F サタデープラン!


「・・・やめる? 友達んちとか行く?」
「な、なな、なんでっ?」
だ、だって、カギがないからって上がらせてくれただけでしょっ!?
そ、それに、メグんちに泊まるのだって、初めてじゃないし・・・っ!
6年前まではしょっちゅうお互いの家に泊まりっこしてたくらいだし・・・ ねぇっ!?
・・・そ、そりゃ・・・ まだそんなこと・・・全然知らない子供だったけど・・・・・・
・・・・・・それに・・・ 必ずおじさんやおばさんがいたけど・・・
メグがちょっとだけあたしに顔を寄せて、
「・・・襲われちゃうかも?」
「え、ええっ!?」
な・・・っ!?
メ、メグ、何する気なのっ!?
とあたしが焦りまくっていたら、急にメグが笑い出した。
「冗談だろ?」
「・・・・・え?」
じょ、冗談・・・?
「誰がこんな濡れネズミに発情するか。 さっきオレのこと笑った仕返しだよ!」
―――なっ!!
恥ずかしいのとムカついたのとで文句を言おうとしたら、メグがあたしの顔に何か投げつけてきた。
「さっさとシャワー浴びれば? 濡れネズミ!」
タオルだった。
「も、もうっ!!」
何も言い返す言葉が思い浮かばないっ!!
メグに舌を出して、逃げるようにバスルームへ飛び込む。
―――ど、どうしよう・・・
洗面所の鏡に映った自分の顔を見つめる。 やっぱり赤くなってる・・・
こんな展開予想外なんですけど・・・ 超ドキドキいってる・・・心臓・・・・・
・・・って、なに1人で焦っちゃってんの? あたしっ!?
メグ、全然そんな気ないって言ってたじゃん!? ねぇっ!?
ドアの方を気にしながら秒速で濡れた服を脱ぎ、ドキドキしたままメグんちのシャワーを借りる。
いくら寒い時期じゃないっていっても、泳ぐほどの陽気じゃないから身体が冷えていた。 熱いシャワーが気持ちいい・・・
「・・・服、ここ置いとくから」
「えっ!?」
シャンプーしていたら急にメグの声が聞こえて、驚いて飛び上がる。
な、なにっ!?
・・・・・服・・・って言った?
脱衣所の方を振り返る。 もうメグはとっくに出て行ったみたいだった。
着替えでも持ってきてくれたのかな・・・ あたしの服、びしょ濡れだったし・・・
さっさとシャワーを済ませて恐る恐る脱衣所に出たら、シャツと短パンが置いてあった。
コレ・・・メグの?
な、なんか照れる・・・・・
「あのさぁ」
「うわっ!」
脱衣所の外からまたメグの声がっ! 慌ててタオルで身体を隠す。
「な、なにっ!?」
「服とか・・・自分で洗濯機入れて回して。乾燥まで勝手にやってくれるから」
「う、うん」
メグの足音が遠ざかっていくのを確認して、ホッと安堵の溜息をつく。
・・・メグんちの洗濯機、乾燥までやってくれるんだ? 最新じゃん・・・
メグんちの最新洗濯機に軽く感心しながら、濡れた衣類を入れてスイッチを入れる。
洗濯機に水が流れ込む音を聞きながら、
コレ・・・ どれぐらいで乾燥までやってくれるんだろ?
と考える。
――――――・・・ちょっと待って?
あたしは慌てて洗濯機のフタを開けた。 ・・・ちょうど回転を始めたところだった。
―――――・・・
「・・・ね、ねぇ・・・ メグ?」
脱衣所のドアを細く、本当にほっそーく開けてメグに声をかける。そしてソッコーでドアを閉める。
ちょっと間を空けて、
「・・・なんだよ?」
メグの足音が近づいてきた。 あたしは慌てて、
「待ってっ! 来ないでっ!! そこで聞いて?」
「は?」
「あのさ・・・ この洗濯機、何分くらいで終わるの?」
「はぁ? 洗濯?」
メグは訝しげな声を上げたあと、「3時間くらいだけど?」
3時間ッ!?
マジで・・・・・?
―――あたしそれまで・・・
あたしの質問に、メグが、
「・・・? あのさ、服ならそこに置いてあったろ? とりあえずそれ着てろよ」
そ、そーなんだけど・・・
「―――じゃぁ・・・ シャツ、もう一枚貸して?」
「は? ・・・・・なんで?」
「なんでもいいから貸してよッ!!」
ドアの向こうが一瞬静かになったあと、またメグの足音が遠ざかっていく。シャツを取りに行ってくれたみたい・・・
―――どうしよう・・・
あたし・・・ なんにも考えないで、下着まで洗濯機に入れちゃったよ・・・・・
「・・・ホラ」
またメグがドアの前に戻ってきた。
「そこに置いてって!」
また一瞬の沈黙のあとメグの足音が遠ざかっていく。細くドアを開けてシャツを引っ張り込む。
・・・とりあえず、シャツ重ねて着て誤魔化すしかないよね・・・
上はそれでいいとして・・・
短パンを眺める。 ―――男物だからダブダブしてる・・・
あたしは再びドアを細く開けて、
「・・・メ、メグ・・・」
また声をかけた。メグがやってくる。
「・・・今度は何?」
あたしはドアを閉じたまま、
「あ、あのさ。短パンじゃなくて・・・ジャージとか、長いヤツ貸して?」
「・・・なんで?」
「なんでもっ!」
「・・・なんなんだよ、さっきから・・・」
メグはうんざりした声を上げながら、「オレのじゃ長すぎんだろ?」
長くないと困るのっ!
「すそ折るから平気っ! だから貸してっ!!」
―――また同じようなやり取りをして、やっとジャージを貸してもらうことが出来た。
「・・・・・メグ・・・ 勉強は?」
メグのシャツ(2枚重ね!)とジャージで恐る恐るリビングに行ったら、メグはソファに座ってテレビを見ているところだった。
「あ〜・・・ さっきまで散々やったから、休憩」
「そ・・・なの・・・」
―――どうしよう・・・
メグが自分の部屋に行ってくれれば、って思ってたけど・・・
あたしがいつまでもリビングの入り口で突っ立っていたら、
「・・・座れば?」
「えっ!?」
3人掛けのソファの右端に座っているメグが、空いている左側を顎で指し示す。
「いっ、いいよっ!」
と大慌てで首と手をブンブン振ったら、
「そんなとこに突っ立ってられると、こっちが気になんだよ」
とメグはまたテレビに視線を戻した。
仕方なく家主のいうことを聞く。
でもソファの・・・・・メグの隣には座れないから、ダイニングの椅子に座る。
メグはチラリとあたしの方を見て、
「・・・・・感じワリーな?」
「ちっ、違うよっ!」
こんな格好でメグの隣行けないだけだよっ!
―――言えないけど・・・
メグはまたテレビに視線を戻すと、
「もしかして・・・・・ まだ怒ってんの?」
と小さく呟いた。
「え?」
お、怒るって・・・・・ あたしが? ・・・何を?
行くなって言われてたクラス会に忠告無視して行って、川に落ちて救急車で病院に運ばれて、勉強中のメグを無理やり呼び出して、さらに家のカギまで無くしたからってメグんちにまで上がり込んだあげく、・・・ヤジマとキスまでしてた(したくてしたんじゃないけど!)・・・・・
・・・あたしの方が怒られるなら分かるけど・・・
「だから・・・ ケータイ投げ捨てたこと」
またメグが小さく呟く。
「え? ケータイ・・・?」
一瞬なんのことだか分からなかった。けれどメグは、
「・・・あんとき、なんでオレがケータイ投げ捨てたか、分かんなかったの? お前」
と続ける。
・・・ああ。 思い出した。
あたしのシルキーピンクを投げ捨てたことね・・・
そう言われて思い出したけど、クラス会行く前にそのこと話したかったんだよね。
なのに、なんかまたいつものパターンでケンカになっちゃって・・・
確かに怒ってたけど・・・ 今はすっかり忘れてたっていうか・・・
・・・・・っていうか、メグ、そのコト気にしてくれてたの? 全然そんなふうに見えなかった・・・
「キスの邪魔されたからだよ」
って恭子に言われたけど・・・・・ ホント?
―――ホントかな? ちょっと信じられなくなってきた・・・
あたしがそんなことを考えていたら、
「・・・恭子に教えてもらったんじゃないの?」
「えっ!?」
メグの言葉に驚く。
「なんつー名前になってんだよ、オレ」
とメグが笑う。「センスねー名前、付けてくれるなよ」
え・・・ ええっ!?
ま、まさか、恭子・・・ メグに話したのっ!? あのときの話っ!!
「ちょ、ちょっとっ!? 恭子にどこまで聞いてんのっ!?」
あたしが焦ったら、メグは、
「全部」
ぜ、全部――――ッ!? う、ウソでしょ・・・
「恭子はオレに騙されて話しただけだから。 恭子責めるなよ?」
・・・せ、責めるつもりはないけどさ・・・
恭子は、メグがあたしの好きな人本人だって知らずに話したんだろうし・・・ メグがどうやって恭子のこと騙したのか知らないけど、恭子がメグに勝てるワケないもんね・・・
それより・・・・・
あたし・・・ あのとき、何話したっけ? 恭子に・・・
とあたしがあのときのことを思い出そうとしていたら、
「お前が、メグ夫くん大好きって言ってたって」
メグがちょっと笑いながらあたしを流し見た。
え、ええっ!?
「ウ、ウソだよッ! あたし、そんなこと言ってないもんっ!」
「言ったろ?」
「言ってないっ! そんなこと言うわけないもんっ!!」
メグ、話作ってるっ!!
「・・・・・あっそ」
あたしがムキになって否定したら、メグはまたテレビの方を向いてしまった。
そしてそのまま黙り込んでしまった。
な、なによ・・・
あたしもテーブルに視線を落として俯く。
・・・・・だって、ホントにそんなこと言ってないんだもん。
そのまましばらく2人とも黙り込む。
「―――・・・なんだ?」
「え?」
メグが何か言った。 けど、小さくて聞こえない。
「・・・やっぱお前、ヤジマが好きなんだ?」
「えっ!?」
な、なんでそんな話になるのっ!?
驚いてメグを振り返ったら、メグがソファの上で膝を抱えて、その上に顔を伏せている!
ま、まさかだけど・・・・・ 泣いてるっ!?
なんでっ!?
「メ、メグっ!?」
慌ててメグに駆け寄った。「ど、どーしたのっ!?」
メグは顔を伏せたまま、
「だって・・・ ヤジマのほうがいいんだろ?」
はぁっ!?
「誰もそんなこと言ってないじゃんっ!!」
「キスしたし」
「だからっ! それだって騙されたからだって、さっき言ったじゃんっ! したくてしたんじゃないのっ!」
メグはまだ顔を上げない。
「じゃあ・・・」
「あたしが好きなのはメグだよっ!」
だから泣かないでっ!? ねっ?
顔を覗き込もうとメグの肩に手をかけたら、肩が小刻みに震えている。
やっぱり泣いてるっ!!
とあたしが焦っていたら、クックッとメグが小さく息を漏らした。
―――――え・・・?
「・・・・・メグ?」
泣いてるんだよ・・・ね?
「・・・お前、やっぱ騙されやすいね?」
「・・・・・・え?」
メグが顔を上げる。
「ヤジマもさぞかし騙しやすかったろーよ」
・・・・・え?
―――――なに・・・
・・・なにそれっ!?
「・・・・・だ、騙したの?」
メグは楽しそうに笑っている。
「〜〜〜ヒドイッ!」
ムカついて抗議しようと思ったら、
「・・・あたしが好きなのはメグ?」
とメグがあたしの腕をつかんだ。
「え?」
「あたしが好きなのはメグ・・・って、お前 今そー言った」
「ッ!? だ、騙してそんなこと言わすなんて、ズルイじゃんっ!」
もうもうもうもう――――っ!
・・・・・恥ずかしすぎて、なに言っていいのか分かんないッ!
メグは、やっぱり笑いながら、
「お前もオレのこと、騙していーよ?」
なんてこと言ってる。
・・・あたしがメグのこと騙せるわけないじゃん。 メグのほうが何枚も上手だもん・・・
「―――・・・なんて?」
とあたしが聞き返したら、
「好きなこと、なんでも聞けば?」
メグはあたしを見つめて、「・・・・・なんでも答えてやるよ」
・・・なんでも? ホントに?
「・・・じゃぁ・・・ きょ、恭子が言ってたコト・・・ホント?」
「恭子が言ってたコトって?」
聞き返すなぁっ!
「だ、だからぁっ! ・・・き、キス邪魔されて怒ったとかなんとか・・・」
「ホントだよ」
あたしが言い終わらないうちにメグがそう返してきた。
「えっ!?」
「それで終わり? 他にはないの?」
「ほ、他には・・・って」
・・・ホントになんでも答えてくれるの?
・・・・・・じゃ、聞いちゃうよ? ・・・1番聞きたいこと・・・
「・・・・・メ、メグ・・・ あたしのコト・・・ どー思ってるの?」
ドキドキしながらそう聞いた。
ほ、ホントに答えてくれるの? 今までずっとはぐらかされてたけど・・・
メグはあたしから視線を外さないまま、
「・・・クラスメイトの女? あと・・・幼なじみの女?」
「そ、それだけっ!?」
あたしが慌てて聞き返したら、メグは小さく息を吐き出して、
「それから・・・・・ 1番大事な女」
とあたしの頬に手を添えた。「・・・大好きな女」
「ウ、ウソっ!?」
あたしは慌ててメグの手を振り払った。
「・・・・・ウソついてどーすんの?」
「だ、だって・・・」
今まで何回聞いたってちゃんと答えてくれなかったじゃん。
それをそんな急に・・・ そんなストレートに言える?
信じられないよ・・・
・・・・・はっ!?
もしかして、コレもさっきの続き? あたしまた騙されてるっ!?
あたしがいつまでも警戒していたら、メグが小さく溜息をついて、
「・・・コレでもケッコー勇気出して言ってんだけど? 信じてくんねーの?」
「だ、だって・・・」
メグはあたしからちょっとだけ身体を離して、
「さっき・・・ お前が病院に運ばれたって聞いて、スゲー焦った。 怪我の具合とか?全然分かんねーし・・・」
「ゴメン・・・ 心配かけて・・・」
あたしが再び謝ったら、いや、そーじゃなくて・・・とメグは呟いて、
「なんか・・・ いろいろ言いたい事あったのに、言ってなかったから・・・ 後悔もした」
「い、言いたい事って?」
「だから・・・ 今言ったじゃん。 お前のコト好きだって」
メグはあたしから視線を逸らして、「何回も言わせんなよ」
・・・何回も・・・・・・ って・・・
何回だって確認したくなっちゃうよっ!
ホ、ホントなのっ?
そりゃ、嬉しいけどさ・・・ なんか信じられない・・・
たぶんメグもあたしのコト・・・って思ってはいたけど、まさかこんなふうに言ってもらえるなんて思ってなかったから・・・
そう考えたら、あたしが川に落ちたのもまんざら無駄じゃなかったよね。 ・・・心配してくれたメグには悪いけど。
トンでる亜紀ちゃんやエロのアオシマ&クボタのせいで、
「クラス会なんか行かなきゃよかった・・・」
って思ってたけど・・・ そーでもなかったんじゃんっ!?
なんてことを考えていたら、
「・・・・・んっ?」
またメグがあたしの頬に手を添えてきた。驚いて後ずさる。
「な、なにっ!?」
「なにって・・・」
と言いながらメグは顔を近づけて、「・・・キスしようとしてるんだけど」
「えっ!? ―――・・・っんッ」
メグの柔らかい唇があたしの唇に触れる。
怖いような、嬉しいような感覚に襲われて、あたしはまた動けなくなる。
「・・・ん ・・・・・んっ」
ちょっ・・・ ちょっと、待って!?
な、なんか・・・ く、苦し・・・
メグは、ほんのちょっとだけ唇を離して、
「・・・テキトーに息しなよ?」
と言ったあと、また口付けてくるっ!
テキトーに・・・って、どうやってッ!? む、無理だよっ!
メグは、あたしが焦ってるのなんかお構いなしって感じで、うっとりするようなキスを送ってくる。
耳の後ろの髪を優しく梳かれるたびに、あたしの身体から力が抜けていくのが分かる。
メグの形のいい唇があたしの唇を食むたびに、脳の酸素が奪われて、思考回路が停止状態になる・・・・・
「・・・ねぇ? なんでいつも固まっちゃうの?」
メグが唇を離したときに、慌てて呼吸を再開させる。
「・・・あ、はぁ・・・はぁ・・・」
メグはクツクツと笑いながら、
「そーゆーの見ると、余計にしたくなっちゃうんだけど?」
し、したくなるって・・・ したくなるって・・・
―――何をっ!?
「・・・・・メ、メグ・・・?」
メグの唇が頬に滑ってきて、耳の付け根のあたりに移ってきたっ!
「んっ! や、だ・・・ ちょ、ちょっとメグっ!?」
慌ててメグから離れようと身体を捻る。 けれど、すぐにメグに引き寄せられる。
「・・・何がやなの? ・・・オレがやなの?」
「そ、そーじゃなくて・・・ ぅわっ!!」
耳にメグの息がかかるっ!
そのまま首筋を這う唇に・・・ なんか・・・ ちょ、ちょっとホントに・・・
目眩起こしそう―――・・・っ!!
「メ、メグ・・・? く、くすぐったい・・・よ・・・ ンッ」
「・・・くすぐったいだけ?」
うわ――――――っ!!
メ、メグ・・・ 声が、エロいよっ!
「ま、待ってっ!! メグっ!! ホントに、ちょっとッ!!」
「―――ちょっと、って・・・ もうケッコー待てないとこまで来ちゃってんだけど・・・」
うわうわうわっ! そんなエロい声で、そんなこと言わないでよ―――っ!!
「は・・・ 早すぎるよっ!」
それでもなんとか抵抗する。
「早い? って何が?」
「あ、あたしたち、まっまだ高2だしっ!」
あたしが焦りながらそう言ったら、メグはちょっと笑いながら、
「・・・ねぇ? それマジで言ってんの?」
「ッ!?」
今度は、恥ずかしくなって顔を背ける。「そ、それにっ! あたしたち、さっきやっとお互いの気持ちハッキリ確認したばっかだし・・・」
「・・・ハッキリ確認し合ったんだから・・・ こーゆー展開になってもおかしくないんじゃね?」
と言いながら、メグがあたしの服の衿を・・・・・ 正確にはメグのだけど・・・・・
―――・・・って、・・・・・はっ!!
「や、やめて―――っ!!」
メグがあたしの胸元に顔を埋めようとしたとき、とんでもないことを思い出した。
慌ててメグのおでこを力いっぱい押す。
「・・・なんだよ?」
わ、忘れてたけど・・・
あたし、今、メグに借りた服なんだよね・・・ 自分の服 洗濯しちゃってるから・・・
ってか、下着まで一緒に洗濯しちゃってるから、借りた服の下が―――・・・ッ!!
「やっぱ、ダメッ!! 準備できてないっ!!」
「準備って・・・ なんの?」
メグは一瞬考えたあと、ああ・・・と呟いて、「・・・オレなら準備できてるけど?」
メ、メグの準備って、何っ!? ・・・・・いや、そんなことより・・・
「あ、あたしの準備が出来てないのっ!」
「ん?」
あたしは胸の前で腕を交差させながら、
「ふ、服ッ!! こんなだしっ」
「気にしない・・・ ってか、オレの服だろっ!?」
メグはあたしにそう突っ込んだあと、「―――・・・あっ!?」
と急にいたずらっ子のような顔になった。
「・・・・・な、なによ・・・?」
「オレの服・・・ 返してもらおうかな〜?」
え、ええっ!?
思わず、交差させていた腕で自分の身体を抱きしめた。
「・・・か、返すよっ! あたしの服が乾いたらねっ!」
「ダメ! 今返して!」
や、やだ――――――ッ!!
「ちょ・・・ メグ? ホントに許して?」
「・・・なんだよ?」
あたしは俯いて、そしてすごく小さな声で、
「・・・・・だって・・・ し、下着が・・・」
「はぁ? ・・・下着?」
メグが訝しげな顔で聞き返す。 聞き返されて余計に焦る。
でも、着けてないなんて言えないよっ!
・・・なんて言うっ!?
「しょ、勝負下着じゃないからっ! き、今日っ!!」
「・・・勝負?」
メグが眉をひそめた。
あ、焦りすぎて、変なこと言っちゃったよ――――っ!!
案の定メグが吹き出す。
「勝負って―――・・・ 何と勝負すんの? もしかして、オレと勝負すんの?」
「ッ!? メ、メグっ!!」
そんなに笑わないでよっ!! もうっ!!
メグはお腹を抱えて笑い続けている。
・・・確かに変なこと言っちゃったけどさ・・・
・・・・・そんなに笑うことないじゃん。
下着洗濯機に入れてなくたって、あたしきっと同じこと心配してたもん。
下着だけじゃなくて、服だって・・・
別にメグの服がいやだって言うんじゃないよ? ・・・・・むしろメグの服着れて嬉しいけど・・・
けど・・・・・ は、初めてのときは、もっと可愛い格好がいいもん・・・
メグにしたら笑うようなことかもしれないけど、あたしにとったらすっごく重要な事なのに・・・
あたしがいつまでも俯いていたら、
「じゃ、いいよ。 再試合で」
とメグが、やっぱりまだ笑いながらあたしのおでこを突付いてきた。
「・・・え?」
「どんなすごい勝負しかけてくれんのか、それも楽しみだし?」
「しょ、勝負って・・・」
な、何回も言わないでよっ! あたしだって恥ずかしいんだから・・・・・
恥ずかしさに顔を背けようとしたら、
「だから、今日はコレだけで我慢しとくよ・・・」
メグがあたしの顎をつかんだ。
「え・・・ ―――・・・ん、ンッ!?」
またメグの唇とあたしの唇が触れ合う。
・・・ううん、触れ合うとか、そんな優しい感じじゃなくて・・・ 今度は噛み付くようなキスを送ってくる。
・・・・・・や、やっぱり、苦しいよっ! メグッ!!
「だから・・・ 息しろって」
超至近距離でメグが囁く。「・・・もっとすごいの行くよ?」
メ、メグっ! 声がエロいってばっ!!
「す、すごいのって・・・・・ッ! やっ、ンッ!!」
またメグが口付けてきた!
「・・・・・ンッ・・ ンンッ!?」
唇を割ってメグの舌が入ってきたっ!!
―――ッ!? やっ! な、なに・・・って・・・
うわうわうわうわ――――っ!!
・・・・・ざらついた生暖かい感覚に、余計に身体が強張る。
上顎や歯列の裏側をメグの舌が這う。 あたしの舌を絡めとってくる。
戸惑い 逃げるあたし。 でも、メグはそれを許してくれなくて・・・
そのまま吸い上げられたら、一緒に身体の力まで吸い上げられたみたいに全身に力が入らなくなる・・・
「・・・あっ ・・・ん、はっ」
メグが顔の向きを変えるときに唇を離す、その一瞬の隙に呼吸をする。 けど・・・ やっぱり苦しいよっ!!
メグの舌の動きに気が遠くなってきた。
触れ合う唇が、まるで焼けてるみたいに熱い・・・・・
ううん、唇だけじゃなくて、なんか・・・ 身体まで熱い・・・・・
これ以上、こんなキス続けてたら・・・ 身体の中から・・・ 何か・・・
・・・・・・溶け出しそう・・・
「メ、メグ・・・ 苦し・・・から・・・ も、ダメ・・・だよ・・・」
身体に力が入らなくて、思わずメグにしがみつく。そのあたしの耳元にメグが唇を寄せる。
「・・・ねぇ? ここまでしても・・・ダメなの?」
「はぁ、はぁ・・・ ダ、ダメ・・・」
息を切らせながらそう言ったら、やっとメグが身体を離してくれた。
「〜〜〜はぁ・・・ オレって、ホントに紳士だね」
「・・・ど、どこが?」
こんなキスしといて・・・
あたしが乱れた呼吸を整えていたら、メグは掻きあげた前髪の隙間からあたしを流し見て、
「・・・・・そんな格好した女 目の前にして、ここまでで止めたんだから紳士だろ?」
「・・・え?」
どーゆー意味?
「・・・お前、ホントは下着まで洗濯機に入れたんだろ?」
「えっ・・・ ええっ!?」
な、なんで分かったのっ!?
「洗濯に何時間かかるかとか、シャツもう一枚貸せとか・・・ そんなことでも分かったけどさ」
メグは一瞬だけあたしの胸の方に視線を下げて、「・・・・・見りゃすぐに分かるって」
「―――っ!? や、やだっ!」
あたしは慌てて両手で胸を隠した。
う、ウソでしょ―――ッ!!
「し、信じらんないッ!! メグのバカッ!! エロッ!!」
片手で胸を隠しながら、ソファの上にあったクッションでメグを叩いた。
「オレのせいじゃねーだろっ!? ・・・ってか、いてーよっ!!」
あたしのクッション攻撃に肘をつくような格好でソファに押し倒されるメグ。
もうもうもうもう―――っ!
・・・・・恥ずかしすぎて消えたいっ!!
「おいっ! やめろってっ!!」
「うるさいっ! ヘンタイっ!!」
「マジでやめねーと・・・」
急にメグが身体を起こした。「・・・ホントに襲うぞ?」
と体勢を入れ替えられてしまった!
ソファに押し倒されるような格好になり、メグが真上から見下ろしてくる!
途端に焦り始めるあたしっ!!
「うわっ!? ご、ごめ・・・ やめるからっ!」
「もう遅いよ・・・」
メグが唇の端を持ち上げて不敵に笑う。
なっ、なにその顔っ!!
「や、やだっ! バカバカッ!! ちょっ、ホントに・・・ッ!!」
「・・・いただきまーす」
いただくなぁ――――ッ!!
あたしがメグの胸に腕を突っ張らせて抵抗していたら、メグんちの家電が鳴った。
「で、電話ぁ―――――っ!!」
メグはあたしと電話機とを交互に見たあと、フッと笑って受話器を取りに行った。
・・・た、助かった――――っ!!
「あ、おばさん」
メグが受話器を耳に当てたままあたしの方に顎をしゃくってみせる。
もしかして・・・ ウチのお母さん?
「え? ああ・・・ じゃ、もう寝ちゃったんじゃないすかね? さすがに疲れてたみたいだし・・・」
あたしが代わろうと近づいたら、それをメグが手で制した。
「え? テスト勉強ですけど。そう、中間の。 ・・・いや、そんなことないですけど」
メグが笑いながらあたしのお母さんと話している。
・・・? 何の話してるんだろ?
「・・・いいですけど。 ボクでいいんですかね? ・・・え〜? プレッシャーだなぁ」
そのあともソツない会話をして、メグが電話を切る。
「お母さん、なんて?」
「別に用はなかったんじゃね? お前がちゃんと帰ってるか電話したけど出ないって、ウチにかけてきたんだよ」
あ・・・ あたし、ケータイカバンに入れたまま脱衣所に置いてきちゃってた・・・
「オレがテスト勉強してたって言ったら、お前の成績のこと嘆いてたぞ? んで、みてやってくれって言われた」
「えっ?」
・・・も、も―――っ!
お母さんってば、余計なコト言わないでよね!
・・・メグに成績悪いのバレちゃったじゃんっ!
これじゃまたバカにされちゃうよ・・・・・
・・・・・でも、お母さんから電話かかってきて助かったかも。
あのままだったら、あたし、メグに・・・・・ッ!! だったもんね。
とあたしが安堵の溜息をついていたら、
「んじゃ、やるか?」
とメグがあたしに流し目を送ってきた。
え・・・っ!?
や、やるって・・・ ま、まさか、さっきの続きっ!?
「ちょ、ちょっとっ!? マジでダメだって!!」
借りたシャツの胸元辺りを握りしめて後ずさったら、メグが吹き出した。
「お前・・・ なに勘違いしてんだよ?」
「え・・・?」
「テスト勉強やんだよ。 今、おばさんと約束しちゃったからな。 お前の成績上げてやってくれって」
「・・・テ、テスト勉強?」
・・・なんだ・・・・・
「って、期待しちゃってた?」
「し、してないよっ!!」
メグは笑いながらリビングを出て行った。
またバカにされた・・・ ってか、からかわれてる?
・・・・・なんかあたし、絶対メグには勝てない気がしてきた・・・
6年前は、なんでもあたしが上だったのにっ!
勉強だって・・・ あたしがメグに教えられる日が来るなんて、思いもよらなかった・・・
軽く落ち込んでいたらメグが教科書と参考書の山を持ってリビングに戻ってきた。
うわ―――・・・ メグ、本気だよ・・・
「お前、今何位くらいなの?」
ドキッ!!
なっ、なんでイキナリそういうこと聞くかなぁっ!?
「え・・・・・ 言いたくない・・・」
メグから視線をそらして抵抗したら、
「うるせぇ! 何位なんだよ?」
とメグが凄んできた!
怖っ!!
「・・・・・に、250番・・・くらい」
仕方なく白状したら、
「にひゃくごじゅうっ!?」
メグが絶句する。
―――ちなみに2年生は全員で315人・・・
そ、そんなに驚くことないでしょっ! もともと総武はあたしのレベル以上の学校なんだからっ! まぐれで受かったようなもんなのっ!!
・・・・・自慢にもならないけど・・・
「一気に100人追い抜くぞ」
メグがリビングのテーブルに教科書を広げる。
「はっ!? 100人って・・・ そ、そんなの無理だよっ!?」
「無理じゃねぇ! オレが上げてやるっつってんの!」
「そ、そんな〜・・・」
100人抜くって・・・ 150番でしょ? あたし今までだって、最高で180番くらいなんだよ?
絶対無理だよ―――ッ!!
あたしがいつまでも恨めしげにメグを見下ろしていたら、メグは教科書に目を落としたまま、
「・・・・・オレのサタデープランが・・・」
と呟いてフッと笑いを漏らした。
・・・・・なに? サタデープランって・・・?
「ちゃんと聞けよ? 1回教えたトコ間違ったらただじゃおかねぇからな!」
「え―――っ!?」
あたしが戸惑っているうちにメグはどんどん話を進めてしまう。
「間違ったらお仕置きな!」
「な、なによ・・・ お仕置きって・・・?」
「それは・・・ 間違ってからのお楽しみ♪」
メグが不敵な笑いをこぼす。「じゃ、始めるぞ!」


そのあと、やっぱり間違ってばかりいたあたしは、メグからのお仕置きに窒息死しそうになる・・・

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