@ 幹事のお仕事


「あれ? 真由、ケータイ変えた?」
お昼休み。 屋上でお弁当を食べた後、昨日機種変更したばかりのケータイをいじっていたら恭子があたしの手元を覗き込んできた。
「今度のはブルーなんだ? 前のピンクのもかわいかったよね」
「ああ・・・ あれね・・・」
あのシルキーピンクのケータイは、あたしの血の滲むような努力(節約)で手に入れたのもで、すごく気に入っていたものだった。
当然、まだ機種変する予定なんかなかった・・・
・・・それをメグと、飼い犬のフンの始末も出来ない飼い主のせいで―――っ!!
「いいなぁ・・・ あたしも新しいの欲しい・・・ ん?」
そんな話をしていたら、恭子のケータイにメールが。
「誰だろ・・・? ―――あっ」
ディスプレイを確認したとたんに、ちょっと顔を赤くする恭子。
「あ〜〜〜? 涼からなんでしょ?」
あたしがちょっとからかうように恭子の脇腹をつつくと、
「うん・・・ 今どこにいる?・・・って・・・」
と、まるでそれが涼であるかのように恭子はケータイを見つめている。オトメっ!
あたしの名前は、市川真由。 総武高校の2年生。
ケータイ片手に顔を赤くしている稲毛恭子とは、1年のときからの親友。
恭子は最近、ずっと好きだった男・・・船橋涼と付き合うことになって、羨ましいほどラブラブだ。
「ったく、涼も意外とマメだよね。 しょっちゅうメールくれるんでしょ?」
「そ、そーだけど・・・ あっ、でも、すっごくくだらないんだよっ!? 今何してる、とか、一緒に帰ろ・・・とか」
「そんなの。 同じ部活なんだから、そんとき話せばいいじゃん! メール代の無駄!!」
「そ、そーなんだけ、ど・・・」
と恭子は俯いてしまった。 あたしは慌てて、
「あ〜! うそうそっ! ごめんね? 恭子たちがあんまりラブラブだから、ちょっとイジメたくなっちゃっただけだよ!」
「え?」
と恭子は顔を上げて、「・・・もうっ! 真由のイジワルっ!!」
とちょっとだけ頬を膨らました。
はぁ。 でも、ホントに羨ましいよ。 恭子。
好きな人と両想いになれただけでも羨ましいのに、そんなにしょっちゅうメールまでもらえて・・・
それに比べてあたしは・・・
メールくれるどころか、ケータイ投げ捨てられたしね。
それどころか、メグ、ケータイ持ってないからメール出来ないしっ!
っていうか、あたしたち、まだ正式に付き合ってるってワケじゃないし・・・?
そう・・・―――あたしがケータイを買い換えた理由は、幼なじみで、お隣さんで・・・・・・そして、あたしの好きな男、千葉恵にケータイを投げ捨てられたせいだった。

メグとは小さい頃からずっと一緒だったんだけど、小5のときにあたしたちはつまらない事から絶交をしていた。
それからずーっと、6年間絶交したままだったんだけど、この春からまたクラスメイトになり、少しずつ話をするようになった。
やっぱりはじめはムカつくことの方が多かったんだけど、そのうちあたしもやっと自分の気持ちに・・・・・・メグのことが好きって気がついた。
でも・・・ 自分でも分かってるんだけど、メグを目の前にすると素直になれないっていうか、憎まれ口叩いちゃって、なかなか自分の気持ちを伝えられないでいた。
って、メグだって、相当ひねくれてるけどねっ! 絶対自分から気持ち話してくれようとしないしっ!!
だから、あたしは 自分の気持ちに気が付いたけど、メグの気持ちが全然わかんなくて、ずっとヤキモキしていた。
それに、メグはクラスでは幼なじみだってことすら隠してる・・・っていうか、完全に他人のフリしてるし!
あたしには、
「お前、バカじゃねーの?」
とか平気で言うくせに、他の女子にはメチャクチャ優しいし・・・
あたしは、そんな苛立ちと焦りから、
「せいぜい女子人気を上げてくださいっ!」
なんて言っちゃってたんだけど・・・
実際、今まで一番人気だった涼が 恭子と付き合いだしてからは、そのファンがメグに流れてきたみたいで本当に女子人気上がってきちゃってるから・・・・・・余計に焦っちゃうよ・・・
もう! ホントにメグの気持ちが知りたいっ!
でも、どうやって聞けばいいの・・・?
いつも、ちゃんと話しようとしても、最後にはケンカになっちゃって・・・ ダメだったんだよね、この前までは・・・
そうっ! ―――この前まではっ!
実はこの前、あたしはやっとメグに、
「あたし、メグといると・・・ドキドキする。 メグの気持ちも知りたい・・・」
って言えたんだよね。
・・・なんか、照れるけど。
そしたらメグも―――・・・   あれ?
なんて言われたっけ?
・・・ちょっとよく覚えてないんだけど、どうやらメグもあたしのコト好きみたいってなって・・・
お互いハッキリ、
「好き」
とは言わなかったんだけど、同じ気持ちでいるってことが確認できたんだよね♪
で、流れで・・・・・・キス(ぎゃ―――ッ!!)しようとしたら、あたしのケータイに着信が入って・・・
・・・それからなんだよね。
急にメグが怒り出したの。
かかってきた電話にあたしが出ようとしたら、そのケータイをいきなりメグに奪われてしまった。
・・・え? なにっ?
とメグを見上げたときには、もうメグは ケータイを社宅のベランダから放り投げるところだった!
止めるヒマなんてなかった。
もう、あたしは軽いパニック状態。
え? なんでなんで? あたしなんかした??
全然ワケわかんないんだけどっ!?
あたしの問いかけにメグが、
「ムカついたから。 ・・・てか、ケータイなんかなくたって 生活出来んだろ?」
なんて言うもんだから、あたしも切れてしまった。
せっかく気持ちが通じ合った直後だっていうのに、
「もうっ! メグなんか絶交だよっ!!」
って・・・
それ以来、また気まずい状態が続いている・・・・・・
あたしが悶々とそんなことを考えていたら、
「・・・っていうかさ。 真由もいるんでしょ? 好きな人!」
と恭子があたしの肘をつついてきた。
「え・・・ ええっ!?」
な、何で知ってるの? 恭子っ!
あたし、恭子にそんな話したことあったっけ?
恭子は楽しそうに笑いながら、
「何で知ってるの?って思ってるでしょ?」
「思ってるっ! 何で分かったのっ!?」
あたしが驚いてそう聞くと、
「もうっ、真由ってば!」
と今度はおなかを抱えて笑っている。「全然ポーカーフェイスとか? 出来ないタイプだよね?」
「え?」
「普通さ、内緒にしてるんだったら、そんなことないよ、とかって言うじゃない? 真由、普通に認めちゃってるんだもん」
―――あ・・・ しまっ・・・
あたしが慌てて口に手をあてたら、
「あ! 今度は、しまった!って思ってる!!」
恭子がいたずらっ子のように顔を輝かせる。 ・・・そんな顔してもかわいいんだけどさ。
「・・・なんか 恭子、涼と付き合うようになってから性格変わってない?」
あたしは恨めしげに恭子を見上げる。
「あっ! 怒っちゃった? ウソウソ!! ゴメンねっ! さっき真由がメールのことでからかったから、ついお返し・・・なんて・・・」
恭子は顔の前で手を合わせて しきりに、ゴメンね、を連発している。
「実は、涼から聞いたんだ。・・・真由、好きな人いるんだって?」
・・・そう言えば 前に勢いで、涼にそんな話したことあったっけ・・・
あいつ・・・ 男のクセに、おしゃべりだなぁ・・・
まぁ、恭子とは親友だからいいけどさ。 いつか話すことになってたろうし。
「・・・うん。 実は、そう・・・」
とあたしが認めると、恭子は、
「それって・・・ もしかして・・・ ―――涼?」
と真剣な瞳をあたしに向けてきた。
「はぁっ? んなわけないじゃんっ!」
あたしが否定すると、恭子は、
「ホントに? 隠さないでね? あたし、涼のことも好きだけど、真由のことはそれ以上に好きなんだよ? だから・・・」
「ちょっ!? マジで違うってっ!! なんでそんな話になるわけっ!?」
「・・・じゃ、ホントに違うの?」
「違う違う!」
あたしが全力で否定したら、やっと恭子も納得してくれたみたいだ。
「真由が、友達のあたしにも内緒にしてるのに、なんで涼には話したのかなって思って・・・」
「あ〜、ゴメン。 ちょっと流れというか、口が滑っちゃったというか・・・」
どうしよう・・・
恭子に話しちゃう? あたしの好きな人はメグだって。
でも、前に、
「真由・・・ 千葉くんのこと好きなの?」
って聞かれたとき、否定しちゃったからなぁ・・・
なんか今さら、やっぱり本当はメグが好きなんだ、なんて・・・言いづらいな。
「そっか・・・ 話しづらいなら、無理には聞かないけど・・・ あたしで出来ることだったら協力するから、言ってね? 相談だったらいつでも乗るし」
恭子っ!
ホントに優しいなぁ・・・ 恭子は!
コレがミドリやチハルだったら、
「誰だよっ!? お前の好きな男ってっ!! さぁ、吐けっ!!」
ぐらいの事、されそう・・・ マジで。
イヤ、ミドリやチハルも恭子と同じように、あたしのコト心配してくれてはいるんだろうけどさ・・・
どうも荒っぽいところがあるっていうか・・・ 逆に、壊されそうっていうか・・・
「真由?」
恭子が心配そうにあたしの顔を覗き込んでくる。
「・・・なんかね。 相手の気持ちが分かんないんだ」
あたしは俯いたまま、ボソボソと話し始めた。
「真由の片思いなの?」
「ううん。・・・多分・・・っていうか、メ・・・あっちもあたしに好意持ってくれてるってのは分かったの。最近・・・」
「うん。 それで?」
「それでね・・・ え、と・・・ ・・・しようとしたらあたしのケータイが鳴って・・・」
恥ずかしかったから、キスのことをボカしたまま話を進めようとしたら、
「しようと・・・って何を?」
恭子が深く突っ込んできた!
「な、何って・・・ そ、その・・・」
一度言い損ねた・・・って言うか、誤魔化そうとしたせいで、余計に言いにくい・・・
あたしもニブい方だけど(みんなにそう言われるから、きっとそうなんだよね・・・)、恭子も相当ニブそうだよね。
ここでテキトーに誤魔化しても、分かるまで聞いてきそう・・・
ってか、あたしだったら絶対聞くと思う。
「・・・チ、チューだよ」
思い切ってそう言ったら、
「えっ!? ちゅっ・・・ッ!!」
恭子が見る見る間に顔を赤くする。
そんなに真っ赤になんないでよっ! あたしの方が恥ずかしいんだからっ!!
「とっ、とにかく! そういう事なのっ! しようとしたときにケータイが鳴って、そしたら急にメグが怒ってあたしのケータイ投げ捨てたのっ! だから新しいケータイ買うハメになっちゃったのっ!!」
恥ずかしさからあたしが慌ててそう言ったら、
「メグ?」
と恭子が眉を寄せる。
―――や、ヤバ・・・
うっかり、名前を出してしまった・・・
「って・・・ 真由の好きな人の名前?」
「そっ、そうっ!! メグ・・・・・・」
どっどーするっ!?
「・・・おっ!」
あたしは慌てて、「メグ夫っていうのっ! あたしの好きな人!! 変わった名前でしょっ?」
と笑いながら誤魔化した。
恭子は眉を寄せたまま、
「・・・ホントに・・・ ちょっと珍しいね?」
と首をかしげている。
・・・ゴメン、メグ。 変な名前付けちゃった。
「え、えっと! そーゆーことなんだけどっ! ・・・なんで怒ったのか・・・分かる? 恭子?」
あたしは、急いで名前のことから話を逸らそうとする。
「え? ・・・それは分かるよ〜! って言うか・・・ 真由、分からなかったの?」
まるで 何も知らない子供に教えるような口調で、恭子があたしに問い掛ける。
「・・・分かんない・・・」
っていうか あのときは、ケータイを投げられたってこと自体にムカついてて、なんでメグがそんなことしたのかってことにまで、頭が回らなかったんだよね。
昨日になってようやく新しいケータイを手に入れて、それから、
「そう言えば、なんでメグはケータイ投げたんだろう・・・?」
って考えるようになったんだけど・・・
「もう、真由ってば!」
恭子があたしの脇腹を突付く。「キスの邪魔されたから、怒ったんだよ! メグ夫くん」
「え・・・? ええっ!?」
―――あ、あの、メグがっ!? そんなことでっ??
だって、いつも ムカつくぐらい冷静っていうか、パーフェクトなんだよ?
成績いいし、スポーツは出来るし(バスケ部の部長やってるくらいだし)、背は高いし、モテるし・・・
そんなメグがっ? キス邪魔されたって・・・  えっ??
・・・って、そう言えば、メグ・・・
「オレはお前といると、パーフェクトになれない」
とか言ってたけど・・・
―――ウソウソッ!? マジでッ!!
もしホントにそうだったら、チョー嬉しいんだけど・・・
ん、もうっ! メグってばっ!! かわいいんだからっ!!
「・・・真由?」
そうならそうと、ちゃんと言ってくれればいいのに〜っ!!
あたし、かなりムカついてたから、
「もうメグなんか大ッキライ! 絶交だよっ!!」
なんて言っちゃったけど・・・
もしかして、メグ落ち込んでる? あたしに嫌われた、とか思っちゃってる?
「真由?」
あのケータイの一件以来、また気まずい状態が続いてたけど・・・・・・メグがその気なんだったら、あたしだって仲直りしてあげてもいいよ?
「真由ってばっ!」
「うわっ」
急に恭子に顔を覗き込まれてビックリする。「な、なにっ!?」
「どーしたの?」
「どーしたのって? 何が?」
「え・・・? 急に俯いて黙り込んだから 悩んでるのかと思ったら、ニヤニヤしてるし・・・」
―――また、妄想癖出てた?
「な、なんでもないよっ!」
あわてて誤魔化したとき、お昼休みが終わるチャイムが鳴る。
「恭子っ、聞いてくれてありがとねっ!! なんか、仲直りできそうっ!」
「そう?」
うんっ!
早速今夜、メグと話してみるよ!

「でも・・・」
どーやってメグと話す機会作る?
夕食後、あたしは自分の部屋のベッドに寝転んでいた。
恭子にアドバイスもらってから、
「夜、ベランダでメグと話そっ♪」
って思ってたんだけど・・・
いつも呼びかけてくるのはメグの方ばっかで、あたしから話し掛けたことあんまりないんだよね。
大体なんて話し掛ける?
いきなり、
「メグ、あたしとのキス邪魔されて、それで怒ったの?」
なんて聞けないよね?
聞かれる方も恥ずかしいだろうけど、聞く方はもっと恥ずかしいもん。
お前、自惚れんなよ?みたいな・・・
なんか用事とかないと話し掛けづらいな〜・・・ 
あたしが悶々と1人で考え込んでいたら、新しいケータイに着信が。
表示を見たらヤジマだった。
ヤジマ―――ッ!!
すっかり忘れそうだったけど、あんたが諸悪の根源なんだよねっ!
ヤジマがあのタイミングで電話をかけてきたから、メグがキス邪魔されたって怒っちゃったんだからっ!!
ヤジマっていうのは、小学5、6年の頃のクラスメイト。
ガキ大将タイプの、クラスのバカ男子たちのリーダー的存在でいつもメグのことをイジメていた。
妹みたいにかわいがっていたメグを(当時のメグは 今とは全然違って、素直でかわいかった・・・)イジメられて黙っていられなかったあたしは、毎日のようにこのヤジマとケンカをしていた。
そのヤジマとも、小学校卒業と同時に会うこともなくなったんだけど、ひょんなことからつい最近あたしたちは再会をした。
さすがに5、6年もたつと お互い大人になっていて、もうケンカなんかしなかったけどね。
ケンカどころか、やけにフレンドリーで、
「付き合うか?」
とか言われたけど・・・ あれ、絶対ノリだけで言ったよね? なんか軽かったし・・・
「もしもし?」
そんなことを考えながらとりあえずケータイを耳にあてる。
『なんだよ〜〜〜っ! やっと繋がったよ!』
やたらデカイヤジマの声。
「どーしたの?」
『どーしたの?・・・じゃねーよっ! なんでこの前かけたとき、すぐ切ったんだよ? しかも、そのあと何回かけても繋がんねーし』
「ちょっと・・・ ケータイ壊れちゃったの。 あの瞬間」
『なんだそれ? マジかよ?』
「ホントだよ・・・ っていうか、なんか用?」
あたし今、忙しいんだよね。
これからメグにどう話し掛けるか考えなくちゃいけないし・・・
『なんだよ、その言い草・・・』
ヤジマが面白くなさそうな声を出す。『・・・ま、いいや。クラス会の日付決まったから、市川 女子に連絡して?』
・・・忘れてた。
多分、キス邪魔されたときにかけてきたのも、それだったハズ・・・
「いつ?」
『今週の土曜日。4時から駅前のダイエー地下の城木屋』
「ずいぶん急だね? っていうか城木屋って、居酒屋じゃないの? あたしたち高校生だし、入れてもらえないよ?」
『だいじょぶだよ。そこクボタんちのオジさんが雇われ店長やってて、開店前の2時間だけってことで特別に入れてもらったから。アルコールなしのフリードリンクって話んなってんの』
「ならいーけどさ・・・」
『じゃ、ヨロシクな? 男にはオレが回すから』
「あッ! ―――ちょっと待って?」
これって、いいチャンスじゃない?
『なに?』
「メグにはあたしが言うからいいよ!」
クラス会の連絡だったら、話し掛けるきっかけにちょうどいいもんね。
あたしがそう言ったら、一瞬の沈黙のあと、
『―――なんで? オレが回すからいーよ』
とヤジマ。
「いいって! 同じ学校だし、隣だし・・・ 言っとく」
っていうか、言わせて欲しいし。
『オレが回すって!』
急にヤジマが尖った声を出した。
「・・・・・・なに、怒ってんの?」
あたしなんか怒らすようなこと言った?
『いや・・・ 別に怒ってねーけどさ・・・』
ヤジマは慌てたように、声のトーンを落とす。
なによ・・・? 変なヤジマ。
ちょっと気まずい感じにヤジマとの通話を切ったあと、とりあえず女子に連絡を回してしまおうと卒業アルバムを手にとった。
メグは今日も部活で9時過ぎないと帰ってこないだろうし、先にやることやっとこっ!
出席番号順に電話をかけていたら、何人かに、
「千葉くんも来るの?」
と聞かれた。 特に中学も一緒だった子が。
小学校の頃はそんなに目立ってなかったメグが、中学に上がった途端に勉強もスポーツも背も伸びて、あっという間に女子人気を集めるようになっていたから。
小学校の卒業式で、あたしにメグの第2ボタンを頼んできたナミエは、
「絶対千葉くんも呼んでよね? っていうか・・・ねぇ?千葉くんって彼女いるの?」
って聞いてきた。
・・・なんか、心配になってきた。
メグと一緒にクラス会出たいけど、メグに会いたがってる女子、いっぱいいるんだもん・・・
どうしよう・・・
「ちょっと真由? あんたいつまで電話してるの? お母さん電話使いたいんだけど?」
連絡回すのに家電を使っていたら、お母さんがやってきた。
「あ、ゴメン! クラス会の連絡回してたの」
と言いながら、子機を渡す。
「クラス会? いつ?」
「今度の土曜日。4時から」
城木屋っていうのは内緒。 だって、いくらアルコールなしだって言ったって、
「居酒屋じゃないっ!」
ってお母さん怒るに決まってるもん・・・
「え? それって、20日の土曜日?」
「うん・・・ そーだけど?」
お母さんは子機のボタンを押しながら、
「その日、おかあさん 郡山行くんだけど・・・ 泊まりで」
「お父さんのところ?」
「そう」
あたしのお父さんは、今月から郡山支店に転勤になっていた。 危うく、あたしとお母さんも一緒に・・・ってことになりそうだったんだけど、お父さんは単身赴任をしてくれる事になった。
単身赴任スタートしてから、お父さんはまだ一度も帰ってきていないし、お母さんも一度も郡山には行っていない。
お母さんは子機に向かって、
「あ! お父さん? 11時30分にそっちに着くから、駅まで迎えに来てくれる?」
電話の相手はお父さんだったみたい。
もしかして、あたしも一緒にって話なのかな? お父さん寂しがってたし、
「真由も一緒に連れて来い」
とか言われてるかも・・・
どうしよう・・・ クラス会・・・
「・・・あたしも行ったほうがいいの?」
通話が終わったお母さんに聞いてみる。
「今回はお母さんだけで行こうと思ってるんだけど・・・」
なんだ。良かった・・・って、お父さん、ゴメン。
「クラス会はいいけど、あんまりハメ外さないようにね? お酒なんか、絶対許さないからねっ!? 勉強もちゃんとやりなさいよ? もうすぐ・・・」
「分かってるよ! 大丈夫!」
あたしがお母さんの話を遮るようにそう言ったら、お母さんは、
「真由の大丈夫は、あてにならないからね・・・」
と溜息をついた。
「・・・ひどくない?」
「一応、千葉さんちにも頼んでおいたから。 何かあったらお願いしますって」
「そんなこと言わなくても大丈夫なのに・・・」
クラス会の連絡を回していたり、お母さんとそんな話をしたりしていたら、いつの間にか10時を回っていた。
ウソッ!? もうこんな時間?
どうしよう・・・ メグと話したかったけど・・・ もう寝てるかな?
部活で疲れてるだろうし、明日にしたほうがいいよね? ・・・そうしよ。

「メグ。おはよ・・・」
翌朝、いつもより早くウチを出て、玄関の前でメグが出てくるのを待った。
「・・・おう」
あのケータイの一件以来、あたしはメグのことを避けていたから、玄関先で待ってたあたしにメグは一瞬だけ驚いた顔をした。
「なに?」
一緒に社宅の階段を下りながらメグが聞いてくる。
「えっとね・・・ 今度クラス会あるんだ。6年4組の」
まさかいきなり、
「ねぇ? この前ケータイ投げたのって、キス邪魔されてムカついたから?」
なんて聞けないから、とりあえずクラス会の方から。
出来れば一緒に行きたいし、仲直りできたら一緒に行く約束もしちゃおっ!
なんてことを考えながら話をしていたら、メグは前を向いたまま、
「・・・知ってる」
「え?」
なんで?
「・・・昨日、ヤジマから電話かかってきた」
「そーなの?」
・・・なんだ。 あたしがかけるって言ったのに・・・
ま、いっか。
「なんかね、駅前のダイエーの城木屋なんだけど。クボタのオジさんが店長やってるとかで、特別に・・・」
あたしがそこまで言いかけたら、
「オレ、行かないよ?」
とメグ。
「・・・え? なんで?」
一緒に行こうと思ってたのに・・・
なんか、予定とか入ってるのかな・・・ 部活とか?
・・・でも 土曜日の夕方だし、大丈夫じゃない?
「・・・みんなメグに会いたがってるよ? 女子とか・・・」
とりあえず、そんな感じに誘ってみる。
「別に・・・ オレは会いたいヤツとかいないし・・・」
メグはチラリとあたしを見下ろして、「・・・てか、会いたいヤツには会ってるし」
「えっ!? そ、そーなのっ!? 誰っ!?」
いつの間に・・・ って言うか、それって、女子っ!?
「いーじゃん。誰でも」
メグはちょっとだけ笑ってあたしを流し見ている。
そ、そりゃ、メグが誰と会おうとメグの勝手だけど・・・
―――でも気になるじゃん?
「・・・お前も行くの止めれば?」
メグがちょっと早口になってそう言ってきた。
「え?」
驚いてメグを見上げたら、メグは前を向いたまま、
「―――もうすぐ中間テストだろ? そんなの行ってて大丈夫かよ?」
・・・忘れてた。
実はお父さんが郡山に行ってから、
「お父さんが郡山行ってから真由の成績が下がりだしたなんていったら、お母さんのせいにされちゃうんだからね? トップ10に入れ、なんて言わないけど、せめて今より落ちないようにしといてちょうだいね?」
って、しょっちゅうお母さんから言われている・・・
「だ、大丈夫だよ! 何とか今の位置キープするしっ!」
あたしがゲンコツを作ってそう言ったら、
「・・・お前、何番くらいなの? キープするような順位なワケ?」
う・・・ 確かに、キープしてちゃいけない順位ではあるけれど・・・
もともと 総武には、死に物狂いで何とか入ったような学校だったから、テストでの順位もいつも下から数えた方が圧倒的に早いって順位ばっかりだった。
それに比べて、メグはいつもトップ10に入るくらいの超優等生!
・・・って、メグ、なんでもっと学力が上の高校行かなかったんだろ? 謎。
駅に着いたところで、メグが、
「・・・話ってそれだけ?」
「えーと・・・ うん・・・」
とりあえず肯く。
なんか結局一番したい話出来なかった・・・
だって、一緒に行こうと思ったクラス会は行かないとか言われるし、それどころか、あたしの知らないところで昔のクラスメイトと会ってるみたいでへこんだし・・・
べ、別にっ? まだ正式な彼女でもなんでもないんだから、そう言われたって怒る筋合いないんだけどさっ!
「・・・で、結局行くワケ?」
「うん。幹事だし行かなきゃなんないから・・・」
あたしが肯きながらそう言ったら、
「幹事?」
とメグが眉を寄せる。「・・・なんだよ? それ」
「この前ヤジマに会ったときケー番聞かれて、押し付けられちゃったの」
なんか、ヤジマのノリに断りきれなくて引き受けることになっちゃったんだよね。
「まぁ、場所取りとか金額交渉とか集金なんかはヤジマがやるっていうから、あたしは連絡係だけなんだけどね。 ・・・そんな程度でも幹事っていうのかな?」
そんなことを話していたら、メグが溜息をつきながら、
「・・・お前さ、なんでヤジマが自分に幹事なんか頼んだのか、分かんねーの?」
「? たまたま会って、女子の連絡係が欲しかったからじゃないの?」
だって、ケー番聞かれたとき、そんなコト言ってたし・・・
「―――バカッ! お前、ホントに頭悪りーな?」
「は・・・?」
急にメグが怒り出した。
「ってか、ニブすぎなんだよ! ムカツクよ、ホントに!」
―――はぁっ!? な、何? 急に・・・
ってか・・・ 頭悪いって、あたしがっ?
そりゃ確かに、学年トップ10のメグと比べたら頭悪いよ?
でも、それと幹事のことと何の関係があるわけ?
―――あ・・・っ!?
「・・・中間テストの勉強もそっちのけで幹事なんかやって、バカじゃないのって思ってんだ?」
「はっ?」
さらにメグが眉を寄せる。
「それはメグにカンケーない話だからっ! 心配してもらわなくて平気だしっ!!」
とあたしがそっぽを向いたら、
「・・・もう知んねぇ・・・ 勝手にしろっ!」
とメグが吐き捨てるように言った。
「か、勝手にするよっ!」
な、何よっ!? そこまで言われるほどのことした? あたし??
全然分かんないっ!
もう、
「キス邪魔されて怒っちゃった?」
どころじゃない!
―――結局あたしは、メグとケンカしたまま週末を迎えることになった。

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