B オーバーワーク


「メグちゃん・・・ 彼女とか、いないの?」
そう真由の母親に聞かれたオレは・・・・ なんて答えたらいいんだ?

いつものように、真由の家庭教師を終えたあとそのまま帰ろうとしたら、真由の母親に、
「良かったらお茶でも飲んでいかない?」
と誘われた。
リビングのテーブルに、クッキーと紅茶が並べられる。
「本当にありがとうね〜。 メグちゃんのおかげで真由の成績もやっと人並みになったわ〜」
「いえ、そんな・・・」
「お母さんっ!? よ、余計なこと言わないでよっ!」
オレは前回の中間テストのとき、真由の母親に言われて真由の勉強をみてやっていた。
・・・真由の成績はオレが思っていた以上に悪かった。
小学校の頃はなんだってオレより上だった真由。 当然勉強だってオレが教えてもらう方だった。 それが・・・
―――250位ってなんだよ・・・? ありえねぇだろ・・・
オレは小さい頃から真由が好きだったけど、それは別に勉強が出来たからとか運動が出来たからとか、そんなのが理由だったわけじゃない。
だから、今 真由の成績が悪くなったからってオレの気持ちが変わるわけじゃない。
いや、むしろ、真由に勉強教えることが出来て、嬉しいくらいだ。
嬉しいくらいだけど・・・・・ ―――250位はシビアにヤバイ成績だ。
実はオレは、自分で言うのもなんだけど・・・ 中学ぐらいから成績が伸びて、本当だったら総武よりももっと上の高校を狙えるぐらいの学力があった。
「そ、総武? お前ならもっと上狙えるだろ?」
高校受験のとき、志望校を総武に決めた事を告げたら当時の担任はそう言ってオレを引きとめた。
「頼むからお前の学力にあったとこを受験してくれ。な? それがお前のためでも、学校のためでもあるんだから」
オレ達の中学は普通の公立中学で、別に有名私立中学のように全員が高偏差値の高校に進学するような学校じゃなかった。
だから教師たちも、生徒の学力とかけ離れて上の高校を受験させたりするようなことはしなかった。 むしろ、
「そんな上の高校を狙って、もし中学浪人することにでもなったら・・・」
とそっちの方を心配する方が強かったようだ。
けれど、やっぱり自分たちの学校から高偏差値の高校に合格する生徒がたくさん出るのは学校側にとっては栄誉な事で、成績上位者はいつも、
「頑張って、ウチの学校の名声を高めてくれよ!」
なんてことを言われていた。 ・・・オレもそう言われていたうちの一人だった。
そのオレが偏差値60弱の総武を受験すると言い出したら、教師たち・・・いや、両親まで一緒になって、オレを引き止めにかかった。
「高偏差値の学校に行って、下の方にいるのは嫌だから。 だったらちょっとレベル下げてそこで成績上位でいたい」
なんていうオレの良く分からない理由を押し通す格好で、結局オレは総武を受験した。
オレがそこまで総武にこだわったのは、もちろん真由が総武を受験すると知ったからだ。
その当時 まだオレ達は絶交期間中だったけど、オレは真由が好きだったからどうしても真由と同じ高校に行きたかった。
オレは総武だったら受験勉強というほどの事をしなくても合格する自信があったけど、真由の方はそうじゃなかったみたいだ。
オレは自分の受験より、
「真由は大丈夫なのか?」
とそっちばかり気にしていた。
これで真由が総武に落ちて滑り止めの私立なんかに行ってしまったら、オレがレベルを落とした意味がなくなってしまう。
だから春になり、オレも真由も同じ高校に通えるようになったときは心底ホッとした。
2年までは選択授業でクラス分けがされていたけど、3年になったら進路別にクラス分けされる。
オレは両親に、
「大学受験は頑張るから、総武に行かせてくれ」
と頼み込んだ関係上、上のレベルのクラスを希望しなくてはならない。
真由とは付き合うことになったんだから、別にクラスぐらい離れたっていいんだけど、 その先・・・出来れば大学も同じ所に行きたいとは思っている。
だから今から真由の成績を少しでも上げておく必要があった。
それが、250位とは・・・・・ 正直 驚いた。
まぁ、オレがかけたヤマで、中間はなんとか147位にまであげることが出来たけど・・・
その実力を買われ、オレは真由の母親から、
「ぜひ真由の家庭教師やってくれない? ちゃんとバイト代も払うから!」
と頼まれた。
別に真由の勉強をみるのは全然苦じゃないし(逆に楽しみもあるから歓迎したいくらいだ)、そんなことでバイト代なんかもらわなくたって構わなかったんだけど・・・
ちょっと欲しい物があったから、真由の母親の依頼をそのまま聞くことにした。
―――――7月は真由の誕生日だ。 ・・・・・アレを買って真由を驚かせるのも悪くない。
オレがそんなことを考えていたら、真由の母親がカップに紅茶を注ぎながら、
「メグちゃんはもう志望校とか決めてるの? やっぱり慶応とか早稲田なんかなんでしょ?」
と聞いてきた。
「いや・・・そんな・・・」
・・・・・オレは真由と同じトコに行きたいんだよ。
「メグが慶応で満足するわけないじゃん! やっぱ東大でしょ!!」
真由がちょっと胸を反らして言う。
お前が行くなら、東大だってM.I.Tだって、どこだって行ってやるよ。
「なんで真由が威張るの? 真由もちょっとはメグちゃん見習って・・・」
と真由の母親が真由を睨んだら、
「あ! あたし、トイレッ! 実は、勉強中から我慢してたんだよねっ」
と真由はその場から逃げ出した。 真由の母親は真由が消えて行った方を見ながら、
「全くもう・・・ ごめんね? メグちゃん」
オレは笑いながら首を振った。
・・・っていうか――― そろそろ、「メグちゃん」って呼ぶのやめてくれないかな。
真由は本当にトイレに行きたいわけじゃなかったみたいで、すぐには戻ってこなかった。
きっと話の矛先が自分に向きそうになったから、そのほとぼりが冷めるまで待っているんだろう。
「大変じゃない? 真由に勉強教えるの・・・ 頼んでおいてなんだけど・・・」
「いや、全然?」
―――お楽しみもあるしな・・・
オレは真由に勉強を教える際、間違えたり、一度教えたところを忘れていたりしたら、「お仕置き」と称して、真由にキスをしていた。
・・・・・我ながらナイスなアイディアだ。
「・・・やだ! ちょ、ちょっと待ってよ!」
なんて真由は抵抗してるけど、お仕置きはお仕置きだ。 キッチリやらせてもらう。
真由とキスをするのは楽しい。
キスするときの真由は、緊張からかものすごく固まっている。 呼吸まで止めているのを知ったときには驚きを通り越して笑いが込み上げてきた。
それをオレがからかったら、
「か、固まってなんか、いないもんっ!」
ってムキになるから・・・
オレも素直な方じゃないけど、真由だって相当素直じゃない。
だから余計に飲み込んでやりたくなる。 オレに夢中にさせてやりたくなる。
なんて思いながら真由にキスしてるんだけど・・・・・ もしかしたら、オレの方が真由に飲み込まれているのかも知れない。
気付くと、自分も息が上がるくらい真由に口付けていたりする。 ―――うっかりしたら、その先まで行ってしまいそうだ。
いや、オレはいつだってその先まで行く気はあるけど、真由の方が・・・
この前だって、
「ちょッ・・・ 待って!? 今は、む、無理だよっ!」
って泣きそうな顔して頼むから、次回再試合って事にしたけど・・・・・
・・・・・どこでするかな。
さすがに真由んちじゃ無理だ。 オレが家庭教師をするときは大抵真由の母親がいる。
真由の部屋はリビングの隣だから、「その先」どころか、キスする時だって気を使う・・・・・
オレが紅茶をすすりながらそんなことを考えていたら、
「メグちゃん・・・ コレおばさんの勘違いだったら悪いんだけど・・・」
と真由の母親が切り出した。
「はい?」
「メグちゃんと真由・・・ もしかして、なんかある?」
「え・・・ッ!? ん゛ッ!!」
「だ、大丈夫っ? メグちゃんっ!?」
・・・・・・むせた。
渡されたタオルで口元を拭う。
「あ、あの・・・?」
「違うの、違うのっ! 別にメグちゃんが真由になんかしてるとか、そういうこと言ってるんじゃないのっ!!」
「は、はぁ・・・」
いや、してるっちゃしてるけど・・・・・
オレも慌てたけど、真由の母親はそれ以上に慌てたみたいだ。違う違うを連発しながら、
「なんかねっ? いつもメグちゃんの家庭教師が終わったあと、真由、自分の部屋で騒いでるのよ」
「騒いでる・・・?」
「ええ・・・ 何してるんだろうと思って覗いてみたら、なんかメグちゃんの名前叫びながらベッドの上でのた打ち回ってるのよ・・・」
思わず眉をひそめる。
―――真由・・・ 何やってんだよ? お前は・・・
「そう・・・なんですか」
オレはなんとか平静を装って話を聞いていた。
「コレは多分おばさんの勘なんだけど・・・」
真由の母親はちょっと声を潜めて、「真由、メグちゃんのこと好きなんじゃないかと思って」
「・・・・・まさか。 オレ達ただの幼なじみですよ?」
なぜか否定してしまった。
というか、オレ達のことをお互いの親に知らせるべきかどうか、この瞬間には判断がつかなかった。
「そう・・・ そうよね? そうよね?」
真由の母親は、明らかにホッとした顔をしている。
やはりオレ達のことを心配していたらしい。
父親が不在のときに娘に何かあったら大変だ。 真由の母親が心配するのは当然だろう。
いくら成績を一気に上げてくれた幼なじみでも、だ。
「そうよね〜! メグちゃんぐらいカッコ良かったら、もっと可愛い女の子がほっとかないわよね〜? ウチの真由なんか相手にされないわよね〜」
「いや、そんな・・・」
真由・・・・・ 早く戻って来いよ・・・
とオレがリビングのドアの方を眺めていたら、
「ところでメグちゃんって、彼女とかいるの?」
と真由の母親がちょっと声を潜めて、オレの方に身を乗り出してきた。
「はい・・・?」
「だから、彼女よ! いるんでしょ?」
――――・・・これはどういうつもりで聞いてるんだろう?
単なる興味か、それともさらに真由に対する牽制か何かのつもりで聞いているのか・・・
真由の母親の表情を見ただけじゃ、なんとも判断がつかない。
・・・どうする? なんて答えときゃいいんだ?
オレは悩んだ挙句、
「・・・・・いますよ?」
と答えた。

オレはしばらく悩んだ。
真由の母親にああ言ってしまった手前、絶対真由との関係がバレないようにしなくてはならない。
もしオレが真由になんかしてるところを見られでもしたら、オレは、
「娘の成績を一気に上げてくれた幼なじみ」
から、
「彼女がいるくせに、娘に手を出すとんでもない男」
になってしまう。
なんだか面倒くさいウソをついてしまった・・・
オレ達は学校では他人の振りしてるし、放課後や土日はインハイの地区予選が近いこともあって部活で忙しいから、真由と二人きりになれるのは真由の部屋で家庭教師をしているときだけだった。
その反動もあり、つい「お仕置き」に熱が入ってしまっていたんだけど・・・
これからはそれすら控えた方がよさそうだ。
一応、
「オレ達、ただの幼なじみですから」
と言ったオレの言葉を信じてくれたようだが、万が一、こっちの様子を伺いでもされていたら・・・と思うと気が気じゃない。
でも・・・・・ 我慢できるかな? オレ・・・
真由は相変わらず間違えてばっかいるし、おまけに無防備すぎるし・・・
オレが家庭教師で真由んちに行くのは、平日だったら部活が終わったあとの9時ぐらいが多かった。
それぐらいの時間になると、真由は食事も済ませていて・・・・・ ときには入浴も済ませていることがあった。
そんなときの真由は、血行が良くなっているせいで頬はほんのり桃色に染まっていて、唇もグロスを塗ったように潤っている。
プラス石鹸の匂いだ。
―――・・・本当に、自分で自分を褒めてやりたくなるよ。
良くあんな状況で勉強なんかできるよ・・・ 偉いよ! オレ!!
つか、真由にはもっと男に対する警戒心を持ってもらいたい。
きっと真由は、オレに対してだけじゃなく、全ての男に対してあんな感じなんだろう。
だから矢嶋なんかに・・・・・ キスされたりするんだ。
・・・・・・あ〜〜〜ッ! 思い出したらムカついてきた!
この借りは絶対返してやる! ―――――バスケでッ!!
オレも矢嶋もバスケ部だった。
もうすぐ始まる地区予選で、順調に勝ち進めばいつかは矢嶋の学校と対戦するはずだ。
矢嶋の学校は、去年までは上手いポイントガードがいて、県大会ベスト8の常連校だった。
でも、そのポイントガードが卒業してからは、総武と変わらないくらいのレベルに下がっている。
そのせいか、公式戦や練習試合なんかで矢嶋と対戦することが多くなった。
オレはポイントガードで矢嶋はシューティングガードだった。
オレも矢嶋もゴール下には殆ど入って行かないんだけど、矢嶋は殆ど外す事なくアウトサイドからシュートを決めることが出来る。
ゴールに最も近い場所にいるセンターより、矢嶋の方が点を稼ぐこともあるくらいだ。
オレは攻撃を組み立てるのがメインの仕事だけど、それだってある程度・・・いや、ゴール下に入れない分やはりシュート力は必要だ。
だから、普段からシュート練習は人の倍やっているし、フリースロー成功率だってチーム内じゃ1番だと思っている。
―――だけど・・・
やっぱり客観的に見ると、矢嶋の方がシュート力は上だろう。 矢嶋はノーマークだったら、かなり高い確率で3Pシュートを決めることも出来る。
役割が違うんだから、単純に得点だけでオレ達の力を比べることは出来ない。 それは分かっている。
分かってるんだけど・・・・・ やっぱり矢嶋には負けたくない。
オレは今まで以上にシュート練習をするようになった。
とは言っても、部活中はセットや速攻、ゾーンの練習で殆ど時間を使ってしまうから、それは時間外にするしかなかった。
オレはちょっとした時間を見つけて、学校の体育館や、それが使えないときは近所の公民館のレクリェーションホールに取り付けられているゴールを使ってシュート練習をしていた。
「・・・ちょっと、恵? 大丈夫? 頑張りすぎじゃないの?」
テスト期間になって部活動が中止になっても、シュート練習に出かけていくオレを見て、母親が心配して声をかけてきた。
「自分のテスト勉強以外に真由ちゃんの家庭教師も引き受けて・・・ その上、わざわざバスケの練習までしに行って・・・」
テスト期間中なんだから部活は休みなさい、と母親は言うがそうもいかない。
期末テストが終わったら、1週間後は予選だ。
そして、予選を突破することはもちろん大事だけど、学力も落としてはならない。―――自分のも、真由のも、だ。
―――・・・オレはパーフェクトということに、こだわり過ぎているのかも知れない。
自分でも分かっているけど、今さら止めることは出来ない。
「メグ、今度の日曜日、どっか行こ?」
と真由が誘ってきたときも、正直かなり迷った。
真由と出掛けたいのはやまやまだ。
だけど、やっぱり予選が終わるまでは、勉強以外の空いた時間はバスケに使いたい。
オレが目指すパーフェクトは、陰でしている努力が見えてしまってはカッコ悪いと思っている。だから、時間外にオレが一人でシュート練習をしに行っていることは、真由には内緒だ。
オレが曖昧に断ったら、真由は口を尖らしてふくれていた。
・・・・・ごめんな?
予選が終わったら、いっぱい二人の時間作ってやるから・・・
それに、予選が終わってすぐやってくる真由の誕生日には、サプライズも用意してやりたい。
真由は自分の誕生日を忘れているのか、それともそんな話をオレの前でするのはなんか催促してるみたいで恥ずかしいのか――多分、忘れてるんだろう――全然そんな話を振ってこない。
まぁ、忘れてるなら忘れてるで余計に驚かしがいがある。
それには、ちゃんと真由の家庭教師としての仕事もキッチリこなさないと、だ。

真由の誘いを断った日曜日。 オレは1日シュート練習するつもりで隣駅の体育館に出掛けて行った。
けど・・・・・ 自分でも気付かないうちにオレはオーバーワークしていたみたいだ。
しばらくシュート練習をしていたら、急に足元が揺れた。
一瞬、「地震かっ?」と思ったら、揺れていたのは自分の方だった。 直後、オレはしゃがみ込み、周りでやっていたバスケサークルの人たちに介抱された。
「軽い脱水症状と、極度の疲労。それから睡眠不足・・・ とにかく、無茶し過ぎです」
たまたまいたスポーツドクターが呆れた顔をしてオレを見た。
「とにかく、今日は帰って十分休養を取りなさい」
オレはまだ練習したかったのに、追い出されるようにして体育館を後にした。
―――その帰り道だ。
最初は自分の目を疑った。
脱水症状と、極度の疲労、それから睡眠不足だったか? さっき言われたのは・・・
・・・そのせいで、幻覚でも見ているのかと思った。
―――駅前のファミレスから、真由と矢嶋が出てきた。
オレがいた駅とそのファミレスとの間には国道が走っていて、二人の会話までは聞こえなかった。
けれど、やたら親しそうに見える・・・・・
・・・・・なんだ? 
あいつら、何やってるんだ?
「日曜日どっか行こうよ」
なんて真由は言ってたけど・・・ まさか、オレがダメだからって矢嶋を誘ったのか?
・・・・・ウソだろ?
――――――――――真由ッ!
気が付いたらオレは真由んちのインターフォンを押していた。
「え? メグちゃん? 今日、家庭教師の日だったの? どうしよう・・・真由でかけてて、まだ帰ってきてないのよ」
戸惑う真由の母親をテキトーにやり過ごして、真由の部屋で真由の帰りを待った。
ほどなくして真由が帰ってきた。
真由はアポなしで部屋にいたオレに驚いていた。
「き、今日約束してたっけ?」
約束してなきゃ、来ちゃいけないのか? オレはお前の彼氏だろ?
―――それとも・・・ 来られちゃマズイ事情でもあったのか?
その瞬間、真由の母親が心配するから・・・ なんていう考えは、どこかに行ってしまった。
オレは込み上げてくる衝動のままに、真由に口付けた。
真由が驚き、怯えて逃げようとする。 けど、オレはそれを許さない。 何度も口内を犯した。
「お、お母さんが・・・」
という真由のセリフにハッとなる。 我に返り、真由を解放した。
何やってんだ、オレは・・・
これは・・・・・完全な嫉妬だ。 ―――それに気付いて激しく落ち込む。
「メグ・・・? あたし、矢嶋にお金返してもらっただけだよ?」
真由が必死になって言い訳する。 分かってる。 真由はウソをついていない。
真由はウソなんかつけない。すぐに顔に出る。 
それも分かったのに、相手が矢嶋だと思うと、どうしても素直に真由の言うことが聞けなかった。
「矢嶋ね、メグのことちゃんと認めてたよ? バスケだって上手いし、カッコいいって・・・」
それを聞いて、ますます頭が熱くなった。
矢嶋は大人の対応をしているのに、いつまでもムキになっているオレの方がガキっぽいと言われたみたいで・・・
真由も矢嶋も、そんなつもりで言ったんじゃないって言うのも分かっている。
分かっているから、余計に素直になれない。
結局、オレが一人でじたばたしているだけだ。
―――・・・なんてカッコ悪いんだ。 オレは・・・
自己嫌悪を通りこして、マジで消えたくなった・・・・・
「―――・・・お前さ、矢嶋と付き合えば?」
真由が驚いてオレを見上げる。
マジで矢嶋の方が真由に合ってるんじゃないか・・・?
真由は、
「メグってパーフェクトだよね? 勉強も運動もなんでも軽くこなしちゃうじゃん?」
って言うけど、そんなことは全然ない。
勉強だってバスケだって、人より倍やっているだけだ。
それをカッコつけて隠しているだけで、本当はパーフェクトなんかじゃない。
軽くこなしているのは矢嶋の方だろ。
勉強は小学校の頃からある程度出来てたし、バスケだってオレより後から始めたくせに、今じゃチーム1のシューターだ。
要領悪くて、日曜日に真由の相手も出来ないオレより、矢嶋と付き合った方が真由だって・・・・・
真由を見下ろす。
オレを見上げる真由の瞳が揺れている。 潤んだ瞳が揺れている。
「・・・・・ウソだよ。 ごめん」
肯かれるのが怖くて、即座に謝った。
ホントは真由には矢嶋の方がいいのかも知れない。
けど、オレはやっぱり真由が好きだ。
悪いけど矢嶋には渡したくない。 いや、矢嶋だけじゃなく、誰にも、だ。
落ち込んだまま家に帰った。
「恵!? 今日、倒れたんだって?」
帰ったら母親が心配した顔で待っていた。
どうやら体育館利用者記録からウチに連絡が来たらしい。
・・・・・誰が余計なことを・・・
「明日は絶対休みなさいっ! それから真由ちゃんの家庭教師も辞めなさいっ!」
「・・・いや。それは出来ない」
家であんまり勉強できない分、学校での授業はキッチリ受けたい。
真由の家庭教師だって辞めるわけにはいかない。 真由の学力を上げてやりたいのもそうだし、それでもらうバイト代で買いたいものが・・・・・
「恵が言えないんなら、お母さんが直接言いに行くわよ!?」
「やめろっ!」
思わず怒鳴ってしまった。 母親が驚いて目を見開く。
普段、従順でどっちかと言うと大人しいオレが大声を出したことで、母親が絶句している。
「・・・ごめん」
「恵・・・?」
「家庭教師は辞めないから。 その代わり、バスケの練習はテスト終わるまでやらない。 だったらいいでしょ?」
オレがそう頼み込んだら、母親は心配そうな顔をしながら、
「・・・本当に大丈夫なの? 恵になんかあったら・・・」
「大丈夫だよ。 今日はちょっとアレだっただけ」
アレってなんだよ・・・と思ったけど、母親は深く突っ込んでこなかった。
「明日、学校行く前に榊医院寄って、栄養点滴打ってもらうから」
榊医院っていうのはオレが中学の頃からのかかりつけ医だ。 オレが成長期にバスケで痛めた膝を診てもらってからは、風邪のときもそこで世話になっている。
「もう、ホントに無理しないでよ? 次こんなことがあったら、絶対辞めさせるからね!? 部活も家庭教師も!」
「分かってるよ。 あ、あとさ・・・ このこと、真由んちには絶対言わないで?」
「どうして?」
―――陰で必死になってるところを真由に知られたくないから。
「ん? 心配かけたくないから。 っていうか、おばさん気にしちゃうよ? おばさんが家庭教師の話持ってきたし」
オレの話に不承不承母親は肯いた。

とにかく期末だ。
全てはそれをこなしてからだ。

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