子をメグから引き剥がそうとしても、
「やぁだっ! 苦しくなんかないもんっ! パパ、さくらがこうするといつも喜ぶもんっ!」
「だからっ! この人はパパじゃないって言ってるでしょ!? っていうか、パパの顔も分かんないわけっ!?」
あまりの女の子のしつこさに我慢出来なくなって、あたしがそう言ったら、
「うわあぁぁぁぁああんっ!」
と、女の子が急に泣き出した。
「ぅわっ!」
その声の大きさにあたしもメグも驚いた。
周りの人たちも、何事かとこっちを見ている。
「ちょ…っ 泣かないで? …っていうか、なんで泣くのっ!?」
慌てて女の子を宥める。 女の子はメグにしがみついたまま、
「だってパパだもん! さくらのパパだもん!! うわぁ〜〜〜ん!!」
「だ、だからぁ……」
いくら宥めようとしても、女の子の泣き声は大きくなるばかりだった。
メグは座り込んだ姿勢のまま、
「……交番行こう」
とあたしに耳打ちしてきた。 あたしもソッコ―で肯いた。
「えーと……さくらちゃん…だっけ? とりあえず立とうか?」
そう言って、メグはその子……さくらちゃん?の手を取りながら一緒に立ち上がる。
そのまま移動しようとしたら、
「あ、待って! くまちゃんのおててがまだ見つかってないのっ!」
とさくらちゃんがメグの腕を引っ張る。
「くま?」
「くまちゃん」
さくらちゃんは手にしたピンク色の物をメグに見せる。「おてて、取れちゃった」
ピンクのギンガムチェック柄のテディベアだった。 腕が片方なくなっている。
どうやら、そのなくなった腕を探している間にパパとはぐれたらしい。
「え… 腕、腕……」
と辺りを見回したら、「あ、あった!」
3メートルほど先にピンク色の物を発見。 人ごみを縫うようにして小走りに取りに行った。
さくらちゃんは零れそうな笑顔で、
「おねえちゃん、ありがとっ!」
「どーいたしまして」
機嫌が直ったみたいだったから、この隙に…と、さくらちゃんを連れて交番へ移動した。
さくらちゃんはメグの手をしっかりと握って、
「パパぁ、どこ行くの〜? さくら、アイス食べた〜い!」
「アイスかぁ。 でも寒いんじゃないかな?」
交番に行くと決めてからは、もう、
「パパじゃないでしょ!?」
と訂正することはやめていた。
「……もしかしてこの子、ちょっとおかしいのかな?」
さくらちゃんに聞こえないように、小さな声でそうメグに話し掛ける。
「さぁ。 他は全然普通に見えるけど……」
そうなんだよね。 メグをパパだって主張する以外は、何も変わったところはないんだよね。
逆に、他の子と比べてもちょっと可愛いくらいなんだけど……
「迷子みたいで…… よろしくお願いします」
交番でさくらちゃんを引き渡した。
「はい、ご苦労様です。 この時期多いんですよね〜。 お手数おかけしました」
さくらちゃんを見つけた場所や時間なんかを報告すると、あたしたちは早々に解放された。
「せっかくのクリスマスなのに…… 早くパパ見つかるといいね」
「だな」
そんなことを言いながら、そのまま交番を出ようとしたときだった。
「おじょうちゃん、お名前は? 何歳?」
おまわりさんがさくらちゃんにそう尋ねるのが聞こえた。 するとさくらちゃんが、
「千葉さくら! 4歳!」
「えっ!?」
交番を出ようとしていたあたしたちは驚いて振り返った。
さくらって下の名前は聞いていたけど、名字が千葉だっていうのは今はじめて知った。
千葉ってそんなに珍しい名前じゃないだろうけど、でも、あたしの周りではメグぐらいしかいない。
「……すごい偶然だね?」
メグもちょっと驚いた顔をしている。
「じゃ、パパとママの名前は?」
さらにおまわりさんがさくらちゃんに尋ねる。 さくらちゃんはちょっと考え込むような仕草をしながら、
「えっとね〜… パパはママのこと、まゆって呼んでるよ」
「え…… えぇっ!?」
さらに驚いた。
さくらちゃんの名字が千葉で、そのママが「まゆ」って……
こんな偶然あるんだ……
「でもママはパパのことパパって呼んでて…… さくらも名前は知らない」
さくらちゃんはそう言って、クルリとあたしたちの方を振り返った。
「パパ! パパの名前、なんだっけ?」
「はぁっ!?」
さくらちゃんは可愛らしい笑顔をメグに向けて、
「おまわりさんがパパの名前知りたいって。 教えてあげて!」


「ちょ、ちょっとっ!」
慌ててさくらちゃんに駆け寄った。「だから、このおにいちゃんはパパじゃないってさっきから言ってるでしょ!?」
「パパだもんっ!」
「あのね〜…」
あたしとさくらちゃんがそんなことを言い合っていたら、
「ちょっと」
とおまわりさんがあたしたちの方に視線を投げかけてきた。
「……一応キミたちの名前、聞いてもいいかな」
顔は笑顔だけど、なんだかその目が笑っていないように見えるのは…… あたしの気のせい?
メグはちょっとだけ眉間にしわを寄せながら、
「……千葉恵、ですけど」
「千葉…… ね」
おまわりさんはメグの名前を聞いて肯きながら、今度はあたしに向かって、「キミは」
と聞いてきた。
「え… あ、市川です」
「市川……何?」
「……真由」
あたしがそう名乗った途端、おまわりさんは顔をしかめた。
「……キミたちねぇ〜 ここは託児所じゃないんだよ!」
「はい?」
一瞬、おまわりさんが何の話をしているのか分からなかった。
「まだ若いし、二人で遊びに行きたい気持ちも分かるけど、ちゃんと自分たちの子供の面倒くらいみてやんなさいよ」
「あ、あの……?」
「いるんだよね、ときどき。デパートの迷子センターとかを託児所代わりにしてる人。 安全だしタダだし。 まぁ、交番を利用してきたってのはキミたちが初めてだけど」
「ッ!! 違いますよっ!」
やっと気が付いた。
このおまわりさんは、あたしたちがさくらちゃんのパパとママだってカン違いしてるんだ!
メグが慌てて訂正する。
「僕たちはさっき初めてこの子に会ったんですから! 全然無関係なんですっ!!」
「無関係なわけないだろう! 名前だって合ってるし、なによりこの子がキミのことお父さんだって言ってるんだからっ!!」
おまわりさんはさくらちゃんのすぐ横にしゃがみ込んで、「さくらちゃん、キミのパパって誰?」
と聞く。 さくらちゃんは元気良く、
「パパっ!」
とメグを指差した。
おまわりさんは一呼吸置いてから、笑顔で、
「……いい加減にしなさいね!? こっちは年末で忙しいんだからっ!!」
とあたしたち3人を交番から追い出した。
「なっ、なんで信じてくれないのっ!? こんな若いパパやママなんかいるわけないじゃんっ!!」
全然話を聞いてくれないおまわりさんに、あたしが腹を立てていたら、
「いや… 案外、オレたちぐらいの親って珍しくねーのかも……」
とメグが周りを見渡した。
「え?」
言われてあたしも辺りに視線を走らせたら……
「……ホントだ」
「だろ?」
あたしたちとあまり変わらなさそうな若い人たちが、ケッコー小さい子を連れて歩いている!
えっ!? あのお母さんなんか、ホント、高校生くらいに見えるしっ!
うわっ! あっちのお母さんはスカート短っ!
一緒に歩いてる子供に見えてるんじゃないの? ―――パンツ……
そんなふうにあたしたちが周りを見渡していたら、
「パパぁ、お腹すいた!」
とさくらちゃんが。 時計はお昼をとっくに過ぎている。
仕方なく、駅前のファーストフード店に入った。
「パパ、ポテト食べる?」
さくらちゃんがメグにポテトを差し出す。
「や、さくらちゃん食べていいよ」
「そ? じゃあおねえちゃんにあげる。 さっきくまちゃんのおてて見つけてくれたから」
「……ありがと」
さくらちゃんがあたしの口にポテトを運んでくれる。
「……でもさ、そんなに似てるのかな? さくらちゃんのパパとメグ」
「さぁ」
メグが諦めたように肩をすくめる。
「っていうか、そんなにメグに似てるパパって興味あるな。 会ってみたい!」
「……お前、面白がってるだろ?」
「まさか!」
「いーや! 絶対面白がってる!」
「どうする? このままさくらちゃんのパパが見つからなかったら。 ホントにパパになるしかないかもよ?」
あたしがわざとらしく困った顔をして見せたら、メグはちょっとムッとした顔をしたあと、
「ねぇ、さくらちゃん? ママってどんな人?」
とさくらちゃんに笑顔を向けた。 ハンバーガーを頬張っていたさくらちゃんが顔を上げる。
「ママ?」
「うん。 ママのこと教えて?」
さくらちゃんは、なんでパパがそんなこと聞くの?、と不思議そうな顔をしながら、
「えっとねぇ、優しいけど怒ると怖いよ。さくらがパパと遊んでると、ときどき怒っちゃったりするの」
「え?」
子供がパパと遊んでて、なんで怒り出すんだろう……?
首を捻るあたしに、さくらちゃんは、
「なんかね、ママはパパが大好きなんだって。だからさくらばっかりパパと遊んでると、怒っちゃうんだって。 パパが言ってた!」
と言って、またハンバーガーをかじった。
「……すごいヤキモチ焼きのママみたいだね? 自分の娘にさ」
メグにそう言ったら、メグは、
「お前と一緒」
と笑った。
「はぁっ!? あたしはそんなにヤキモチなんか焼かないよっ! しかも自分の子供でしょっ!?」
メグはあたしの抗議を無視して、
「ねぇ、さくらちゃんのママって、このおねえちゃんに似てない?」
とさくらちゃんに尋ねた。 さくらちゃんはあたしを眺めて、
「……似てるかなぁ。 声とか似てるかもしれないけど…… ママの方がキレイ」
「はっ!?」
マ、ママの方がキレイって……
「それに、ママの方がもっとおっぱいおっきい!」
「おっ……ッ! は、はぁっ!?」


さくらちゃんのセリフにあたしが絶句していたら、目の前でメグが肩を震わせて笑っている。
「な、なによっ!」
「いや、オレをパパだって言うし、ママはまゆって名前だって言うから、もしかして母親もお前に似てんじゃねーかなと思ったんだけど…」
メグは笑いを堪えながら、「ごめん、全然違ったな」
「ちょっとっ!」
た、確かにあたしはキレイじゃないよっ!? それはちゃんと自覚してるよっ!?
けど、おっぱ……じゃなくて、む、胸は普通だと思いますけどっ!?
前にチハルに、
「真由って意外と胸おっきいよね」
って言われたことあるしっ!
プリプリ怒るあたしの前でメグはいつまでも笑っている。
「ちょっと! いい加減笑うのやめてよっ!」
あたしがいつまでも笑いつづけるメグを叩こうとしたら、
「でもパパは、おっぱいおっきい人が好きなんだよね?」
とさくらちゃんがメグに笑顔を向ける。
「えっ!?」
「だってよくママのおっぱい触ってるでしょ? それでママに怒られてる!」
「オ、オレ?」
今まで笑っていたメグが、急に焦りだす。
どうやらさくらちゃんのパパもママのことが好きみたいで、スキンシップが多いみたいだ。
子供の前でイチャイチャするのは…まぁいいとして、胸まで触るっていうのはちょっと行き過ぎのような気がする。
さくらちゃんは肯きながら、
「あれ止めてあげて。 ママ本当に嫌がってるよ? この前だって泣かせてたの、さくら知ってるんだよ!」
とちょっと難しい顔をする。
泣くほど嫌な胸の触り方って、どんなのだろう?
やたら力が強すぎて痛いとか……
とそんなことを考えていたら、
「この前、夜おトイレに起きたとき、パパたちの部屋からママの泣き声聞こえたもん! ヤダって」
「ッ!!!!!!!!」
メグと2人で絶句してしまった。
そ、それってもしかして……



「……なんつー親なんだよ」
お店を出て、さっきさくらちゃんと会った場所にもう一度行ってみることにした。
もしかしたら、今ごろ本当のパパが探してるかも、と思ったから。
「子供がいる前でそんなことするか?普通。 しかも、夜は夜で声まで聞かれて… こんな小さい子に」
「ちょっとスキンシップが過ぎるよね」
「それがオレに似てるってのがさらにムカツク!」
「さくらちゃん、完全にメグがしてるって思ってるもんね」
そんな話をしながらさっきの場所に到着。
……でも、子供を探してる人とか、それらしい人は見当たらない。
「さくらちゃん、パパいない?」
「いるよ」
とメグを指差す。
「いや…」
さくらちゃんを当てにするのは無理だ。
当てにするどころか、もうすっかりメグをパパだと思い込んでしまったさくらちゃんは、
「さくら、ディズニーランド行きたい!」
とか、
「おもちゃ見たい!」
とか、自分の欲求の向く方に移動しようとする。
「ちょ、ちょっと待って! あんまりここから離れたら余計にパパ見つからなくなっちゃうからっ!」
「やだやだやだっ! ここつまんないっ! お店屋さん行きたいっ!!」
さくらちゃんが喚きだしたから、仕方なくショップが並んでいる方に移動。 途端にご機嫌が直るさくらちゃん。
「パパ! あの長靴かわいいよっ!」
「どれ?」
メグはさくらちゃんにされるがままになっている。
ケータイの時計を見たら、もうすぐ3時になろうとしている。 もう、舞浜駅に着いてから6時間近く経っていることになる。
クリスマスだからディズニーランド行こうって張り切ってきたのに、入園制限されてて入れないし、じゃあ仕方ないからショッピングでもしようと思ったら迷子のさくらちゃんにつかまっちゃうし。
それで親切に交番に届けようとしたら、カン違いされて逆に怒られちゃうし……
せっかくのクリスマスが、全然楽しめない。
なんか…… あたしたち、何やってるんだろ?
「このカサ、パパに似合う〜!」
さくらちゃんがてんとう虫のカサをメグにさしかける。
「ありがと。 でも、さくらちゃんの方が似合うんじゃないかな?」
「そっかな〜」
なんか…… メグ、すっかりさくらちゃんに慣れちゃってる。 はたから見たら本当の親子みたい……
「……メグ、あたしバッグとか見たい」
商品の積み木で遊ぶさくらちゃんを眺めているメグ。 そのメグの腕を引っ張った。
「ん?」
「あっちのお店行きたいって言ったの! 来てっ!」
「待って、さくらちゃんが… さくらちゃーん、行くよー!」
メグがさくらちゃんを呼んだら、さくらちゃんは、
「え〜! まだここにいたい〜っ!!」
と首を振ってそこを動こうとしない。 メグは小さく溜息をついて、
「仕方ねーな… オレがさくらちゃんみてるから、お前そっち見に行っててもいいよ」
「それじゃやなのっ! あたしはメグと一緒に見に行きたいのっ!」
メグはちょっとだけ困った顔をしたけど、結局強引にさくらちゃんを連れ出してあたしの方に来てくれた。
そうやって、やっとメグを動かせたと思ったら今度は、
「パパぁ、ここつまんない!」
とさくらちゃんがまたごねだした。
「ディズニーランド行くぅ!」
「ディズニーランドはね、今日は混んでて入れないんだよ?」
「じゃ、おんぶ!」
「はいはい」
せっかく可愛いお店を見て回っても、さくらちゃんがメグを独占していて全然楽しめないっ!
いつも間にさくらちゃんがいるから、手だって繋げないし!

そうやってさくらちゃんに振り回されていたら、段々日が暮れてきた。
電飾がキレイなツリーの前で足を止める。
「キレイだね〜」
「そうだな〜。 あ、ほら、ここにサンタさんぶら下がってる!」
「あっ、ホントだっ! かーわいい〜♪」
……ってなんでこの会話が、あたしとメグじゃなくて、さくらちゃんとメグのものなのよっ!?
メグとクリスマスの電飾見るの楽しみにしていたのに、このままじゃずっとさくらちゃんにメグを取られちゃう!
もうっ! 計画が全部メチャクチャだよっ!
ディズニーランドには入れないし、ショッピングも楽しめないし…… このまま夜になっちゃうのかな……
―――って… はっ!?
ま、まさか、このままさくらちゃんのパパが見つからなかったら……
もしかして、夜も一緒なワケっ!?
まさかまさか、このままホテルまで連れて行く気―――――っ!?

「だって、あのまま放っておけないだろ」
「だからってなんでっ」
「うわぁい! ふわふわ〜♪」
ツインベッドの片方の上で、さくらちゃんがピョンピョンと飛び跳ねる。
―――まさか……と心配していたことが、あっさり現実のものとなってしまった。
「見て、パパ!」
「あー、落っこちないように気をつけなね」
「メグっ!!!」
あたしが怒鳴ったら、やっとメグは顔をあたしの方に向けて、
「だから仕方ねーだろ!? …警察に行っても追い出されるし、親は見つかんねーし」
「だからってなんでホテルにまで連れてくるのよ!?」
「じゃ、あのまま放っておけば良かったのかよ? こんなに暗くなってきたってのに!」
「そ、それは……っ」
あたしも他に何も思いつかなかったから、口をつぐむしかなかった。
「……パパ? ケンカしてるの?」
あたしたちがベッドの縁に腰掛けて押し黙っていたら、さくらちゃんがメグの背中に圧し掛かってきた。
「もしかして、さくらのせい?」
さくらちゃんは不安そうな顔をしている。
そうだよっ! さくらちゃんのせいだよっ!!!
……そう思ったけど、当然言えなかった。
「違うよー」
メグがさくらちゃんに笑顔を見せたら、さくらちゃんも安心した顔になって、
「パパ、今日一緒に寝てもいいっ?」
とメグの膝の上に乗った。 メグは一瞬だけ黙ったあと、
「いいよ」
……って、ちょっとメグ――――――っ!?
なに肯いちゃってんのっ!?
今日はクリスマスイブだよ!
しかも、お泊りなんだよっ!?
それをいくら小さい子供だからって、他の女の子と一緒に寝るって…… どうなのっ!?
「パパッ! 一緒にお風呂入ろっ!」
「いやっ! ……それは、おねえちゃんと一緒に入りなさい」
さすがのメグもそれは無理みたいだ。
っていうか、もし万が一肯いても、あたしがそうさせないけどっ!!
「いつもは一緒に入るのに〜…」
唇を尖らすさくらちゃんと一緒にお風呂に入った。
あ〜あ… なんであたし、こんな知らない子と一緒にお風呂なんか入ってるんだろ。
本当だったら今ごろ……
「絶対、こっち見ないでよっ!」
「なにを今さら」
「じゃ、電気消してっ!」
「風呂でそんなことしたら危ねーだろーがっ! 滑って頭でも打ったらどーすんだよっ!?」
「……やっぱりひとりで入ればよかった」
「ほら、こっち来いよ」
「ひゃっ! ……や、やだっ! メグどこ触ってんのっ!!」
なんてことになってたかもしれないのに……
そう、こんなふうに胸とか触られちゃってたかも……
「……って、うわっ!」
ふと、胸に小さな暖かい感触を覚えたから見下ろしてみたら、さくらちゃんがあたしの胸を触ってる!!
さくらちゃんは笑顔であたしを見上げると、
「ママの方がおっきいけど、おねえちゃんもおっきいね」
「あ、ありがと」
なんだか恥ずかしくなって、小さくお礼を言うとそそくさと胸を隠した。
「見てパパ! すごくキレイだよ、外!」
髪を乾かして部屋に入っていったら、先に出ていたさくらちゃんとメグが窓から外を見下ろしていた。
窓がさくらちゃんの目線よりちょっと高い位置にあったから、メグがさくらちゃんを抱っこしている。
――――ずるい。
なんだかお腹の中がモヤモヤしてきた。
「メグッ! あとで外行こっ! さっきキレイなツリーがあったの、それ見に行きたい!」
あたしがメグを誘ったら、メグに抱っこされていたさくらちゃんが、
「あ、さくらも行きたい!」
と振り返った。
「さくらちゃんはダメっ!」
「なんでぇ」
「子供はもう寝る時間だから!」
「だったらパパだって行けないよ。 パパはさくらと一緒に寝るんだもん」
「一緒に寝ませんっ! このお兄ちゃんはおねえちゃんと一緒に寝るのっ! さくらちゃんじゃ相手にならないのっ!」
「えっ?」
さくらちゃんが眉を寄せる。
「おいっ! 子供相手に何言ってんだよ?」
あたしとさくらちゃんが言い合っていたら、メグが間に入ってきた。
「だって!」
「だってじゃねーだろっ! ……ったく、そんなんじゃこいつの親と変わんねーな」
メグは呆れたようにそう呟くと、「ほら、さくらちゃんはもう寝る時間だよ」
とさくらちゃんを抱いたままベッドに連れて行った。
「パパも一緒に寝るんだよ」
「分かってるよ」
「お話もしてね」
「いーよ」
そんなことを言いながら二人がベッドに入る。
さくらちゃんがベッドから顔だけ出して、
「おねえちゃんは寝ないの?」
って聞いてきたけど、
「……」
あたしは返事をしなかった。 代わりにメグが、
「おねえちゃんはあとで寝るって」
と言いながら、サイドテーブルについているスイッチで部屋の明かりを消した。
いくつかの小さな明かりを残して、部屋が薄暗くなる。
「じゃあ、おやすみなさーい!」
そう言われたけど、やっぱりあたしはそっぽを向いていた。
「お話ー」
「えーとねぇ…」
2人はベッドの中でひそひそやっている。
別に内緒話をしてるとかじゃなくて、さくらちゃんが寝付きやすいようにトーンを落として話してるだけだって分かってる。
なのに…… 我慢できなかった。
メグとさくらちゃんがくっ付いているのが許せなかった。
相手は小さな子供だって分かってる。
メグだって、パパとはぐれたさくらちゃんが可哀想だから、だから優しく相手してるだけなんだって分かってる。
そう分かってるのに…… 胸のモヤモヤが取れなかった。
この気持ちは――――― 嫉妬だ。
「ちょっとっ!」
ベッドの枕元でそう怒鳴った。
「え…?」
さくらちゃんが眠そうな顔を向ける。「なぁに、おねえちゃん」
もしかして寝付きそうだったところを起こしちゃったのかな、とちょっと気が引けたけど、
「悪いけど、さくらちゃんは1人で寝て!」
「え…」
「このベッドはこのまま貸してあげる。 けど、メグは返してもらうからっ!」
あたしのセリフに、メグが眉を寄せる。
「は? ……今さら何言ってんだよ?」
「メグって……?」
さくらちゃんが戸惑った顔をする。
「さくらちゃんがパパだってカン違いしてるお兄ちゃんのこと! このお兄ちゃんはおねえちゃんのだから返してもらうね!」
「パパぁ…」
さくらちゃんがメグを見上げる。メグは、
「大丈夫だから、さくらちゃんは寝な?」
とさくらちゃんの背中を撫でて、「お前… せっかく寝付きそうだったのに、何大声出してんだよ」
とあたしを軽く睨んだ。
「そ、そんなの知らないもん! 1人で寝ればいーじゃん! 元々あたしたちこの子とは何の関係もないんだし…」
「ごめん、起こしちゃったな〜。 大丈夫だから、もう寝な」
メグはあたしなんか無視して、またさくらちゃんに布団を掛け直したりしている。
さくらちゃんはまた目を閉じた。
なんで?
なんでさくらちゃんさくらちゃんって……
今日は特別な日なんだよ? あたしずっと楽しみにしてたんだからっ!
ディズニーランドに入れなかったのはしょうがないとしても、さくらちゃんが来たお陰で、メグとの時間まで全部台無しになっちゃってる!
「メグ!」
もう一度メグを呼ぶ。
「……なに」
明らかに不機嫌そうなメグの声。「寝れねーだろ」
「寝ないでよっ! 今日はイブだよ!? っていうか、なんであたし以外の子と寝てんのよっ!?」
「は? お前、何言ってんの? ……相手は子供だろ? それに、さくらちゃんは父親とはぐれて可哀想だから…」
「うそっ! メグ全然困ってなさそうだもん! 逆に、さくらちゃんにパパとか呼ばれて嬉しそうにしてる!!」
「してねーって!」
「してる!!」
「してねぇっつってんだろっ!!」
あたしがしつこく言っていたら、メグが突然怒鳴った。 驚いてあたしも口をつぐむ。
間接照明しか点いていない薄暗い部屋で、メグが怖い顔をあたしに向ける。
……視界の端に、窓の外の夜景が映った。
……まだ時間が早いせいで、廊下を楽しそうに歩く人たちの気配も微かに部屋の中に伝わってくる。
本当だったら今ごろあたしたちだって、あの夜景を見てクリスマスを楽しんだりしてたはずなのに……
一晩中メグと楽しく過ごすはずだったのに……
―――なのに、なんでこんなことになっちゃってるんだろう…
「……あたし、もしメグと結婚しても、絶対子供なんかいらない」
「は?」
「だって、絶対メグ、子供ばっかり可愛がって、あたしのことほったらかしにするもん!」
「……なんでそんな話になるんだよ」
メグがうんざりしたように髪をかき上げる。
「今だってそうじゃん! メグはさくらちゃんのパパじゃないんだよっ!? なのにベタベタしちゃって……! これが自分の子供だったら余計にそうなるよっ!」
「そんなことねーよ」
「あるもんっ!」
メグは小さく溜息をついて、
「いー加減にしろって。 ……さくらちゃん起きちゃうだろ?」
〜〜〜また、さくらちゃんって言ったっ!!
そんなにさくらちゃんが大事なわけ?
そりゃ確かに、パパが見つからなくて可哀想だとは思うけど……
けど、あたしだって可哀想なんだよっ!?
今日のクリスマスデート、ずっと楽しみにしてたのにメチャクチャになっちゃって……
あたしだって泣きたいんだよっ!?
あたしの気持ちも分かってよっ!!!
「……あたし、さくらちゃんのパパの気持ち、ちょっと分かったかも」
「……なんだよ」
「さくらちゃんちもパパとママラブラブみたいだし、せっかくのクリスマス2人っきりで過ごしたかったんだよ」
「……そんなことねーだろ」
「だって、こんな小さい子がいなくなったっていうのに、探してないっておかしいじゃん!」
「………」
あたしがそう言ったら、メグは口をつぐんだ。
「ほら、メグだってそう思ってるんでしょ?」
「もーいーって。 やめろよ…」
「さくらちゃんのパパはさくらちゃんが邪魔に――」
「おいっ! やめッ…… ッ!?」
あたしを怒鳴りつけようとしたメグが、ハッとしたように振り返った。
さくらちゃんにかけていた布団が、もぞもぞと動いている!
「……さくら、邪魔なの…?」
もうすっかり眠ってると思ってたのに…… 起きてたんだ!
慌てて口を押さえたけど、遅かった。
どうしよう……
メグを取られた気がして、あたし…… つい…… とんでもないこと言っちゃった……
さくらちゃんはもそもそと動いて顔を出すと、
「……パパはパパじゃないの?」
とメグを見上げた。
「や……」
メグが口ごもる。
今までメグは、
「パパだよ」
とウソはつかなかったけれど、
「パパじゃないんだよ」
と本当のことも言っていない。
でも、
「パパじゃないの?」
と面と向かって聞かれたのは初めてだ。
ウソはつけないけれど、メグを完全にパパだと信じ切っているさくらちゃんに本当のことも話しづらくてメグは黙っている。
けれど、メグが返事をしないことで、さくらちゃんはメグがパパじゃないことを悟ったみたいだ。
さくらちゃんの顔が、悲しそうに歪む。
「……じゃ、ホントのパパは、どこにいるの?」
メグはさくらちゃんの手を握って、
「ちゃんとお兄ちゃんたちが探してあげるから、大丈夫だよ」
「でも…… パパ、さくらが邪魔になったんじゃ…」
さくらちゃんが俯く。 小さなさくらちゃんが、さらに小さく見えた。
あたし… こんな小さい子になんて酷いこと言っちゃったんだろっ!
「そんなことないよっ!!」
あたしは慌ててさくらちゃんの傍に駆け寄った。「ごめんねっ! おねえちゃん、ヤキモチ焼いてあんなこと言っちゃっただけなのっ!」
「やきもち……?」
「さくらちゃんにお兄ちゃんのこと取られたと思っちゃって…… ごめんねっ? 明日一緒にパパ探そ? きっとパパもさくらちゃんのこと探してるよ!」
「……ホント?」
「ホントだよ! だから、もう心配しなくていいんだよ」
泣きそうな顔をしていたさくらちゃんだったけど、スンっと1回鼻をすすると、
「……ありがと」
と言って、また布団に潜った。「おやすみなさい、おねえちゃん」
「おやすみ、さくらちゃん。 また明日ね」
さくらちゃんが布団に潜ったら、メグもその隣に横になった。
「メグ……」
メグが振り返る。
「あの…… ごめん、なさい……」
小さい声でそう謝った。
「………」
メグはチラリとあたしを見上げたあと、何も言わずにあたしに背を向けてしまった。
そしてそのまま、隣りで眠るさくらちゃんの背中をトントンと優しく叩く。

――― 怒ってる。

当たり前だよね……
こんな小さい子相手に、ヤキモチ焼いたりして……
しかも、
「さくらちゃんのパパは、さくらちゃんが邪魔になったんだよ!」
なんて……
本当に酷いこと言っちゃった…… しかも、それをさくらちゃんに聞かれちゃって……
こんな小さい子が、親にそんなふうに思われてるなんて思ったら、傷つくどころじゃすまないよ……
一生の心の傷になったっておかしくない……
あたしって、なんて考えなしなんだろう…… ホント、イヤになる……
―――さくらちゃん、ごめんね。
明日、必ずパパ見つけてあげるからね……
と、さくらちゃんの方を振り返って、枕元にピンクのくまが置かれていることに気が付いた。
ずっとさくらちゃんが持っていたテディベアだ。
「おててが取れちゃったの」
って言ってた……
さくらちゃんを起こさないようにそうっと枕元を覗き込んだら、取れた腕も一緒に並べてある。
―――――そうだ!
せめてもの罪滅ぼしに、このテディベア直してあげようかな。
確か、サイドテーブルの引き出しに小さいお裁縫セットがあったはず……
音を立てないように静かに引出しを開けた。 ……あった。
お裁縫はちょっと……いや、かなり苦手だけど、取れた腕をくっつけるくらいならあたしにも出来るかもしれない。
シャツのボタン付けとそう変わらないよね?
………と思ったのが間違いだった。
まず、玉止めをどうやって隠せばいいのかが分からなかった。
シャツだったら裏側に玉止めしちゃうからいいけど、出来上がっているぬいぐるみには布の裏側というのもがない。
仕方なく腕の内側になる方に目立たないように止めたら、今度は腕が動かない。
さくらちゃんが持っていたテディベアは、両手両足がくるくる動かせるようになっている。
なのに、あたしが縫いつけた腕はがっちり固定していて、全く動かすことが出来ない。
「なにこれ〜… どうなってんの?」
また最初から縫い直す。
そう言えばあたし、文化祭でメイド服作らされたときも、かなり苦労したよね……
あれは平面的なものだったけど、今度のはぬいぐるみだもん。 難しいはずだよ……
うわっ!
何回も縫い直してるせいで、穴が大きくなってきちゃった…… どうしよう……
余計なことしないで、さくらちゃんのママに直してもらった方が良かったのかも……
でも、もうこんなに穴大きくしちゃったし……
まぁ、いいや。 頑張ろう。
さすがのあたしでも、朝までには直せるでしょ。
とテディベアと格闘していたら、
「上着ぐらい着ろよ。 風邪引くだろ」
と背中にフワリと何か掛けられた。
「あ… メグ……」
「あ〜あ。 慣れない事やろうとするから…」
メグはあたしの手からテディベアを取り上げて、「お前、またさくらちゃん泣かせる気かよ」
と呆れたようにあたしを見下ろした。
メグの手には左右のバランスがおかしいテディベアがぶら下がっている。
「だ、だって……」
「お前、裁縫得意だっけ?」
……苦手だよ。
苦手だけど……
あたしさっき、さくらちゃんに酷いこと言っちゃったし。
それはどんなことしたって取り消せないことなんだけど……
でも、少しでもさくらちゃんが喜んでくれるようなことしたいって思って……
「得意じゃないけど…… やりたいの!」
そう言って、メグの手からテディベアを取り返す。
「ふぅん」
メグはあたしの隣に腰掛けて、あたしの手元を覗き込んでいる。
あ、あんまり手元… 覗いて欲しくないんですけど……
緊張しながら、チクチクやる。
しばらくそうしてから、
「……さっきは、ごめんなさい」
「あ?」
「あたし、メグを取られたと思って、思わずさくらちゃんにあんなこと言っちゃったの…… ホントにごめんね」
あたしがそう謝ったら、
「ホント馬鹿だよな、お前は。 4歳児相手にヤキモチ焼いてどーすんだよ」
そーなんだけど、でも……
「……歳はカンケーない。 メグはあたしのだもん。 …そりゃ、パパとはぐれちゃって可哀想だとは思うけど……」
でも、あたしのだもん……
「あたし、今日をすごく楽しみにしてたんだよ? メグとディズニーランド行って、お泊りまで出来るって…… 夜は一緒に夜景とか見てさ。 なのに、全然出来なかった……」
そう言って俯いたら、
「だったら、なんで邪魔すんだよ」
とメグが。
「え?」
「さっさとさくらちゃん寝かしつけようとしてんのに…… お前が騒ぐから、スゲー時間かかっただろ?」
……え?
「ディズニーランドは無理だったけど、明日入ればいいし…… 夜景だってさくらちゃんが寝てから…って思ってたんだよ」
「え…… そー、だったの?」
「そーだよ」
……だったら、初めからそう言ってよ!
あたし、あのままさくらちゃんと一緒に朝まで寝ちゃうと思ってたよ。
「こっちおいで」
メグがあたしの手を取って立ち上がらせた。 直しかけのテディベアは、サイドテーブルの上に置いた。
2人で窓際に移動する。
「う、わ……」
眼下に宝石箱をひっくり返したような夜景が広がっている。


「すご…… キレイ……!」
「なんか、クリスマス!って感じだよな」
「うんっ!」
さっきまでは、
「せっかくのクリスマスなのに、全然楽しめないっ!」
って思ってたけど、この夜景で… この夜景をメグと見ることが出来て……
それだけで今日のこと全部ナシに出来るくらい嬉しい。
ふと肩にメグの体温を感じる。 そのまま抱き寄せられた。
メグがちょっとだけ顔を傾けて唇を寄せてくる。
あたしもそっと目を閉じた。
「……ん」
唇だけを押し付けるようにキスしたあと、いったん唇を離す。
あたしを見つめるメグの瞳に、窓の外の夜景が映ってキラキラしている。
ちょっとだけ見つめ合って、また唇を合わせた。
「んっ ……っ んっ!」
唇を割って、メグがあたしの中に入ってくる。
「ぁ……っ は、ふぅっ、んっ!」
メグの舌があたしのそれと絡まり合う。 静かな室内に、あたしたちのキスが起こす水音が響く。
何度も角度を変えてお互いの唇を追いかけた。
「……さっき風邪引くって、メグが掛けたくせに……」
「すぐ熱くしてやるよ」
そう言って、キスしながらメグがあたしに掛けた上着を脱がせる。 
「んっ!」
唇が顎から首筋に下りてきて、背筋に甘い痺れが走る。
そのまま唇が胸の辺りに下りて行き、メグが床に跪く。
腰を抱き寄せるようにして、メグが服の上からあたしの胸に顔を埋めた。
「んっ! ……く、くすぐったいよ」
「くすぐったいだけ?」
そう言いながら、メグはあたしの背中に手を回した。
服の上から器用にホックを外され、胸の周りの緊張感が一気になくなる。 そこにまた顔を寄せるメグ。
緊張感のなくなった胸に、メグの体温を感じる。
メグは服の上からゆっくり唇を滑らせている。
「メ、メグ……」
「……ん?」
「ぬ、脱がなくて…… いー、の?」
「……もうちょっと、このままで」
そ、そーなの……?
メグがちょっと噛むようにしてブラを下にずらす。
「ぅんっ!」
……ブラをずらされた拍子に胸の先が擦れて… 身体が震えた。
でも… メグって、なんでこんなに器用なんだろ… 服着たままなのに……
「……もう立ってる」
メグがちょっと笑ってあたしを見上げた。
「だ、だって……」
いつもと場所も、雰囲気も違うし……それに……
服着たままなのに… な、なんか、逆に興奮しちゃって…… 身体が勝手に……
「ひゃ…ッ あ、んっ」
痛いぐらいに張りつめてしまったあたしの胸の先を、メグが洋服越しに口に含む。
生暖かい感覚がじわじわと広がってくる。
「やっ、あ…っ だ、め!」
そこに歯を立てられて、膝が崩れそうになる。 立っていられなくなり、窓に背を預けた。
しばらくそのまま浅い呼吸を繰り返して、メグから与えられる刺激を逃そうとしていたら、今度はメグがブラごと服をたくし上げてきた。
「ちょ……っ 待っ… あっ、ん! やっ」
直接の刺激に、思わず背中が仰け反る。
甘く優しく、でもときどき激しく動くメグの舌がどんどんあたしを追い詰めはじめる。
「ま、待っ…て… んっ カーテ、ン、開いて、るっ!」
メグは少しだけ唇を離すと、
「……こんな高い場所、誰も見てね―よ」
と言って、わざと音を立てるようにしてまたあたしの胸に舌を這わせた。
「でも…… あっ、や、はぁっんっ!」
さらに抗議しようとしたら胸の先を甘く噛まれ、反対側もキュッと摘まれた。
―――途端に頭が真っ白になる。
周りのこととか、恥ずかしいとか、何も考えられなくなって……
ただメグがくれる甘い刺激のことしか考えられなくなる。
「……ッ! やっ、あっああんっ!」
急に下肢の付け根に震えるような刺激が走って、思わずメグの頭を抱え込むようにしてメグにしがみついた。
「……すっげ濡れてる」
そう言いながら、メグがあたしの足から下着を抜く。
「足、開いて」
「むっ、無…理っ!」
立ってるのがやっと、だもんっ!
あたしが首を振ったら、
「いーから、開けって」
とまた胸の先を摘まれた。
「あんっ!」
「ほら… 早くしろよ」
「あっ、は… はぁ、んっ!」
何度もメグの舌があたしの胸の先を弾いて、その度に膝がガクガクと震えてしまう。
「あっ …ベ、ベッド… 連れてって、よぉっ! あ、あぁんっ!」
それでもあたしがいつまでも足を開かないでいたら、メグがあたしの膝の裏に手を入れて、無理矢理片方の足を持ち上げた。
そして、そのままそこに顔を埋めようとする!
あたしは慌ててメグの額に手を当てた。
「やっ! そ、それしちゃ、やだぁ……っ あ、ああぁんっ!!」
でも、あたしの力がメグに敵うはずもなく……
メグの舌がそこに触れた途端、思考回路が止まってしまった―――…

気が付いたら、ベッドに寝かされていた。 ……着ていたものは全部脱がされている。
目の前にはメグの顔。 そのあたしを見つめる瞳が、溶けそうに甘い……
「今度は一緒に」
そう言って微笑むメグ。 あたしは、
「エロ!」
と軽くメグを睨んで、「……も、無理だよ。 心臓壊れそう」
「オレのも壊してよ」
「ちょっ、無理だってばっ…… ひゃっ、あんっ」
あたしの抵抗を無視して、またメグがあたしの身体に唇を這わせる。
「もっ、…んっ や、だぁ」
「ウソつけ。 ……お前は、やだって言ってるときの方が感じてるんだって言ったろ」
「あんっ! ……そ、んなことっ」
ないもん! と抗議しようとしたら、
「パパぁ〜…」
と隣のベッドから声がっ!!
さくらちゃんだ!
もしかして、目 覚めちゃった……?
う、うるさかったかな…… あたしたち……
っていうか……
さくらちゃんがいたの、すっかり忘れてた―――――っ!!
さすがのメグも動きを止めている。
そのままメグと布団の中で身を潜めていたら、
「ママが嫌がること…… しちゃ、ダメ…… だよ………」
と呟くさくらちゃんの語尾が、段々小さくなっていく。 そしてそのまま、また規則正しい寝息を立て始めた。
……眠ったみたいだ。
「……ビ、ビックリしたぁ。 寝ぼけてたのかな?」
さっきとは違う意味で心臓がドキドキした。
「お前の声がデケーから」
とメグが小さく笑う。
「ちょっ!? それメグのせいじゃんっ! あたしヤダって言ってるのに……」
もうっ! すぐ人のせいにして!
……でも、これでメグももう止めてくれるよね。 またさくらちゃん起きちゃったら大変だし……
と、傍に脱ぎ捨ててあった服に手を伸ばそうと身体を起こしかけたら、
「ひゃっ!?」
強い力でまたベッドの中に戻された。
「……だから、デケー声出すなって」
と言うメグの指先が、またあたしの身体の上を滑る。
「は? だ、だって…… あ、あぁんっ ンッ!」
その指先が胸を掠めて、また身体が震えてしまった。 思わず声を上げそうになったところを、すぐにキスで唇を塞がれた。
ちょ…… メグ?
まさか…… また、続き……するの?
「だって…… さくらちゃんが起きちゃったらどうするの?」
小声でメグに抗議する。「何してるのって聞かれたら……」
あたしの問いに、メグはサラリと、
「愛し合ってるって言えばいい」


信じらんない――――――ッ!!
さっきあたしがさくらちゃんにヤキモチ焼いたとき、
「そんなんじゃ、こいつの親と変わんねーな」
とかメグ言ってたけど……
メグこそさくらちゃんのパパと同じじゃん―――っ!!
けど、今まで一度だってメグの甘い誘いを断れた事のないあたしは、やっぱりすぐにメグに懐柔されてしまった。
これ以上ないくらいメグの舌で溶かされたあと、あたしの中がゆっくりとメグで満たされる。
「んっ んっ はっ、ぁ……」
いつもメグと肌を合わせると、熱でもあるんじゃないかってくらい身体が熱くなるんだけど……
今日は声出しちゃダメって言われたせいで…… なんか、いつもより余計に、熱い……
それに声を出さない分、今まで気付かなかったスプリングの軋む音とか、メグの息遣いとか、こ、行為そのものの音まで耳に届いてきて……
余計に気持ちが昂ぶってしまう。
「んっ ん〜〜〜ッ!」
「は、ぁ…… すご…っ」
メグがちょっとだけ眉を寄せる。
熱がどんどん身体の中心に集まり始める。
無意識に足に力が入り、つりそうになる……
「真由… ま、ゆ……っ」
メグが息を弾ませながら何度もあたしの名前を囁く。
「んっ …ぁんっ! んんっ!」
指を絡め合うようにして繋いだ手を、さらにギュッとメグが握ってくる。
メグの息遣いとスプリングの音が、段々大きくなってきた……
と思った直後、耐えがたい快感があたしを襲った。
「ッッ!!!」
も、ダメ…… 声、出ちゃう……
もう、何も…… 我慢、出来ない……
力いっぱいメグの手を握り返した。
「あたしっ、あた…し…っ もう……ッ! 〜〜〜あっ ああぁっんっ! ンッ!」
墜ちる瞬間、メグに口を塞がれた―――…

「……もう、ホント、ありえないんですけど」
隣で横になるメグを睨みつける。
「ありえないぐらい良かった?」
「バカッ!!」
メグの胸を叩く。「……もう、体力の限界だよ。 ねむ……」
あ、でも…… 服、着なくちゃ……
このまま眠っちゃって、朝さくらちゃんの方が先に目覚ましちゃったら、
「おねえちゃんたち…… なんで裸なの?」
とか言われちゃうよ。
でも、眠い……
と、あたしがまどろみかけたら、
「まだ寝れねーだろ?」
とメグが。
え……?
ま、まさか、メグ……
まだする気なのっ!?
ちょ、ちょっと待って!?
確かにイブだし、せっかくのお泊りだし、昼間イチャイチャ出来なかった分取り返したいのは分かるけど……
もう、無理だよ―――――っ!!

「おはようっ! おねえちゃん!」
さくらちゃんが零れんばかりの笑顔をあたしに向ける。
「お、おはよ〜…」
あたしも笑顔を作ったけど…… 多分引きつってる。
っていうか、メチャクチャ眠いっ!!
結局、寝たの朝方だったし……
「いいお天気だね〜! ディズニーランド行きたいな!」
さくらちゃんが窓の外を眺めて嬉しそうな声を上げる。 そのさくらちゃんの隣に立つメグは、
「んー… けど、今日こそパパ探さないとね!」
と、寝起きとは思えないくらい爽やかな顔をしている。
―――いーよね、メグはっ! ちゃんと眠れたんだからさっ!!
「あっ、おねえちゃん、コレありがとうっ!!」
さくらちゃんはピンクのテディベアを抱いている。「直してくれたんだねっ!」
「ううん。 どういたしまして……」
昨夜、さくらちゃんに気付かれないように… そ、その、……エッチしたあと、
「まだ寝れねーだろ」
ってメグに言われて…… 思い出したんだよね。
―――まだ、テディベア直し終わってなかったこと。
「んじゃ、オレ先寝るな」
「ちょ、ちょっと待ってよ! …手伝って?」
さっさと服を着てベッドに横になろうとするメグに、慌てて声を掛けた。
「メグの方が器用だしさ… お願いっ!」
「裁縫なんて小学校以来やってねーもん、無理だろ? つか、それはお前がやりたいって言ったんだろ? さくらちゃんへの罪滅ぼしに」
「そ、そーなんだけど……」
「じゃ、自分でやんねーと」
メグは笑顔でそう言うと、さっさとさくらちゃんの隣にもぐりこんで、
「おやすみ♪」
って…… 1分もしないうちに、眠っちゃったんだよね……
あたしは、やっぱりテディベアの腕がクルクル動くようにするところで躓いて、寝たのは5時だった。
でも……
「くまちゃん、おてて直って良かったね〜っ!」
っていうさくらちゃんの笑顔を見てたら、寝不足でも、やっぱり直してよかったって思う。
「はは… さくらちゃんのママみたいに上手くはないけど… 許してね」
「ううんっ! どうせママもヘタだから!」
………も?
若干引っかかったけど…… ま、いっか!
早めにチェックアウトを済ませて、舞浜駅に戻る。
「この辺だったんだけど…… やっぱりいないな〜」
昨日さくらちゃんと会った場所に戻ってみたけど……時間が早いせいか人はまばらだ。
「どうしよっか…… もう1回交番行ってみる?」
「そうだな。 今はさくらちゃんもオレをパパだとは言わないだろうし……」
とあたしたちが話していたら、
「さくら、ディズニーランド行きたい!」
とまたさくらちゃんが始まった。
「ん。だからね、今日こそパパ探さないと……」
あたしがそう言っても、さくらちゃんは、
「パパね、ディズニーランドにいそうな気がする!」
なんてことを言う。
「そうかなぁ? おねえちゃん、いない気がするな〜」
「行きたい、行きたい〜〜〜っ! ディズニーランド行きたい〜〜〜っ!!」
「でも交番行かないと……」
とあたしが言おうとしたら、
「ディズニーランド連れてってくれないと、おまわりさんのとこ行っても、おにいちゃんのことパパって呼ぶよ」
と、4歳児に脅された!
「メグ〜〜〜…」
メグはちょっとだけ溜息をついて、さくらちゃんと目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「じゃ、ディズニーランド行ったら、ちゃんとおまわりさんのとこ行くって約束してくれる?」
「うんっ!」
笑顔で肯くさくらちゃん。
仕方なく3人でディズニーランドに向かう。
さくらちゃんはあたしとメグの手を掴んで、間でブランコのようにぶら下がったりしている。
まるで本物の家族みたいだ。
本当はメグと2人で、ラブラブ行きたかったんだけど……
「おねーちゃん、何から乗るっ?」
なんて、こんなさくらちゃんの笑顔を見ていたら、まぁ3人も悪くないかなぁ、なんて思ってしまう。


「なんか、こーゆーのもいいな」
メグも同じことを考えてたみたいだ。
「……うん」
昨日は、
「結婚しても、絶対子供なんかいらない!」
なんて言っちゃったけど…… やっぱり、欲しいかな……
さくらちゃんみたいな女の子もいいけど、メグに似た男の子だったら……
「ママ、ママぁ!」
ってあたしのあと付いて回って、
「ボク、ママと結婚するぅ!」
とか言われちゃったら……
―――あたし、溺愛しそう……
なんてことを考えていたら、
「でも、子供は女な」
とメグが。
な、なんで考えてたこと分かったんだろっ?
まだ開園前だっていうのに、チケット販売所の前は長蛇の列が出来ている。
「4歳児って有料?」
「……みたいだな」
痛い出費だけど、仕方ない。
でも、あたしたちのチケットはタダなんだから…… まぁ、いいか。
と窓口の前に並んでいたら、
「あっ!」
と急にさくらちゃんが走り出した。
「えっ!? ちょ…… さくらちゃんっ!?」
あまりに急だったから、あたしもメグも驚いてしまった。
朝早いとはいっても、クリスマスのディズニーランドはありえないくらい混んでいる。
こんなところではぐれたら、二度と見つけられない。
「ちょっと待ってっ!」
とメグがあとを追いかけようとしたら、
「パパだぁっ! パパいた――――っ!!」
「え、ウソっ!?」
「マジでっ!?」
「うんっ! パパだよっ! パパぁ〜〜〜っ!」
さくらちゃんはどんどん人混みにまぎれていく。
その姿が完全に見えなくなる直前、さくらちゃんが背の高い男の人に抱きつくのが見えた。
ちょうど朝日が逆光になって、顔までは確認できない。
「……あの人、ホントにパパかな? 見える?」
「や…… よく見えねぇ」
メグも目を細めてさくらちゃんの方を見ている。
「また人違いとかしてないといいんだけど……」
あたしがそう言ったら、急にメグが心配顔になった。
「ちょっと… 見てくるっ!」
と、メグがさくらちゃんの方に向かおうとしたら、パパと思しき男の人が、ひょいとさくらちゃんを抱き上げて、そのまま肩車をしてあっちに歩いていってしまった。
―――どうやら、本当にさくらちゃんのパパだったみたいだ!
「良かったぁ。 本当にパパみたいだね!」
交番に行こうと思ってたけど、まさかこんなところにパパがいたなんて……っ!
「なんかね、パパ、ディズニーランドにいそうな気がするの!」
ってさくらちゃん言ってたけど…… まさか本当にいるなんて思わなかった。
ただディズニーランドに行きたくてそう言っただけだと思ってたけど……
やっぱり、親子で何か通じるものでもあったのかなぁ?
テレパシーとか? 親子のシンクロ?みたいな……
なんてことを考えていたら、メグがいつまでもさくらちゃんたちが消えた方を眺めている。
「……メグ?」
「ん? ああ……」
あたしが呼びかけたら、やっとこっちに顔を向けた。
そのまましばらく長蛇の列に並んで、チケットをパスポートに取り替えたあとゲートを抜けた。
「メグ… もしかして寂しいんじゃない?」
「あ?」
「さくらちゃんがいなくなっちゃって」
「……んなこと、ねーよ」
「ホ〜ント〜〜〜? ……あいたっ!」
あたしがニヤニヤしながらメグの顔を覗き込んだら、鼻をつままれた。
つままれた鼻を押さえながら、
「でもさ…… いつか、来れたらいいよね」
「ん?」
「将来… 3人で……」
なんとなく、あたしたちの子供と、ってところは恥ずかしかったからぼかして言ったら、
「ああ…」
とメグもすぐに分かってくれたみたいだ。「でも、お前すぐにヤキモチ焼くからな」
メグがからかうような目線をあたしに向ける。
「じっ、自分の子供には焼かないもんっ!」
「どーだかな」
とメグは笑っている。
も〜〜〜っ!
そんな話をしながら、人の流れに乗るようにしてパークの中に向かった。
ワールドバザールの天井まで届きそうな大きなツリーが、色とりどりのオーナメントで飾られている。
それを見たら…… メチャクチャテンション上がってきた!
「メグっ! 今日はクローズまで遊ぶからねっ!」
「スゲー気合入ってんな」
「トーゼンだよ! 昨日遊べなかった分、いーっぱい遊ぶんだもんねっ! 付き合ってよねっ!!」
「いーけど… オレ、ジェットコースター系は…」
「最初はビッグサンダーマウンテンねっ!! 行こっ!!」
メグのセリフを無視して腕を引っ張る。
「聞けよっ! 人の話を―――っ!!」


クリスマスデートはまだ始まったばかりだ!


おわり


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