A 嫉妬


『あ、市川? 今日ヒマだったら出て来れね?』
日曜日。
あたしはメグから出されたノルマにも手を付けず、ベッドの上に寝転がっていた。
・・・メグの用事ってなんだろ?
朝のうちに出かけたみたいだけど・・・ テスト前で部活はないはずだし・・・
なんかメグって、あたしに内緒にしてる事とか多そう・・・
この前のカテキョの夜もどこに行くのか内緒にしてたし。
その前だって、メグが小学校のときのクラスメイトと会ってるって言うから、
「誰とっ!?」
って聞いたら、
「誰でもいーじゃん」
とか笑って誤魔化してたし。
―――・・・まさかホントに、あたしの知らないところで、あの頃の女子と会ってる?
思わず枕を抱きしめてベッドから起き上がる。
誰っ!? ナミエっ? それとも亜紀ちゃんっ!?
・・・・・あ―――ッ!! もうっ!
メグどこ行ってんのよ―――ッ!!
とベッドの上で枕相手に悶えていたら、ヤジマからケータイに連絡が。
「え〜〜〜? なんか用?」
『お前・・・ 相変わらずな? お前庇って怪我までしたってのに。オレ』
「それは悪かったって思ってるよ・・・ っていうか、あたしと会ったらあんたんとこのお母さん、また怒るんじゃないの?」
あたしは1ヶ月ほど前、ヤジマに怪我をさせていた。
メグには、
「行かなくていい!」
って言われてたんだけど、やっぱり気になって後日ヤジマんちにお見舞いに行ったら、
「祐介ちゃんは、あなたとは会いたくないって言ってますっ!」
とヤジマのお母さんに門前払いされた。
ヤジマのお母さんはヤジマをもの凄く溺愛していて、愛する息子に怪我をさせたあたしのコトをもの凄く怒っていた。
挙句の果てには、
「あんな人気のないところで、ウチの祐介ちゃんに何する気だったのっ!?」
とあらぬ疑いまでかけられてしまった・・・
『母さんなら大丈夫だって! ってか、オレ先週ギプス取れたんだよね』
「えっ? そーなのっ!?」
『うん。 市川も怪我させた責任感じて、ちゃんと確認しに来いよ』
とヤジマは笑っている。
「う・・・」
それを言われると・・・ 弱い・・・
あたしが言葉に詰まっていたら、ヤジマはますます笑って、
『ってのは冗談だけどさ。 この前のクラス会、市川が会費の足りない分払ってくれたんだって? クボタのオジサンに聞いたけど』
「え? うん」
あたしは先月行われたクラス会でヤジマと一緒に幹事をやっていた。
ところがみんなが勝手にアルコールを頼んでしまって、集めた会費だけじゃ清算が出来なくなってしまった。
一緒に幹事をやっていたヤジマは酔っ払って寝ちゃってるし、仕方がないからあたしが自分のお財布から足りない分を出していた。
―――ってそれでもホントは足りなかったんだけど。
すっかり忘れてた・・・
『それも返したいしさ。 これから出て来いよ』
確かにあの3000円は痛かったよね・・・ 今月はお小遣いも厳しいし、ケータイの支払いだって・・・
あの3000円が返ってきたら、かなり助かる・・・
「分かった。 どこ行けばいい?」
あたしはヤジマと駅前で待ち合わせをすることにした。

「市川〜!」
先に来ていたヤジマが手を振っている!
「ヤジマっ!」
あたしは慌ててヤジマに駆け寄った。
「え?」
「治ったばっかの腕、そんなに振っちゃダメだよ! せっかくくっついた骨、また折れちゃう!」
ヤジマは一瞬あっけにとられた顔をしたあと、お腹を抱えて笑い出した。
「治ったからギプス外れたんだよっ! もうバスケも始めてるし。 っつーか、折ったのこっちの腕だし!」
とヤジマは、振っていなかった方の左腕を持ち上げて見せた。
「・・・そ、そーだっけ?」
な、なんだ・・・ 心配して損した・・・
ひとしきり笑ったあと、ヤジマはあたしに封筒を渡してきた。
「ん。 悪かったな」
「いーよ。 あたしもすっかり忘れてたから、なんかお小遣いもらえたみたいで嬉し・・・ え?」
封筒の中を覗いて驚く。「あたしが出したの3000円だよ?」
中には5000円札が入っていた。
「いーよ。 それで」
「良くないよ! ちゃんとお釣り渡す」
とあたしがお財布を取り出しても、
「いーって! ・・・利息? それ!」
と言ってヤジマは受け取ろうとしない。
「でも・・・」
利息って・・・ 2000円も余計にもらえないよ!
「オレんち金持ちで、お坊ちゃんだし!」
「ウソつけっ!」
「バレた?」
あたしが突っ込んだら、ヤジマはまた楽しそうに笑って、「とにかくさ、いーから受け取っとけよ」
「でもなぁ・・・」
それでもあたしが躊躇っていたら、
「んじゃ、それでメシおごって? オレまだ昼食ってない。 市川は?」
「あたしもまだだけど・・・」
「じゃ 決まりっ! 行くべっ!!」
半ば強引にヤジマにファミレスに連れて行かれた。
ランチタイムも終わりに近付いた時間のおかげで、待たされることなく窓際の席に案内された。
ヤジマと向かい合わせに座る。
「今日千葉は? やっぱ練習?」
ヤジマはあたしとメグが付き合い始めたのを知っている。
実はヤジマに怪我をさせたとき、あたしはヤジマに告られている最中だった。
結局そのときはいろいろあって、うやむやになっちゃったんだけど(って、一応断ってたんだけど、ヤジマは聞いてくれなかった)、そのあと電話で、
「改めて言うけどさ、オレと付き合って?」
って言われたときに、メグと気持ちが通じ合ったことを報告したんだよね・・・
ヤジマは、
「え!? マジで付き合い始めたのかよ? なんだよ〜!」
なんて言いながらも、結局は笑って、良かったじゃんって言ってくれたけど・・・
やっぱり、そんなに真剣じゃなかったのかな?
なんかよく分かんない! ヤジマのノリって!
「え? 練習って?」
「バスケのに決まってんだろ? 予選まで2週間切ったし」
「え? 予選って・・・ インハイの? 夏休みに入ってからじゃないのっ?」
「それは全国行ってから。 地区予選はもっと早く始まんだよ」
「そーなんだ・・・ でも期末前だから、部活中止になってるんだよ? 体育館だって使えないだろうし・・・」
「んじゃどっかの体育館行ってんじゃね? シュート練習だったら一人でも出来るし。 千葉もガードだからな」
「ガードって?」
「ポジションだよ・・・ もしかして、お前千葉の試合とか見たことねーの?」
そう言えば・・・
「ない・・・」
ヤジマは一瞬呆れた顔をしたあと、
「ガードはゴール下入って行けねーから、離れた位置からシュート決めなきゃなんないわけ。 ちなみにオレもガード」
「へぇ・・・」
ポジションの話なんかされても全然わかんないけど・・・
「だからメチャクチャシュート力ないとダメなんだよ。 千葉は1番だからゲームメイクもしながら、チャンス見てシュートも打ったりすんの」
「1番って? メグのユニフォーム4番だった気がするんだけど」
と言ったら、
「ポイントガードのことだよ。 1番って呼ばれたりもすんの。 ポイントガードはゲーム組み立てる司令塔。 そいつから攻撃が始まるって感じかな」
「へぇ・・・」
メグ・・・ そんなカッコいいポジションだったんだ。
「千葉は足も速いし、スティールしたらあいつ一人で点取りに行くこともあるよ。 そんときは悔しいけど、カッケ〜とか思っちゃうよ」
そういえば、ずっと前に恭子が、涼よりバスケセンスあるとか言ってたっけ・・・
うわ―――っ! 見たいっ!!
「どこで試合やるのっ? あたし応援行きたいっ!!」
「K体育館。 ・・・って、平日だから授業ある日だぞ?」
「サボって行くよっ!」
マジかよ、とヤジマは笑いながら、
「じゃ、ついでにオレの応援もして?」
「え・・・ いいけど・・・ メグと対戦するときはメグの応援するからね? あたし」
「お前・・・ 正直すぎね? 一応オレ市川のコト好きなんだからさ、ちょっとは気にしろよ」
ヤジマが眉間にしわを寄せる。
「忘れてた」
「おいっ!」
ヤジマが向かいの席から長い腕を伸ばしてあたしの頭を小突いてきた。
・・・・・ヤジマがどれだけ本気だったのか分かんないけど、あのあともこうやって普通にしてくれているのが嬉しかった。
もしかして、あたしが気を使わないようにしてくれているのかな・・・?
ヤジマって、ナニゲに大人?
そんなことを考えていたら、
「罰として、コレもらう!」
とヤジマは、あたしがデザートに頼んだパフェのチェリーを素早く自分の口の中に放り込んでしまった!
「あっ! ちょっとっ!! 信じらんないっ!!!」
あたしだって楽しみにしてたチェリーをッ!!
「いや、残してるみてーだから、いんねーのかな、と・・・」
「最後に取っといたんだよっ! もうっ!!」
とあたしがプリプリ怒っていたら、
「―――・・・ ん!」
あたしのチェリーを勝手に食べたヤジマが舌を出した。 その上にチェリーの枝が乗っている。
その枝が・・・・・
「すごくね?」
結ばれているっ!
「すごい・・・ すごいよっ!」
あたしはチェリーを勝手に食べられたことも忘れて、「ちょっと、どうやったの?」
「知りたい? ・・・教えてやろうか?」
ヤジマがちょっとだけ笑いながら、前髪の隙間からあたしを見る。
「うんっ! 教えてっ!」
あたしも出来るようになったら、メグに自慢しちゃおっ!
いくら器用なメグだって、こんなこと出来ないもん! きっと!
あたしが身を乗り出したら、ヤジマは、
「やっぱやめた」
と視線をそらした。
「なんで? 教えてよ!」
「・・・・・なんでも」
ヤジマは視線をそらしたまま、「・・・無防備すぎるっつーの」
「は? 何よ?」
「なんでもね! 千葉に教えてもらえば?」
「え―――――ッ!!」
メグに内緒でやりたいのにっ!
「ヤジマのケチッ!!」
それからしばらくこの前のクラス会の話をしたり、ヤジマの怪我の話をしたり、またバスケの話をしたりして、夕方くらいにヤジマと別れた。
「んじゃまた。 試合見てくれよな」
ヤジマは笑いながら、「千葉よりカッコいいとこ見せてやるよ」
とシュートを放つポーズをとる。
「怪我、治ったばっかなんだから、無理しないようにね? 試合も大事かもしれないけど、やっぱり身体の方が大切だからさ」
今日いろいろバスケの話聞かせてもらったけど、ホントにヤジマってバスケ好きなんだなぁってよく分かった。
だから、まだ治ったばっかりだっていうのに、無茶しそうで心配なんだよね。
男の子ってみんなそうなのかな?
前にメグも、足怪我してるのに無茶して試合出たコトあったし・・・
あたしが心配してそう言ったら、ヤジマはちょっとだけ目を細めて、
「なぁ・・・ マジでもう・・・・・遅いの?」
と呟くように言った。
「え? なにが?」
ヤジマの言ってる意味が分からなくて、ヤジマの顔を覗き込んだ。
「・・・なんでもね」
ヤジマは、じゃあな、と言いながら今度こそ帰っていった。
? 変なヤジマ。

「あ〜あ。 また明日から学校かぁ」
なんで休日ってあっという間に終わっちゃうんだろ。
日曜の夕方って、チョー切ないよね・・・・・
あ。 まだメグのノルマやってないや・・・
ま、いっか。 どうせ今日はカテキョないし・・・
なんてことを考えながらウチに帰ったら、リビングにいたお母さんが、
「ちょっと、真由!? どこ行ってたの? メグちゃん待ってるわよ?」
「え・・・?」
「今日、家庭教師やってくれる日だったんでしょ? ちゃんと帰ってなきゃダメじゃないのっ!!」
え・・・・・ ええっ!?
「メグ・・・ 来てるの?」
だって・・・ 今日は用事があって出かけるって言ってたよね?
カテキョの約束もしてないし・・・
「真由の部屋で待ってもらってるわよ! もう! お母さんが頼み込んだんだから、恥かかせないでよねっ!?」
戸惑っているあたしをお母さんが部屋に行くように促す。
ちょ、ちょっと待って?
・・・・・・あたし、まだ今日の分のノルマこなしてない・・・
絶対メグに怒られちゃうよっ!!
「テスト前だっつーのに、ノルマもこなさねーで・・・ どこほっつき歩いてんだよっ!」
って、絶対デコピンされる・・・・・
メグのデコピン、すっごい痛いんだよね・・・・・
やだ―――――ッ!!
どうしよう・・・・・
一瞬、
・・・・・このまま、また出かけちゃう・・・?
って逃げようかと思ったけど、そんなことしたら後で余計に怒られるだけだと思って、覚悟を決めて部屋に向かった。
「今日の分のノルマは、これからやろうと思ってたんだもん! 何時にやれとは言われてないんだからいいじゃんっ!」
・・・・・よし。 この言い訳で行こう!
「・・・た、ただいま・・・・・」
自分の部屋だっていうのに、恐る恐るドアを開ける。
メグはあたしの勉強机の椅子に座っていた。 メグがゆっくりとこっちを振り返る。
「どこ行ってたんだよっ!?」
って怒鳴られるかと思ったら、メグは黙ったままあたしを見ている。
・・・・・あ、あれ? 怒らない・・・の?
メグがあんまり黙ったままなのが・・・ 怒鳴られるより逆に怖いんですけど・・・
「・・・なんでいるの・・・? き、今日カテキョの約束してないよ・・・ね?」
思い切ってメグに話しかけた。 メグは静かに、
「約束してなかったら、来ちゃダメなのか?」
「そ、そんなことないけど・・・ 急でビックリしたなぁ、なんて・・・ はは、は・・・」
とあたしが笑っても、メグはクスリともしない。
「え、えーと・・・ ちょっと待ってて? すぐ始めるから・・・」
と肩にかけていたバッグをクローゼットに引っ掛けようとしたら、急に背後からメグが抱きしめてきた!
「うわっ!? メ、メグッ?」
驚いて、掛け損ねたバッグが足元に落ちる。
ビ、ビックリした〜・・・
「ど、どうしたの・・・?」
「・・・・・どうも?」
メグはあたしの耳元でそう呟いたあと、あたしを自分の方に向き直させた。
「どうもしねぇよ。 ・・・キスするだけ」
「あ、そう・・・・・ って、ぇえっ!? ンッ!」
瞬時にメグに顎をつかまれ、そのままキスされた。
なっ!? なになになになにっ??
メグ、どうしちゃったのっ!?
すぐに歯列を割ってメグの舌が入って来るっ! そのせいで、ますますあたしの頭はパニック寸前!!
「や・・・ は、ぁっ メ、メグ・・・ んっ!」
なんとか離れようとしても、メグの腕で頭を抱え込まれてて、離れることが出来ないっ!
「ちょっ・・・ ちょっと・・・ ンンッ!」
あたしがいくら逃げても、メグはそれを許してくれない。 メグの舌が別な生き物みたいになって、あたしの舌を絡めとる。
かと思ったら、ちょっとだけ唇を離して 今度は舌先であたしの唇をなぞってくる。
「メ、メグ・・・」
甘い痺れにも似た感覚が唇から身体中に注ぎ込まれる。
身体が蕩けそうになり、力が入らなくなってきた・・・・・
そのまましゃがみ込もうとしたら、メグがあたしの体を支えてくれた。
「メグ・・・」
とメグを見上げて・・・ 身体が凍りついた。
いつもキスするとき、それが激しいときでも、そうじゃないときでも、メグは溶けそうに甘い目をしている。
まるで、花の蜜にとまる蝶のように、あたしはそんなメグの瞳にいつも吸い寄せられる。
けれど、今日のメグの目は・・・ いつもと全然違う。
氷のように冷たい瞳をあたしに向けている。
その目からは殺気すら感じられて・・・
―――怖い・・・
「メグ・・・? ・・・やっ!? 痛っ」
急に下唇に噛み付かれた! 咄嗟にメグを突き飛ばす。
やっとメグから離れることが出来たあたしは、肩で大きな呼吸を繰り返した。
「・・・ホントに、どうしたの?」
メグはあたしから視線を外して、机の方を見ている。
「・・・・・どうもしねぇって」
「だって・・・」
なんか・・・・・ 怖いよ?
メグは机に視線を落としたまま、
「お前・・・ 今日の分のノルマ、やったか?」
―――来た・・・
「ま、まだ・・・ これからやろうかなって・・・」
メグの冷たい瞳があたしを見下ろす。
やっぱり、ノルマやってないのバレてたんだ・・・ だからこんなに怒って・・・
「・・・やる気あんの?」
「あ、あるよ・・・」
と俯いたら、メグは、
「じゃ、期末は もう100人抜きな!」
「はっ!? ・・・そんなの無理に決まってんじゃん!」
もう100人抜いたら、あたし50位だよ? 今まで250位だったんだよ?
「無理じゃねぇ! やれ!」
とメグは凄んで、「出来なかったら、お仕置き」
「えぇっ!? だ、だからぁ! あと100人なんて、絶対無理だってっ!!」
あたしが慌てて顔の前で手を振ったら、その手をメグがつかんで、
「・・・・・とりあえず、今日の分のお仕置き」
と再び唇を近づけてきた!
「えっ!? ノルマだったらこれからやるって言ったじゃんっ!」
さっきの冷たいキスを思い出して、慌てて離れようとしたら、
「・・・そんなんじゃねぇよ」
「ンッ! やっ・・・!?」
腰を抱き寄せられ、またメグの舌があたしの口内に滑り込んで来た!
怖いぐらいのメグのキスが大きな水音をたてる。
「や・・・ ね・・・メグ・・・ リビングにお母さん・・・ いるから・・・」
途切れ途切れにそう言ったら、やっとメグは身体を離してくれた。
しばらく二人とも黙ったまま・・・・・ あたしは呼吸や動悸を抑えようと深呼吸を繰り返した。
深呼吸しながらメグの様子を窺う。
「・・・なんか、メグ・・・ 怒ってる?」
あんまりメグが黙ったままなのが気になって、あたしから口を開いた。
「・・・なんで?」
メグは視線だけあたしに向けた。
「なんでって・・・」
だって、怖いもんっ!
いつもだって優しいってわけじゃないけど、今日はなんか怖いっ! ホントにっ!!
「それとも・・・ お前、なんかオレに怒られるようなこと、したわけ?」
「だから、それは・・・ ノルマやっとかなかったから・・・でしょ?」
おどおどしながらそう答えたら、メグは眉間にしわを寄せて、
「・・・・・んなんじゃねっつったじゃん」
「えっ!?」
ノルマやってなかったからじゃないのっ?
じゃぁ・・・・・・ なんで怒ってるの?
他にはあたし、なんもしてないよ・・・ ね?
頭の中に、色んなことがよぎる・・・
・・・・・・・・
―――――・・・まさか・・・ だよね?
「・・・見てた、の?」
恐る恐る尋ねる。
「・・・何を」
何をって・・・・・
・・・今まで、メグが怒ってるのはあたしがノルマもこなさないで出かけたせいだとばっかり思ってたけど・・・・・
もしかして・・・ ―――ホントは、今日 あたしがヤジマと会ってたから怒ってるの?
どこかで見てたのっ?
だから怒ってるんだよねっ?
あたしはメグから視線をそらして、
「ご、誤解しないでほしいんだけど・・・ あたし別にそういうつもりで会ったんじゃないんだよね・・・」
「・・・・・誰に」
静かに聞いてくるメグとは対称に、あたしは大慌てで言い訳をする。
「この前の・・・ ホラッ、クラス会のとき! あたしお金足りない分出したって言ったでしょっ?」
「・・・・・誰に」
「それ返してくれるって言うからっ!? だからっ・・・」
「・・・・・誰に」
・・・メ、メグ〜〜〜・・・
やっぱりそれで怒ってたんだ・・・
「・・・・・誰に会ってたんだよ」
「ごめんなさい・・・・・」
とあたしは俯いて、「・・・・・ヤジマ」
と上目遣いにメグを見上げた。
メグはそんなあたしを見下ろしている。 しばらくそうしてあたしを睨んだあと、はぁ〜と大きな溜息をついて、
「お前・・・ ヤジマが自分に気があんの知ってんだろ? なんでそんなのと会うわけ?」
と吐き捨てるように言った。
「・・・・・そんなの、なんて・・・ そんなふうに言わないでよ・・・」
そりゃ、メグは小学校の頃いじめられたとか色々あるかも知れないけど、ヤジマはメグのこと認めてるよ?
バスケだって上手いってメグのこと褒めてたよ?
なのにメグの方がいつまでもそんな感じなんて・・・ やだ・・・
「ヤジマ、そんなに悪いヤツじゃないよ? あたしがメグと付き合い始めたって言ったら、良かったなって言ってくれたし・・・ やましいことなんか全然ないんだよ? ホントにお金返してもらっただけだし・・・」
メグはあたしから顔をそらして、
「それでも会うなよ・・・」
「そんなこと言ったって・・・ 怪我もさせたし、無下に出来ないよ・・・」
「・・・自業自得だろ」
そのままあたしたちは黙って向き合っていた。 気まずい空気が漂う・・・・・
そのまま黙って俯いていたら、・・・・・段々腹が立ってきた。
なによ・・・ そんなにあたしのこと疑ってるわけ?
あたしが、ヤジマとどうにかなりたくて会ったとでも思ってるの?
・・・ふざけないでよっ!
ホントは今日だって、あたしメグと出掛けたかったんだからねっ!?
それをメグが用事があるって言うから、諦めたんだからっ!
って言うかさっ! あたしたちホントに付き合ってるんだよね?
なのに、付き合うようになってから、あたしたち勉強しかしてないよ!?
休日もメグは部活部活だし・・・ 予選が近くて練習したかったのかも知れないけど・・・
―――・・・って、メグ、ホントに今日、練習で出掛けてたワケ?
ヤジマがそう言うからあたしもそうなんだろうって思い込んでたけど・・・
もしかして・・・ メグこそ誰かと会ってたんじゃないのっ!?
前に、
「5、6年の頃のクラスメイトで、会いたいヤツには会ってる」
とか言ってたし・・・
誰よっ!? 女子なんでしょっ!? ・・・ナミエ? それとも亜紀ちゃんっ?
「〜〜〜ヒトのことばっか言ってないで、自分こそどうなのよっ!?」
「はぁ?」
「こっちだって言わせてもらうけど・・・・・ 一体誰と会ってんのよ」
いきなりのあたしの反撃に、メグが眉を寄せる。
「は? ・・・何?」
「5、6年のときのクラスメイトと会ってんでしょっ? あたしに内緒でっ!」
メグがますます眉をひそめる。
「は・・・・・? なんだそれ? 全然イミ分かんねーんだけど?」
「誤魔化さないでよっ! 自分で言ってたじゃん! 会いたいヤツには会ってるって!!」
はじめは何のことだか分からない顔をしていたメグが、一瞬黙り込み 何か思いついたような顔になる。
「ホラッ! 思い出したんでしょっ!」
あたしが詰め寄ったら、メグはどもりながら、
「い、今はそんなことカンケーねーだろっ!」
「あるねっ! ヤジマは5、6年のときのクラスメイトだよっ!? メグだってその頃のクラスメイトと会ってんのに、なんであたしがヤジマと会ったからって怒られなくちゃいけないワケっ!?」
あたしが一気にまくし立てたら、メグはあたしを睨んだまま口をつぐんだ。
・・・・・やっぱり会ってるんだ。 誰かと・・・ 図星だから黙ったんでしょ!?
そーなんでしょっ!?
いつまでもメグを睨みつけていたら、メグの方から先に視線を外した。
「・・・・・帰る」
とメグはドアの方に歩きかける。
「えっ?」
あたしは、メグが意外にもあっさり退いたことに驚いた。
いつも、あたしが言い負かされることはあっても、メグがあたしに言われっ放しのまま終わるなんて事ないのに・・・・・
「メ、メグ・・・?」
あたしは怒っていたことも忘れてメグに声を掛けた。 メグが振り返る。
メグはそのまましばらくあたしを見つめたあと、
「―――・・・お前さ・・・ やっぱ、ヤジマと付き合えば?」
「え・・・」
意外すぎるメグのセリフに、頭の中が真っ白になる。
な・・・なに? それ・・・ どういうイミ・・・?
「オレ、何もしてやれねーし・・・ その方がいんじゃ・・・」
え・・・・・ なになに?
一瞬、またいつもみたいにあたしのこと騙してからかうつもりなのかとも思ったんだけど、メグの表情からふざけてるわけじゃないことが分かった。
―――・・・メグ、本気なの・・・? 本気であたしがヤジマと付き合った方がいいって・・・・・ 思ってるの・・・?
あたしが何も言えずにメグの顔を見つめていたら、
「・・・・・ウソだよ。 ごめん・・・」
とメグは目を伏せた。
「メグ・・・ あたしホントにお金返してもらっただけだよ? ヤジマとはなんにもなかったんだよ?」
あたしが慌ててそう言ったら、メグはちょっとだけ笑って、
「・・・分かってるよ」
とどうでもいい事のように呟いた。
とても勉強するような雰囲気じゃなくて、結局そのままメグと別れた。
メグ・・・ どうしたんだろ?
いつもは憎たらしいくらいクールなのに、今日は余裕なさそうに見えたけど・・・
―――もしかして体の調子悪かった? そう言えばちょっと顔色悪かったかも・・・
・・・・・あたし、自分のことでいっぱいいっぱいで、全然気がつかなかった。
「オレ何もしてやれねーし・・・」
なんてメグは言ってたけど、あたしの方こそメグに何もしてあげてないよね?
メグは部活で忙しい合間を縫って、あたしに勉強教えてくれたりしてるけど、あたしといえば、
「勉強ばっかでつまんない!」
とか、
「どっか出掛けたい!」
とか、
「ケータイ持ってよ! メールしたい!!」
とかメグに要求してばっかりだったよね・・・
メグは、
「勉強しろ」
以外のことはあたしになんにも言わないのに・・・
メグみたいなパーフェクトな人があたしと付き合ってくれてるってだけですごいことなのに、あたしってばワガママばっかり言って・・・・・
・・・・・何やってたんだろ・・・ あたし・・・
―――明日、ちゃんと謝ろ・・・・・

「え・・・ なんで? やっぱりどっか具合悪かったのっ!?」
メグんちのおばさんが困った顔をしている。
「どうしよう・・・ 真由ちゃんには絶対言うなって言われてたのに・・・」
翌朝。 メグに謝りたくて玄関の前でメグのことを待っていたんだけど、いつまでたってもメグは出てこなかった。
いや、出てこなかったんじゃなくて、もうメグはとっくに出たあとだった。
でも、メグが出掛けて行ったのは学校じゃなくて―――病院だった!

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